後日談・2
薬運びは正式にユークレイの仕事になったらしい。
貴重な薬草を狙い盗賊も来るから騎士団で運ぶのが一番らしいです。
ま、運ぶのが白騎士近衛騎士団長ユークレイ・フロストと知って襲う馬鹿はいないから、いい番犬なんだろうけどね。
でも運ぶ以外でもここに来るのは、仕事サボってません?
「きっちりと仕事は片付けてますよ。貴女に会うためなら時間に惜しみ無いですから。邪魔な仕事は素早く片付けます」
爽やかに笑ってますが、片付け、が別の意味の片付けに聞こえてしまうのはトラウマのせいか?
自分が部屋の主人かと思う程ユークレイはこの部屋で優雅に椅子に座り寛ぐ。ユークレイに対し怪訝な表情を浮かべるわたしを困った顔で見つめている。
「貴女に会うためなら、何でもします」
小っ恥ずかしいセリフを面と向かって言える貴方は勇者だと、言うとユークレイは、それだけは言われたくない言葉です、と厳しい顔つきになり眉間を曇らせた。
初めて見る顔つきに気後れし、間を置いて謝罪したら、貴女のせいではないのに、すみませんと、萎れたように肩を落としたユークレイに謝られた。居た堪れず、薬草を花茶でブレンドした薬花茶を出して間をつないだ。
ユークレイ相手に機嫌取りなんて、そこまでして持て成さなくてもいいのに?と思わず自問自答していたが答えは出ないので保留にしてお茶を飲んだ。
「ホッとする味ですね。貴女が淹れるお茶は香りも癒されるので好きなんです」
「お点前お褒め頂き恐縮です」
堅苦しい言い方はやめて頂けませんか?と上目遣いで眉を寄せるその顔は困り顔なのに色気が漏れる。いや、盛れる仕様か?!
何だか見つめられ居心地が悪い。目線を逸らし、お茶を口にして薬草と花の香りで自分を落ち着かせた。
(なんでこっちが振り回されなきゃならないのよ)
こちらの心情など御構い無しに目の前の美丈夫は優艶に微笑んでいた。
往復に時間がかかるから滞在時間は長くない。その時間いっぱいまでわたしの側にいる。
その意味を気がつかないように、紛らわすように薬を乳鉢に入れ擂った。
神殿で参拝者に祝福を与え、具合の悪い者に薬を渡し、在庫が少ない物を調薬室で製薬をする。
そして毎度の如く背後から近づく人物。
「貴女に会いに馳せ参じました」
近づき、髪を一房すくい口付けをするユークレイを溜め息混じりに息を吐きながら振り向けば、柔和に微笑み佇んでいる。
「背後からやめてね………」
「それは失礼いたしました」
戯けるように肩を竦ませるユークレイを半目で睨む。それを他所にいつもと同じく隣に座るユークレイに何を言っても無駄か、と諦めて薬草の仕分けをする。
「イテッ」
乾燥して尖った茎が棘となり指先に刺さった。
すかさずユークレイはその指を掴み棘を抜き取り出しハンカチでプクリと膨れた血を拭いた。
貴女の血はもう見たく無いですと、苦渋の色を浮かべ目を翳らせた。
「貴女に剣を突き立てた自分が許せない。もう貴女に一筋とて傷をつけさせたく無い」
そう言葉を続け、わたしを見上げると掴んでいた手を両手で握りしめた。
会うたびに後悔と懺悔を口にするのは辞めましょう。
熱の篭る瞳で見るのも止めましょう。
このイケメンめ!
ドキっとしても、ソレは勘違い。
吊り橋の勘違い。
そう自分に言い聞かす。
「貴女を護るのは私だけでいい」
歯の浮く言葉をありがとう。でももう大丈夫です。気にしないでください。
来るたび、来るたび、もう充分です。
「貴女の側で貴女を護りたい」
と言ってますが、もう大丈夫です。心配しなくても大丈夫です。ユークレイさんが気にしなくても大丈夫です。
分かって欲しいので、三回言いました。伝わってます??
口説き文句のような懺悔ってなんですか??
勘違いしちゃうじゃない。
吊り橋効果が高いにも程があるわ。
「精霊王に遣わされたのが貴女で良かった」
いつものように隣に座り言葉を紡ぐ。
勘違いしない。
吊り橋効果。
呪文のように唱え平静を装う。
平静を……装えてる?
吊り橋勘違いの発動阻止がわたしの目下の目標か。




