表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/20

7話◆ミキティと鎖 中編

時刻は23時を回った…ヘビメタ喫茶ではマスターが閉店の準備に取りかかる。カウンター席に女性客が1人……

藤原美姫である。すでに見慣れた光景だ。


「マスターまた私怒られちゃたよ〜、み〜んな私を買いかぶりすぎ!4回転なんかまぐれなのに〜」


マスターは黙って聞いている…


「本当やんなっちゃう、どこ行っても4回転、4回転……それしかないんか!」


「………」


「まぁ…実際問題それしかないんだよね、私には表現力もないし…」


「………」


「ママは『美姫はやればできる子』……だってぇ〜………はぁ……………4回転なんかやらなきゃよかったなぁ…」


「………」


「…………スケートやめちゃおっかなぁ…」


「………」


「辞めちゃえば?」


マスターから思いもよらない言葉が返ってきた。美姫は口をあんぐり開けている………

美姫は小さい頃から親から『継続は力なり』、と教えられてきた………

どんなに辛くても辞める事は出来なかった。美姫にとって『辞めちゃえば』…………

青天の霹靂である……

マスターは食器を置き美姫の横に腰掛けた。


「君はスケートをやっているのか、やらされているのか?」


美姫は無言である……


「ミキティを見てると好きでやってるようには見えない…………私は正直スケートは分からない、ミキティがどんな人かも知らない……………

でも1つだけ言える事がある」


マスターは一本のギターを持ってきた、塗装は剥がれトーンコントロールは割れている、ボロボロである。


「フェルナンデス、ストラトキャスター………

コイツとの出会いが私の人生を変えた……」


「………」


「中学1年の夏、私は女にモテたいがためにギターを買った……最初はそんな動機だった……

でもアンプから流れる音はまるで私に語りかけているようだった…

悲しい時は悲しい音、嬉しい時は嬉しい音が聴こえる、まるで私の心を移す鏡のようだった……」


「………」


「私は次第にエレキに惹かれていった、いつも一緒だった…

そして仲間と一緒に演奏する楽しみを見つけた。私は気が付いたときにはライブハウスのステージに立っていた…」


「………」


「何度もメジャーデビューの話はあった…だけどすべて断ったよ……

なぜなら私はプロになることや、名を上げる事に興味が無かったから、ただギターが好きなだけさ……

ギターと一緒なら何もいらなかった…」


「………」


「ある日、私はいつものようにライブハウスで演奏しているとある老夫婦が目に付いた…

どこにでもいるような老夫婦だ。2人で仲良くコーヒーを飲んでいる。

演奏に全く耳を傾けずに仲良く会話をしている…回りの客は奇声を上げ白目をむき発狂してるのに仲良く会話をしている…………」


「………」


「演奏が終わった後、バンド仲間が私に言った…『あのばーさん達、喫茶店と間違えてんじゃねーの?』……と」


「………」


「そこで私は思いついたんだ、コーヒーを飲みながらゆっくりヘビメタを聞くことができるヘビメタ喫茶を………

次の日、私はバンドを辞めた。そしてヘビメタ喫茶を作る事に没頭したんだ………」


「………」


「私は正直スケートの事は知らない…でもねミキティ人間好きな事をやってる時が一番幸せなんだよ……」


「………」


「自分にとってスケートとは何なのかもう一度考えてごらん」


マスターは美姫の肩をポンと叩き奥へと消えていった。


夜ミキティは布団の中で考えた………

氷の上に何度も転倒した時の痛さ……

初めてジャンプに成功した時の嬉しさ……

スケートが好きで好きでたまらない自分……

いつしか楽しさよりも『勝つ』事に目的が移り点数をとることが全てになっていた…

そして美姫は心の中で自分に言い聞かせた……


『スケートが好きだった頃の自分に戻ろう!』…………と。



美姫は変わった。練習でもジャンプを次々と決める、回りから『4回転』と言われても気にならない、プレッシャーを感じることもない。


12月『グランプリファイナル決勝』、美姫は圧倒的強さで優勝した。

スケート場の外にはマスコミが待機している…


「藤原選手!藤原選手!前回の大会とはまるで別人のようでしたが?勝因はなんですか?」


「勝因ですか?ヘビメタに出会ったことですかね〜」


美姫はさらっと答え歩き出した、マスコミは口をあんぐり開けて固まっている…

この時、美姫はある野望を考えていた、それは女子スケート界初となる試みである……



時刻は23時。ヘビメタ喫茶ではマスターが閉店の準備に取りかかっている。


ガチャ!


扉が開いた。藤原美姫である……

美姫はマスターに歩み寄り新聞を渡した。

新聞には………


『氷上の妖精、藤原美姫復活!』……と大きな見出しが載っている。


「ミキティ頑張ったね」


マスターが言った。美姫は少し恥ずかしそうに笑い、カウンター席についた。


「次の大会……2月の世界選手権、もし私が優勝できたらお願いがあります」


「………」


「マスター、エキシビションでエレキギターを演奏して欲しい!

私はマスターの弾くヘビメタの音を聞きながら演技をしたい……」


「何エキシビションって?」

美姫はエキシビションとは何か説明した。マスターはヘビメタしか興味ないので知らないのです♪


「私はヘビメタ喫茶に出会わなかったら今の自分はありません。そのヘビメタを教えてくれたマスターに弾いてほしい!

ヘビメタを流す事で本当の自分が表現できると思うの………

だからお願いします!」


美姫は頭を下げたマスターは満面の笑みで

「いいよ」と答えた。


後編に続く…

エキシビションでヘビメタ生演奏はトリノオリンピック、エキシビションで生バイオリンを見て思いつきました。


スケートはなぜかクラシック音楽を多用してます。ヘビメタで演技をする選手がいてもいいのに〜ていつも思います。

エキシビションなら良いはずですよね!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ