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冬休み

 冬休みに入ったらそんな事はすぐに忘れちまった。仲間とバカやるのに忙しくてな。だがある日、仲間と別れて帰る途中、偶然吉川を街で見掛けたんだ。


 俺は一瞬ドキッとした。だがあいつは学校に居た時と変わった所は無い。相変わらず無表情で一人だった。ただ制服じゃ無くて白いワンピースにコートを羽織ってた。


 俺はそれを見て何故こんな奴にビビッていたのかと思った。妄想と現実の区別がつかない奴等は腐る程居る。あいつに死の影を見たのも気のせいだ。そう思った。だから俺は吉川に声をかけちまった。


「吉川、まだ生きてるみたいだな」


 吉川は俺を見てビックリしてたよ。ただ目を丸くしただけだったがな。それだけで俺はあいつに勝った気がした。あの無表情女を驚かせてやったよってな。


「そうね」


 吉川は俺の方へ振り返りそれだけ言った。後は俺をじっと見詰めてくる。多分あいつは何か用事があって話しかけられたと思ったんだろうな。だから俺は困った。用事なんて無いしあいつは黙ってこっちを見てる。


 今思えば何も言わずにそのまま帰れば良かった。吉川に背中を向けて二度と見なければ良かった。


「やっぱり死ぬなんて嘘なんだろ。くだらねぇ妄想だったんだろ?」


「普通に考えればおかしな話よね。……でも分かる。それにそんな遠い話でもないのよ」


 吉川は肩をすくめて見せるとまた歩き始めた。あいつは自分でも不思議がってたんだ。


 吉川の言ってる事なんか全然信じてなかった。ただの厨二病。それは疑っていなかった。


 俺はその背中が小さくなっていくのを見ているとどんどん不安になった。あいつには言いようのない不吉さがあった。


 小さい頃、初めて親戚の葬式に行った事を思い出した。良く遊んで貰って大好きだった叔父さん。棺桶の中で横たわっているのを見て、悲しさとか寂しさなんてものは吹っ飛んじまったあの時の事を。そこに死が横たわっているのを見て背筋を凍らせたあの感覚。吉川に抱いたのはそんな感覚に似ていた。


 それから俺は今まで以上に遊び歩いた。無駄に街をブラつく事も増えた。ただジッとしてられなかったのかもしれないし、当時は別に気付かなかったがもしかすると吉川の事を探して居たのかもしれない。


 冬休みの終わり頃、一月の四日とか五日頃だと思う。その日も街中をブラついていると救急車が走っているのを見掛けたんだ。俺は救急車を追いかけた。ひたすら走った。何か考えがあった訳じゃない。ただ追いかけずにはいられなかった。救急車はノロい運転だったがそれでも走って追い付けるわけもなく、俺は救急車を見失った。


 俺は初めて早く学校が始まれば良いのにと思っていた。

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