用済み
「それじゃあ、この話はコレで終いだな」
「ちょ、ちょっと待って下さい! これじゃあ他の兄貴達に何て説明すれば良いか分かんないッスよ」
やっぱりそう言う事か。
「知らねえよ。俺も兄貴達には何度も現場離れたくねぇってのは言ってんだ。後はてめえで考えろ」
「それじゃあ幹部になっても現場で働ければ問題無いって事ッスよね」
「おめぇ、兄貴達から聞いてねえのかよ。幹部にするから一線から退けって話なんだよ」
「そうなんスか。でも何でなんスかね?」
「そんなもん俺に聞くんじゃねえよ」
恐らく俺を持て余しているんだろう。すぐに危険な事へ首を突っ込むし、色々ヤバイ事もこなして来た。ここで下手を打たれるとマズイ。俺の顔と名前は売れてサツにも目を付けられている。
もしサツに捕まるような事があれば組にとっても危険だ。それに名前だけで十分利用価値はある。あえて危険な橋を渡らせる必要はない。俺とは全く利害が一致しない。ただそれだけの話だ。
「でも良いんスか? 兄貴達に怒られねえんスか?」
「ガキじゃねえんだ。そんなもん知るか」
「いや~、兄貴しびれますね。自分、憧れるッス」
横井は黒瀬に笑顔を向ける。黒瀬は煙草を取り出すと横井が火を点ける。黒瀬が煙草を吸うのを横井は笑顔で眺める。……暫しの沈黙。
「おめぇ用が済んだら帰れよ」
「そうッスね」
横井は腰を上げようとして動きを止める。
「ちょっと待って下さい! まだ兄貴達になんて言えば良いか分かんないッスよ」
「だから知らねぇってんだろうが」
「じゃあ、何でそんな現場ヤりてぇんスか?」
黒瀬は煙草の煙を大きく吸い込む。また最初に戻るのか。
「一言で言えねえからツマンねえ昔話したんじゃねえかよ」
「あぁ、そうッスよね。いや~、自分一度寝るとすぐ忘れちゃうんスよね。すんません」
やはり寝てたんじゃねえか。もはや怒る気にもなれない。ヤレヤレ。
「それじゃあ何とか兄貴達に報告してみます。あざっス」横井は頭を掻きながら立ちあがると頭を下げた。
「……そう言えば、てめえ兄貴達に内密で聞けって言われなかったのか?」
「あっ! 言われたッス」
「完全にバラしちまってんじゃねえかよ」
「あ~、バレちゃってます?」
「バレてるっつうか……」
黒瀬は深い溜め息が漏れる。本当にこいつは馬鹿だな。
「自分で言っちまってんじゃねえか。もっと気を付けろ」
「はい! 気を付けるッス」
頭をヒョコヒョコ下げながら部屋から出て行こうとするが扉の所で振り返った。
「……ところで兄貴は死にたいって事なんスか?」
「うるせえ! さっさと行け」
黒瀬はテーブルに置いてあった煙草の箱を投げつける。横井は首をすくめて躱すと、そそくさと部屋を出ていった。黒瀬はソファーの上で横になる。
「そんなの俺にもわかんねえんだよ」 黒瀬は天井に向けて呟いた。