さよならヘビメタ喫茶〜〜テレビにて…〜〜
藤一番テレビ第16スタジオ、朝の人気番組『目覚よテレビ』の現場は独特の緊張感が漂っている。見てる視聴者には伝わらないだろう、生放送という番組の宿命かもしれない。
カメラの向こうには藤きっての美人アナ、高島あや子と中野美奈子が写っている。
「みなこのぉ〜元気のみなもとぉ〜♪」
「アヤパン、アヤパン♪最近寒くなりましたねぇ〜?」
「………」
あや子は全く聞いていないのか、どこかおかしい。美奈子の切り返しに反応できていない。美奈子は肘でこずいた。
「え?あ、うん…寒くなりましたね」
お天気コーナーに移る時も、いつもは元気よく
「あいちゃ〜ん♪」と言うのだが今日はボーとしていて忘れてるようだ……やはりおかしい…
いつもの高島アナではない、皆そう思っていた。どこか上の空である。体調が悪いわけでもなさそうだ。そんな様子で『目覚よテレビ』も終盤、占いコーナーまでやってきた…
「………」
あや子は予想通り、占いコーナーに移る気配はない。隣の大塚アナが肘でつつく。
「え?あっはい?占い……………いや……」
急にあや子は黙り込み下を向いた。隣の大塚アナは目をキョロキョロさせ助けを求める。
そしてあや子は顔を上げた、目が据わっている。いつものあや子ではないのは明らかだ。
大塚アナは恐怖にも似た感情が込み上げる。
そしてあや子はゆっくり話しだした。
「こんな事は本来テレビで言ってはならないことだと思います
でも、少し私事を聞いてください…」
現場全体に緊張が走る。大塚アナは口をあんぐり開け
「ちょっと何いってんの?」と、あや子の肩を揺らすがあや子は気にも止めていない。
「昨日私の大切な人が交通事故に遭いました、その人はヘビメタに命をかけ念願のヘビメタ喫茶を開店させました…………でも今はヘビメタ喫茶に入ることはできません………今、その人は病院のベッドで生死の境をさまよっています」
本来、いちアナウンサーがこんな事をするとすぐにプロデューサーが辞めるよう指示を出すのだが全く指示を出す気配はない。この時プロデューサーは何を思っていたかはわからない…
「視聴者の皆様、お願いです…祈ってください…絶対助かると祈ってください!」
「私と一緒に…祈ってください…う…う…う」
あや子はその場にしゃがみこみ涙を流している。隣の大塚アナはどうしたらいいか分からずプロデューサーの顔を見る。
プロデューサーが立ち上がる。
「おい、『トクダネ』に回せ!」
すぐにテレビの画面は小倉アナのアップ画面になる、小倉アナの滑舌の良い声が響いた…
『目覚よテレビ』のスタジオではあや子が涙をポタポタ流している。中野美奈子が心配そうに見ている…プロデューサーがあや子の前に来る
「高島君、自分が何をしたかわかっているのか?始末書ものだぞ」
あや子が首を縦に振る。
「テレビを私物化するとは、アナウンサー失格だな…」
あや子は何も言わず聞いている、涙が止めどなく流れ落ちる。
「………」
「高島君、涙を拭いたらプロデューサー室に来なさい…」
藤一番テレビ第16スタジオには重苦しい空気だけが流れた。口を開く者はだれもいなかった…
「失礼します」
あや子が扉を閉める。広い豪華な部屋である。シャンデリアがあり、本棚には沢山の書物がある。奥にはパソコンが一台プロデューサーが覗きこんでいる…
あや子はプロデューサーの前に立った、おもむろに胸ポケットから何かを取り出す。
『辞表である』
「高島君やはりそこまでの覚悟か…」
「………」
「はい、ご迷惑をおかけしました…」
あや子は一礼しその場を後に使用とした…
ところが…
「高島君…待ちたまえ、これを見ろ…」
「……まだ何か?」
「いいからこのパソコンを見ろ…」
あや子はパソコンを覗き込んだ。
そこには…
メールである。先程の放送を見て、ヘビメタ喫茶マスターを気ずかうメールが山のようにきている…北は北海道から南は沖縄まで…
あや子の目に涙が浮かぶ
「君のアナウンスでこれだけの人が心を動かされたんだ…」
「………」
「高島君、確かに君のやったことは許されることではない…だけど、今日のアナウンスは高島あや子の歴史の中で間違いなく最高のアナウンスだ」
「………」
「久しぶりに本物のアナウンスを聞いたよ」
「………」
「それが言いたかっただけだ…」
プロデューサーが頭を下げた。あや子は涙が止まらず、その場を逃げるようにして帰った。
アナウンス室に戻る……そこであや子が見た物は想像を越えていた…
すっかり辺りは暗くなってしまった。街灯の光だけが辺りを包む。
看護師たちが横で夜勤の申し送りをしている。
昨日と同じ光景だ。アンナがいくら声をかけてもパパは反応しない。
キングも心配そうに見ている…ICU周辺には昨日と同様、ヘビメタ喫茶の客でひしめきあっている。
そこへ奥から女が歩いてきた、女は全身をバーバリーで着飾り、深い帽子とサングラスを掛ける。これでは顔が分からないバッグはグッチだろうか……
両手には大きいダンボールを抱えている。少し滑稽にも思える。女はアンナの前に立ち、ダンボールを置いた。帽子とサングラスをとる。
「た、高島さん…」
「アンナちゃん、覚えててくれんだ……これを見て 」
あや子はダンボールのフタをとった。そこには何千、いや何万という手紙が入っていた。
「アンナちゃんこの手紙はね全てお父さんを気ずかう手紙よ…これだけじゃないわ、この10倍はアナウンス室に届いてるの…」
アンナの目から涙がこぼれ落ちる。
「日本中のこれだけの人が応援してるんだよ……私自身これだけの反響があるとは思わなかったわ…………」
アンナは声を出して泣いた。嬉しくて、嬉しくてたまらない…あや子は優しくアンナを抱きしめてあげている。あや子も涙を浮かべて
ママもキングも泣いている、周りの人も泣いている、看護師も泣いている、医師も泣いている。
泣き声だけがICUに響きわたっている…
「SORY!!!」
後ろから怒鳴り声が聞こえた!みんなが後ろを振り返る、そこには2人の外人が立っている。1人は髪がモジャモジャでサングラスを掛けた黒尽くめの男…
1人は長身で髪も整っている。白い革ジャンを来ている。
誰一人として会ったことはない…しかし顔は見たことがあった…
みんな信じられない表情で男達をみる…
大抵の事じゃ驚かない高島あや子出さえ言葉がでない…
自然と男達の前には道ができている
一歩、ニ歩とちかずいてくる…
男達はアンナの目の前まできた…
アンナは目を丸くし震えが止まらない…
「嘘でしょう……」
「信じられない…」
「………」
「………」
「ポール・ギルバートとマーティ・フリードマンじゃない!!!!!」
続く…