夜
すっかり寂れたロンドンを歩く外套騎士はある本の行方を探っていた。
常にそこにあり、どこにも存在しないと称されるそれにはヒトガタに関する知識が書かれているという。
誰がいつ書いたのかさえわからない上に実在するという確証を持てない本など、都市伝説で済ましてしまうのが普通だろう。
隣に歩く騎士に比べると比較的軽装の甲冑に身を包むシャルロッテ・デノンも実際に外套騎士達の中枢を担う組織から指令が下るまで、それらの噂をまったく信じていなかった。
外套騎士というものは、組織から任務を命じられ引き受けた時点で任務の期間中はその難度に応じた給金がされる。
もちろん、期間中に何もせず給金だけを受け取り続けるということも可能だが、任務失敗の烙印は自身の評価に大きく影響し次の指令が来なくなる可能性がある。
シャルロッテは実のところ探し物を見つけることに関しては大の自信を持っている。
しかし、その自信も今は非常に揺れ動いているのだ。
その理由は彼女の隣に歩く、ヴィンランド・ヴァルチャーにあった。
別に彼が頼りないだとか、足手まといだとか、そういうわけではない。
むしろその逆で、他の外套騎士達にに誰を尊敬するかと質問をしてみれば彼の名が確実に挙がるほどの人物だ。
その英雄のような彼がシャルロッテをやりづらくさせている。
シャルロッテは細々と生きるだけの金さえ手に入ればいいという考えの持ち主だ。だから、今回の任務も最後の一手直前で寝かせて、期限ギリギリで達成させようと考えていた。なにより、誰かと組むなんて聞いていなかったため、全てをゆっくり進ませようとしていた。
そんなたくらみをぶち壊したのが彼だった。
と、いっても本当にやりづらい理由は他にある。
ヴィンランドは組織からの評価が非常に高い。よって簡単な指令は彼のところにはいかないのだ。
そんな彼と一緒に任務をこなすということは、つまりそういうことになる。今思えば確かに給金良かったな、とシャルロッテは思い返していた。
噂に聞く通り、本の収集がむずかしいのか。ヒトガタとの戦闘が予想されるのか。それともその両方か。
ねえヴィンランド、とシャルロッテは口を開く。