お題SS ~5時間以内に11RTされたら、剣と魔法が存在する世界観でお互い好きあっているが、素直になれない谺響の小説を書きます~ 完結編というか、後半部分というか、むしろお題部分←
以前投稿したお題SS http://ncode.syosetu.com/n0274da/
こちらの後半パートになります。まずはそちらをお先にどうぞ。
今度はちゃんと真面目にお題に則っています。決闘はありません←
代わりに年齢制限タグが必要かどうか、やや際どいところです。
その晩。
無事にオークの群れを退け、村ではささやかな祝勝会が催されていた。
この村で作られる酒はとにかく美味いが、戦いに勝った後だとなお美味い。但しかなりアルコールが強いので飲み過ぎには注意だ。会の主役とあっては注がれる酒は拒めないが、ほどほどのところで席を辞す。上機嫌で杯を空け続けるアルゴスの女魔術師をその場に残してきたので、宴の勢いは衰えることはなく、明るい笑い声が我が家へと続く暗い夜道を照らしていた。
家に戻るとパールは大人しくベッドで寝ていた。もっとも、足が折れているおかげで当分は安静にしているしかない。傍らに控えていた沈黙の付添人が黙礼して席を外す。
テーブルの上の大皿から溢れる、フェアリーの大群の無邪気な声だけが室内に木霊する。ちなみに彼女たちは現在、その大皿の中で酒池肉林を堪能中だ。もっとも、彼女たちにとって酒にあたるのは甘い蜜であり、それをきゃっきゃうふふと言いながら文字通り頭から浴びてくんずほぐれつ舐め合ってるとか、それもう、なんて楽園ですか?とっても混ざりたいんですけど?やっぱ、招待状とか必要なんですか?いや、その聖なる蜜は俺が用意したんだから、当然俺にもそこに加わる権利はあるよね???
と、我を忘れて飛び込みたいところだけれども、ベッドの上の怪我人の手前、血の涙を呑んで自重する。
「宴会料理、貰って来たぞ。少しは食っておけ」
「……要らない」
彼女にしては珍しく、俺からの申し出を拒絶した。弱々しい声も彼女らしくない。枕元に歩み寄ると布団を頭から被って頑なに拒む。そんな態度を取られると、こちらとしても気遣ってやるのが馬鹿らしくなってくる。
「俺に何か言うことがあるだろう?」
冷たく言い放つと、がばっと布団を跳ね除けて、呆れるくらいに予想外の答えを返してきた。
「純潔は守り通したんだからねっ!」
「……相手にされなかっただけだろう?」
余りにも馬鹿馬鹿しくて涙が出てくる。
「お前は「くっ!ころ」とかそんなのがやりたかったのか?一人でオークの巣窟に特攻仕掛けるとか、バカだろ?」
「だって!カキョーがいつも一人でアイツらの相手してるから、あたしだって心配なんだよ!」
「お前に心配されるほどヤワじゃねぇーよ!心配すんのは勝手だが、暴走してんじゃねぇーよ!」
「何よっ!人の気も知らないで……アイツらに捕まってた間、あたしがどんな気持ちでいたか……」
「それこそ知らねぇーよ!自業自得だろ!」
「大体あんた、書置き読んでおきながらなんで家でのほほんとしていられるのよ!信じらんない!」
それまでも大概だったが、その一言に遂に堪忍袋の緒が切れた。
「だ、か、ら、!心配だって言っておきながら人に心配かけておいて?それでとっ捕まったら今度は助けを待つお姫様か?何様だよ、本ッッ当にっ!それで?助けに来るって勝手に信じておいて、今度は信じらんないだ?どんだけ勝手なんだよ!?そんなんだから面倒見きれねぇーっつってんだよ!」
「何よっ、もう!カキョーのアホ!スケベ!!処女厨!!!」
投げつけられた枕をそのまま投げ返す。
「ロリコンだが処女厨じゃねーよ!」
全くもって付き合いきれない。杖と帽子を取ってドアに手をかけたところで背後から声がした。
「ろいこんって、なぁ~にぃ?」
「ひょじょちゅーって、なぁ~にぃ?」
大皿から覗いた6つの小さな頭が揃って小首を傾げていた。
おぅふ。純真無垢な妖精たちになんてことを……
「それは絶対に口にしてはいけない禁断の呪文だ。君たちのお母さんが鬼になってしまう。いいかい?二度と口にするんじゃないよ。分かったかい?」
慌てて両手で口を塞ぎ、互いに顔を見合わせるフェアリーたち。やっぱコイツら可愛いわー。ずっと愛でていたいが、そうもいかない。
「出掛けてくる。そこの我儘姫様をよろしく頼むぞ」
「あいっ!」x6
頼もしい返事を受けて家を出る。外で待っていた沈黙の付添人から荷物を受け取ると、杖に魔力を込め、夜の空へと飛び立った。
切り立った崖の上に降り立つと、木陰から待ち合わせ相手が姿を現した。
「待たせたか?」
荷物を下ろしながら訊ねると相手は首を横に振った。
「こんな月の綺麗な晩だ。待ちぼうけを食っても、気にもならんさ」
声の主は巨体のオーク、ズルゴ。昼間に大立ち回りを演じたその相手だ。
「毎度手間をかけてすまないな」
「本当にあの雌の手綱はしっかりと握っていてくれよ。そろそろ加減するのも難しい。今回もこっちは大したけが人は出なかったが……」
「あぁ、気にしないでくれ。あれは自業自得だからな」
足が折れた程度のことなら、魔法でどうにでもなる。いっそ治療せずに放置すれば煩わしさから解放されるのでは……なんて案もあったが、村人たちの手前、そういうわけにもいかなかった。何だか自分がツンデレキャラっぽい感じだが、これも処世術だ。
荷物から一つ革袋を取り出してその場に腰を下ろす。向かいにズルゴも腰を下ろしたが、元から体格差があるから少し目線が上に向く。
革袋の栓を抜くと、それだけで酔ってしまいそうなあの甘美な香りが鼻をくすぐった。中身を二口ほどあおってから、革袋をズルゴに差し出した。それを受け取りながらズルゴがぼやく。
「この違いが分からん奴らの、なんと不憫なことか」
一年近く前、俺が村にやって来てすぐの頃にこの地に現れたズルゴたちの一団だが、彼らが村に危害を加えたことは一度としてない。ズルゴたちは、村に危害を加えれば自分たちの好物であるあの村の名産の酒が飲めなくなることを理解しているからだ。俺が撃退したという形になっているが、実際のところ彼らが拳を振るう相手は、縄張りを狙う同族と、欲深い酒商人の率いる馬車と、あとは無鉄砲な白髪の女剣士くらいのものだ。
一言で言えば、八百長試合だ。
殺して奪うのが当たり前のオークの間でズルゴたちは体面を保ちながらこうして酒を得続けて、俺は俺でノーリスクで村人たちの、ひいてはアカデミーの評価を得ることが出来る。甘い蜜月関係だ。
「しかし、早いものだな。もう1年か……」
ズルゴの言葉には感慨以上のものがあった。
あと一月もしないうちに新しい生徒が到着し、俺の任期は終わりを告げることになる。この奇妙な友人とももうすぐお別れだ。ここでの暮らしは悪くはなかったとは言え、俺にとっては待ちに待った任期終了であり、せいせいするところもある。一方のズルゴにとってそれは結構真面目に切実で現実的な問題だった。
「毎月酒を寄越せ」などと言って恐喝するのも悪くない案だが、上等な酒を造る村を商人たちが放っておかないだろう。何よりそんなやり方は一般的なオークの間では、「みみっちい」とかで非難や侮蔑の対象になるそうだ。
いっそのこと強奪するにしても、戦闘になればズルゴたちが負けることはまずないだろうが、村の被害状況次第では廃村という線だって十分あり得る。そもそも、村を守って戦うのは男たちで、それは酒の造り手だ。無闇に傷付けられない。
今の蜜月関係を続けられないとなると、ズルゴたちが継続して酒を入手するのは極めて困難なことになるのだ。
「お前さんの後任とやらをブッ殺せば、存外、お前さんが戻ってくることになるんじゃないのか?」
「冗談でもよしてくれ。アカデミーに戻ったらやりたい実験や設計も山積みなんだ」
ズルゴたちなら大抵のアカデミー生は捩じ伏せられるだろうが、任期を全うした生徒が再赴任したなんて例は聞いた試しがない。自分からそんな申し出をする奇矯な生徒はまず、いないだろう。それに、もしそれが可能であったとしても、八百長なんて続ければ続けるほどバレてしまうものだ。いつまでも使える手ではない。その辺りはズルゴも分かってて言ってみただけのようで、笑って流している。
この奇妙な友人に力を貸してやりたいという想いはあれど、現実的に考えて取れる手はほとんどない。
「いっそのこと、思い切ってカミング・アウトしちまえばいいのに」
「それは…………ハァ……」
「ん?」
そこで口ごもるズルゴの胸中を推し量っていると、たっぷりと酒気の混じった溜息がこぼれてきた。
「胸の内を晒してどうにかなるものではなかろうが」
「まぁ、そううまくはいかないか……」
例えばの話、ズルゴたちが「この村の酒にぞっこん惚れこんでいる」と公言し、オークとしての生活を捨てて人間社会に合流するという手もアリなんじゃないかと、俺は思う。世の中にはエルフだとかジンだとか、人間と親しく暮らすモンスターも多く存在する。流石にオークが、という前例は聞いたことがないが、彼らも比較的人間に近い姿形をしているのだから、案外無理な話ではない気がする。用心棒として村に雇ってもらうとか、何かあるだろう。俺が改心させたとか言って仲介すれば、最後にもう少しだけ、ポイント稼ぎが出来るな。
だが、オークの生活を捨てるということは同時にオークの誇りを捨てることになるのだろう。彼らの一団から離脱する者が出てこないとも限らないし、他のオークから「人間に下った」と謗られ、的にかけられるかもしれない。それはそれでまたかなりのリスクを伴う決断になることは間違いない。軽々な発言だったようだ。そこに気が付くと、言葉を継げない。
酒の詰まった革袋を抱えて夜空を仰ぐ。頭上で真円を描く月が綺麗だった。
「ままならないモンだなぁ~……」
「世の中、そんな甘い話ばかりではないということだな。お互い、惚れた相手が悪かったと諦めるしかあるまい」
「確かに。こっちは生涯を全部捧げても全然足りる気がしねぇもんなぁ~……」
それでも。この想いは心の底からの本音だ。そうすると心に誓ったのは、もうずっとずっと昔の話だ。
ズルゴは少しだけ眉をひそめてから、鼻先で笑った。
「罪なヤツだな」
そのまま俺の抱える革袋を取っていくと、満月に向けて高く掲げた。
「我らが赤銅の花嫁に!火と水の祝福あれ!」
たまたまの方も、またまたの方も閲覧ありがとうございます。
今回は以前書いたお題SSの後半部分にして完結編になります。
前半部分がお題カチ無視で決闘してただけなのに対して、今回はお題重視でキッチリ前回の話を回収していったつもりですが、如何でしたでしょうか?
え?終わり方が有耶無耶で釈然としない?
だって、「素直になれない」がお題ですから。
本命ラインなんてバレバレですけど、そんなの明示するワケがないじゃないですか!!
感想、質問、酷評もドドン!っとどうぞ!
閲覧ありがとうございました。