三学期、そして今
始業式の日、学校で全体集会があった。そこで初めて吉川が死んだ事を知った。
十二月二十九日に交通事故で死んだらしい。俺があいつを最後に見たのはクリスマス後だからそのすぐ後の事だった。
あいつを探して街をブラついてた時も、救急車を追いかけた時も、あいつはもう居なかったんだ。
ニュースでもチラッと流れていたらしい。だが俺はニュースなんか見ないし、街をブラついてほとんど家に居なかった。だから知らなかったんだ。
ニュースを見た奴はあいつが道を歩いている所に車が突っ込んできたんだと言っていた。俺も一度現場に行ってみたがまだ血の跡が残っていた。塀にも地面にも近くの電柱にも。
俺はあいつが顔面血まみれにして死んだんだと思ったよ。あの時見たように顔を真っ赤に染めて。誰かに聞いた訳じゃないから確かじゃないけどな。
あいつは俺に自分が死ぬと言った時からこうなる事は分かっていたんだ。もしかするとそのずっと前からかもしれない。それでもあいつはいつもと変わらなかった。ただ毎日一人で静かに座っていた。そんな事出来るもんなのか?
一人の少女が自分の死を知って、受け入れて、黙って迎える。そんな事あって良いのか?嫌だ、怖い。死にたくないって泣き叫ぶのが普通なんじゃねぇのか?
あいつの死を馬鹿にする奴も居た。そりゃそうだ。イジメられっ子は死んでもイジメられっ子だ。みんな笑ってたよ。だから俺がそいつを殴った。何度も何度も。ヒンヒン泣いても殴るのを止めなかった。
クラスの中で俺を止められる奴は居なかった。先公が二人がかりでやっと俺を引き離した。勿論俺は退学になった。
俺は後悔した。そいつを殴った事にじゃない……。もっと早くそうしなかった事にだ。そうすれば吉川も少しはマシな学校生活を送れていたかもしれない。それにどっかの馬鹿が顔をボルトで留めなきゃならねえほど殴られなかったかもしれない。
俺は何故あいつが自分の死を知ってしまったのか、知らなければならなかったのか納得いかなかったんだ。普通はそんなもの分かるハズが無いだろ?
だが後で病人や怪我人が自分の死を悟る事もあるらしいって事を知ったんだ。でも吉川の場合はどうだ? そんな事あり得るのか?だから俺は知りたかった。
それから俺は死に近付こうとした。そうすれば俺にも分かるかと思ったんだ。
危険な事、ヤバイ事に手を出し始めた。それで気が付けばこんな風になっちまった。死ぬかもしれないと思ったのも一度や二度じゃない。だが自分が死ぬと分かる事はなかった。現に今も生きてるしな。だからだよ。
そこで黒瀬徹は横井浩太を見た。横井は口を開けて寝ている。
おいっと黒瀬が言うと横井はビクリと目を覚ました。横井は辺りを見回すと状況を思い出したようだ。姿勢正しく座り直して目を瞬かせる。
「てめぇ、今寝てただろう」
「いえ、起きてたッス! もうバッチリ話し聞いてたッス!」横井はブンブンと首を縦に振る。
「そうかよ。じゃあそう言う事だからな」
黒瀬は手に持った煙草を揉み消す。
「え~っと……、結局どう言う事ッスかね」
「だから俺は幹部になる気はねえんだよ。ちゃんと聞いとけ」
「いやマジで聞いてました。ホレた女が死んじまって…」
「別に惚れてなんかねぇよ!」
黒瀬は机を叩くと横井は5センチ程飛び上がった。
「そうなんスか?」
「そうだよ」
横井はチラチラと黒瀬を見る。
「……じゃあ、何でッスかねぇ?」
「てめぇやっぱ聞いてなかったな。もっと危険なヤマを踏みてえんだよ! 分かったか」
「はい! そうッスよね。俺ももっと血みどろの戦いっつうんスか?そう言うのに憧れて入ったんス」
こいつは馬鹿だ。黒瀬がそう再認識させられるのは何度目だろうか。