新しい仲間
「よう、黒さん。元気かい?」
「おお、潤さん。あんたも元気そうだねえ」
橋の下で男達は集まる。みんなこの界隈のホームレス達だ。
「俺は膝も腰もガッタガタさぁ」
「なんだい。潤さんもよる年波には勝てないか」
「それよりも今日は黒さんに良いもん持ってきたよ」
潤さん事、鳥居潤はポケットからワンカッブを取り出す。
「そんな勿体無い! 俺は良いから潤さんが飲んでくれ」
「何言ってんだ。この辺のホームレスはみんな黒さんに世話んなってんだ。たまには恩返しさせてくれや」
「なんだったら俺が頂こうか」
隣に居たホームレスが手を伸ばす。それを潤さんは叩いた。
「おめぇは駄目だ。飲ませたらロクな事しねぇ」
「分かった。せっかく持ってきてくれたんだ。ありがたくご馳走になるよ」
黒瀬はワンカップを受け取ると一口飲む。
「かぁ~っ! いつ以来のご馳走だろうね。さぁ、みんなも一口ずつ飲んでくれ」
「ヤったぜ! そうこなくちゃ」隣の男が手を叩いて喜んだ。
「全く、黒さんも相変わらずだねぇ。でも元気そうで良かった」
「もしかして潤さんにも話が届いてるかい?」
「あぁ、最近何やら弱気になってるて? どっか悪いのか?」
「いゃあ、そういう訳じゃねえんだ。ただお迎えがね、近付いて来てるのが分かるんだよ」
「何言ってんだい、俺より若いのに。順番は守って貰わなきゃ」
「潤さんなら元気過ぎて、迎えに来た死神も逃げちまうよ」
二人で一頻り笑うと潤さんはまた真顔になる。
「黒さん。本当に何か感じるところがあるのかい?」
「それについては俺もずっと、ずっと考えてたんだよ。でも分かる瞬間ってのが来たんだよ。理由も分からずに、フッとさ」
「確かに俺達も若くないしなぁ。いつお迎えが来たっておかしくないさね。でも明るくいこうや」
丁度その時、黒瀬の胸元にワンカップが戻ってきた。
「黒さんあんがとよ。残りは黒さんがヤッちまってくれ」
「全部飲んじまって良いのに。みんなもう良いのか?」
「良い良い。十分ご馳走になったよ」
黒瀬は受け取り一気に飲み干す。みんな黒瀬を中心に笑い合った。
「ずいぶん遠回りしちまったかな」
「ん? 黒さん何か言ったかい?」
「いやいや、気にしないでくれ」
本当にここへ来て良かった。黒瀬は心の底からそう思った。
その場がお開きになると黒瀬は川縁へ座り水面を眺める。辺りは誰も居らず、サラサラと流れる水の音しか聞こえない。
そう言えば、あいつは静かな場所が好きだったか。川面へ向かって黒瀬は微笑んだ。
「この年でやっとお前の気持ちが分かった気がするよ。思ったより清々しい気分だな」
みんな良い人ばかりね。
「俺の周りには気の良い奴ばかりだからさ。未練も何もないよ。お前も本当に未練はなかったのか?」
未練なんか無いわ。お母さん達も優しかったし。
「そうか。そうだよな。学校の中だけが世界じゃないもんな。俺はそんな当たり前の事に気付くのに随分時間がかかったな」
私もお母さん達が支えてくれなかったらどうだったか分からないわ。
「良い家族で良かったよ。でもそんな家族と別れるのは辛くなかったか?」
私は心の準備をしてたもの。でもお母さん達はそうじゃ無かったから……。
「やっぱりお前は強いな。俺も色んな奴見てきたからさ、本当にそう思うよ」
もう、……そんなに褒めてどうする気?
「しかし、こうやって並ぶとジジイと孫みたいだな」
フフッ、そうね。でも私は年上派だから安心して
川面に、そして黒瀬の瞳に老人の隣で笑っている少女を映し出した。
「お前の笑顔初めて見たよ」
綺麗な秋空が赤く染まり始める。本当に黒瀬が少女の隣に立つのはもう少し後の事。最後はとても満足そうな顔をしていたと潤さんは仲間に話していた。
最後まで読んで頂きありがとうございました。
色々な事を試した作品で内容はもしかすると……。
今までの作品とはまた違った感じになりましたので楽しんで頂ければ幸いです。