7話◆ミキティと鎖 前編
藤原美姫は架空の人物です。
8年前…ひとりの天才スケーターが現れた。名前くらいは聞いたことがあると思う、そう藤原美姫である。彼女は15才で女子初となる4回転を成功させ、一躍時の人となった。しかし彼女の苦悩はあまり知られてはいない……
8年前、大須スケート場……
パンッ!…美姫の頬が赤く腫れわたる
「何度いったらわかるんだ!軸が安定してないから跳べないんだ、ちょっとは頭使えよ!」
「……はい…」
「本当4回転跳んだの?信じられないな〜コロコロ転びやがって!!わかったらスケート場にもどって!」
美姫はスケート場に戻った。しかしジャンプは成功せず何度も転倒する。瞳から涙がでてくる……
「はいはいはい、今日の練習は終了!!!
頭使わない奴は
と・べ・ま・せ・ん!」
スケート場の中央では美姫がひとり涙をながし座り込んでいる。どれくらいの時間が流れたか…
美姫は涙を拭きスケート場を後にした。
「藤原選手!藤原選手!NHK杯の敗因は何ですか?4回転挑戦しませんでしたね?自分に足らないものなんだと思いますか?」
マスコミである、美姫は逃げるように帰った。帰り道、コンビニに立ち寄る。
「120円になります………あの藤原美姫さんですよね4回転の?」
美姫は軽く頷いた、回りも
「4回転の美姫だ」
「本当だ4回転娘だ」と騒いでいる、美姫は逃げるようにして帰った。
4回転を成功させてから美姫の生活は変わった。期待の新人ということでスケート連盟からは一流コーチを付けた。毎日マスコミが追いかけてくる…
回りの人も
「4回転」と声を掛ける。美姫は人間が信じられなくなってきていた。
翌日
「ミキティ……最近疲れてない?」
ここは中京高校、美姫を4回転と騒ぐ輩がおおいなか彼女だけは違う。
「ありがとうね。純子…大丈夫だよ」
彼女の名前は八木純子と言う。美姫の幼なじみで大親友である。回りの生徒は4回転と騒ぎ、見る目が変わってしまったが純子だけは今まで通り美姫と接してくれる。美姫にとっては純子との会話が何より心休まる場面である。
「ネェ、ネェ〜ミキティ私、昨日面白いもの見つけちゃった!ミキティ、帰り見てかない?」
見てきたいのは山々だが美姫はスケートの練習がある。美姫は純子の誘いを断ろうとしたが……
「ミキティ!たまには息抜きも必要だよ!最近ずっと練習じゃん…」
純子は少し怒ったような口調で言った
「………」
「……ねぇ、行こ?」
「…………そうだね!行こう!練習なんかさぼっちゃえ♪」
純子は笑顔でヨシャ!と言い学校を後にした。
2人は20分ほど歩いた美姫の足が止まる…
「……純子、まさかここが面白い所?」
美姫の前には黒塗りの建物があり、ドクロが無造作に並んでいる、見上げると『喫茶HML』と書いてある。純子は美姫の顔を見た。
「ミキティは世間知らずの所あるから…世間にはミキティの知らない所もいっぱいあるんだよ、ここの人たちは誰も美姫の事知らない…気分転換にはいいと思うよ」
純子の言うとおりである、美姫は物心のついたときからスケートをやっていた…いややらされていた。スケートだけではない書道、英語、ピアノ、バイオリンもやっている友達と遊ぶ時間もなかった、音楽はクラシックしか知らない程のお嬢様なのだ。
美姫は少し考え込みわかったと言い階段を登る…純子はドアノブに手をかけた。
ガチャ!
「キシャアアヤアァオーーー!!!!!」
突然、白塗りの化け物が奇声を上げた!顔中ピアスの化け物は唾液を垂らし白目をむき2人を凝視している。美姫は恐怖で震えている。
「マッスター♪美姫はヘビメタ初心者だから驚かさないでよ〜♪」
純子と化け物は楽しそうに談笑している。その光景が美姫にとっては滑稽でならない、化け物は2人をテーブルに案内する。
「なかなか変わったお店でしょ?」
純子が言った。美姫はキョロキョロ落ち着きのない様子だ…
美姫にとっては初めて目にする物ばかりである。耳をつんざく低音リフ、6本の弦でできたエレキギター、全身白塗りの人間……美姫はまるで異次元に来たような不思議な感覚になった。
横を見ると純子がメニューを見ている……
「ミキティ、ショジョハンでいいかなぁ?」
「え?何?ショジョハンって?」
「鉄の処女ハンバーグの略だよ〜知らないの?」
美姫は自分が常識無いのかなっと思った。注文して10分ぐらいで先程の白塗りの化け物が料理を持ってきた…
美姫は目を丸くさせる、人型ハンバーグである。さらに化け物はトマトと金具を手に取った…
金具はトマトがすっぽり収まるような円柱状だ。周りに無数の穴があいている、下には鋭い針…
上を見ると取っ手がついていてピストンさせる仕組みになっている。化け物はトマトを金具に押し込む…
「キシャアアヤアア!」
突然の奇声と共に力任せにトマトを潰し始めた、グチャグチャになったトマトが人型ハンバーグにベットリ張り付いた。トマトを潰し終わると化け物は頭を下げ奥に消えていった。美姫は不思議と恐怖、気持ち悪さは感じなかった。
2人はゆっくり食事を食べる…意外にうまい♪
すると純子が優しく話し出した。
「ミキティ、ここの人たちはね藤原美姫の事知らないよ、ここの人たちはヘビメタしか興味ないからね」
純子の言うとおりだった、一度も4回転の藤原、4回転娘…と言われてない…美姫は久しぶりにスケートの事を忘れ大声で笑うことができた。美姫は次の日もヘビメタ喫茶に通った…
その次の日も
その次の日も
その次の日も
ヘビメタ喫茶に通った。気が付いた時には『ヘビメタ許可証』を持っていた…
美姫にとってヘビメタ喫茶に居るときこそが4回転の藤原美姫から女子高生藤原美姫に戻れる瞬間だった。
次第に美姫はヘビメタ喫茶に自分の居場所を求めていくようになったのだった……
そして美姫は女子スケート界の歴史に残るとんでもないことを思いついてしまう…
中編に続く…