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「痛み止めを二つくれ」
「はい」
代金を受け取り薬を渡す。
街のはずれでひっそりと露店で薬を売るのは、外套を目深に被り、顔は分からないが声から幼さが感じられる。
街はずれの薬屋は日暮れ前に店仕舞いをし忽然と姿を消す。戦火で疲弊する村や街では薬売りは貴重な存在で定住を望まれるも薬草を各地で探す薬屋は店舗は持たず流浪の旅を続ける。
ここはまだ戦地より遠くあまり影響が少ない街。魔術が発達し街並みも整えられ、発展途中の西洋の様相を醸し出している。舗装された道路に馬車が走り、剣を携えた警邏が巡回している。
「今日もまあまあの売り上げかな?」
宿屋の部屋で売り上げと在庫確認をして一階の食堂に向かい食事を済ます。
食堂で聞こえる人々の話は国情勢と戦さの話ばかり。
『また精霊が使えない範囲が広がったらしいな』
『東からだんだん広がっているんだろ?』
『原因不明らしいが、どうなるんだろうなぁ』
『それより戦さだろ?』
『作物も不作だし、天災も酷い今、争っている場合じゃないだろうにな』
東の国シーガ国は何者かに精霊封じをされたらしい、との噂話。
シーガ国ではなぜか魔術師達が精霊契約を強制解除され術が使えなくなり、他国は勝機とシーガに攻め込むも自軍も精霊術が使えなくなり睨み合いになった。
他国も精霊術が使えなくなるのを恐れ警戒し剣士や傭兵の確保に奔走する事になった。
シーガ国の南に位置するザサウ国も、東との国境付近から段々と精霊が使えなくなっている。
北にあるウーノス、北と南に挟まれる西の国スウェートも精霊封じを警戒し戦さどころでは無く、各国原因を追求していた。
魔術封じられた地域に行くと魔術師から精霊が強制解除され術式が使えなくなり再契約も出来なくなる。魔石で術式は使えるが精霊術式には及ばず、魔術の使えない魔術師など使い物にならない。剣士か元魔剣師が今の戦力となる。
魔術封じの範囲が徐々に広がり膠着状態となった国境付近は、戦さに怯えていた国民達にしばしの安寧をもたらしていた。精霊を解放させられ戦争が下火になったのはある意味何という皮肉だろうかと人々の心内も複雑だった。