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「コンちゃん、風邪薬くれる?」
「女将さん風邪?」
「いや、チビが頭痛と腹痛なんだよね」
「なら後で届けますね」
「ありがとうね。 コンちゃんの薬良く効くから助かるわ」
コンちゃんと言われた人物は黒いフードをかぶりカウンターに座っているため他の人間からは顔は伺えない。
宿屋の女将が食堂で食事をする小柄な人物に声をかけると、幼さの残る声で答えた。
わたしはお世話になっている宿屋の女将さんから頼まれ部屋に戻り薬を調合することにした。
アイテムボックスから器材を出し薬剤を調合すれば簡単に作れる。
ここに来て二ヵ月。
だいぶ生活にも慣れた。
怒涛の日々もやっと軌道に乗り生活のペースが掴めてきた。
わたしこと、紺野沙絢は今年大学生になり、自宅通学でバイトしながら通っていた。
普通に大学行ってバイトして、普通と言われる生活をしていたのだが、バイトから帰って家のドア開けたら異界にご招待された。
「おおぅ!!スゴ!玄関開けたら異世界だ!!」
ありえない展開に冷静な判断は霧散している。それよりもワクワク感に楽しむ様なドキドキにテンションが上がる。
その手の小説や漫画も読むから知っているが当事者になるとは!!!
(ありえないよねー。異世界トリップだよ!?信じらんないねー!)
ドアの先では大自然の中、切り株の上で半透明の人物?がふよふよ漂っている。不敵な笑みを浮かべる男性を呆気にとられて見つめていた。
プラチナブロンドの髪にペリドットの瞳、白い肌に整えられた眉、彫りのある目鼻立ちは、美形としか形容できない容姿。中世の様な装いで妖美に笑っている。
(半透明だよ?浮いてるよ!浮遊霊か!?イケメン美青年だけどね!超眼福です!!)
『召喚しちゃってゴメンね?驚いたよね。ちょっと頼みごとがあって呼んじゃったんだー』
ちょっと買い物行ってきてー。みたいな感じに言ってますが、異世界ですよ?気軽にするにも程があるでしょー!!
「なんで私!?召喚って!?っていうか課題終わらせたいんだけど?イキナリは困るから一旦家に帰して!!」
『ごめーん。今は無理かな?終わったら戻れる予定?』
気軽に話すその浮遊霊?は呑気な口調だ。
ただその瞳の奥に射す鈍い光に気が付けなかったのが全てを後悔する時まで知る由もなかった。
『僕はね、この世界の精霊王なんだ。ちょっと困った事態でー、異世界人じゃないと出来ないことを頼みたいんだー』
いいかなぁ?と小首を傾げる姿はイケメンなので眼福。だが、言ってることは聞けません!
「内容聞いてから考えるのは有り?」
『ごめーん。無理なんだ。最初で最後の召喚だからやり直し不可ねー』
「元の世界に、元の時間に戻れる?」
『一応、契約事項に入れるよ?』
浮遊霊もとい、精霊王はのたまう。
この大陸は魔術が横行し過ぎて精霊が枯渇してきている。
精霊が絶滅する前に精霊を眠らせないと大陸全土が不毛の大地となり滅ぶ。
神より神官に神託してもらったが聴かず魔術師達は精霊契約を解除しない。
『魔術師達の精霊契約の強制解除をお願いしたいんだ。知識も言語も魔術も渡すからチャチャッとやってくれる?』
その口調は、そこ掃除しといてー。と言うバイト先の先輩の口調に似ていてなんだかムカつく。イケメンだけど。
『あの大陸から全ての魔術師が消えたら帰れる契約になるんだけど、いい?』
不条理な契約だが、終わらないと帰れないと不承不承受け入れた。
精霊王の妖艶な微笑に釘付けになりながら異世界へ落とされた。