畏怖
次の日俺が教室へ行くと吉川はいつもと変わらずに一人で座っている。周りには誰も居らず、あいつの方を見ようともしない。
次の日もその次の日も吉川は一人で静かに座っているだけだった。
ある日、俺がまた屋上前へ行くとそこにまた吉川が居た。あいつは俺が来た事に気づくと黙って階段を降りて行った。やっぱり気に入らねぇ。お高く留まりやがって。だからつい声を掛けちまった。
「死ぬんじゃなかったのか?」
俺がそう言うとあいつは振り向いた。相変わらず無表情のままだ。
「……ええ、そうよ」
「さっさと死ねば良いじゃねえか。どうせ自殺する勇気なんかねえんだろ?馬鹿じゃねえのか」
そこでやっとあいつは表情を変えた。それは片眉を上げ、何を言ってるの?そんな表情だった
「自殺なんかしないわよ」
俺はあいつが何を言っているのか分からなかった。
「……お前、自分は死ぬって言ったろうが」
「別に自殺なんかしなくたって……」
人は死ぬわ。
一瞬、あいつの顔が赤く染まったように見えた。ダラダラと頭から血を流して赤く。
気が付けばあいつは何事も無かったように階段を降りて行った。俺は暫く馬鹿みたいに突っ立ってた。屋上前がいつもよりも寒く感じたよ。
それから俺は吉川を避けた。他の奴等みたいに無視したんじゃない。避けたんだ。俺はあいつに死の影を見た気がして。あいつ自体が『死』そのものに見えて薄気味悪かった。ナイフや鉄パイプは怖くなくてもひょろい女にビビッちまった。
だから冬休みになるまであいつには近付かなかったし、屋上前にも行かなかった。お陰で真面目に授業へ出るハメになった。いや、『真面目に』では無かったか。