出会い
俺はいつものように屋上に向かった。授業をサボる為だ。屋上は年中封鎖されているから正確に言えば屋上に出る扉の前だ。この学校の一番てっぺん。そこは誰も来ないのでケツが冷えるのさえ我慢すればサボるにはもってこいだ。
だがその日は行ってみると既に先客が居た。その顔には見覚えがある。確か同じクラスの吉川詩織。クラスメイトに『確か』と言わせるほど影が薄い奴。俺が名前を覚えていたのはあいつがイジメられているからだ。
だがそんな事に興味ない。自分のお気に入りの場所に何故こいつが居るのか。それだけだ。
そいつは膝を抱えたまま、チラリと俺を見たが何の反応も無し。また自分の爪先を見つめ続ける。俺は気に入らなかった。俺はそいつと少し距離をおいた場所に腰を下ろした。
俺は自分のスマホをイジリながらそいつの様子を盗み見た。俺が来た事は分かっているハズ。既に不良のレッテルを張られ、普通の奴なら俺を避けていく。そんな吉川がますます気に入らなかった。
授業開始の鐘が鳴り始めた。それでも吉川は動かない。
「おい、さっさと教室行けよ!」
俺が言うとやっとそいつは腰を上げた。そのまま無言で階段を降りて行く。何から何まで気に入らない奴だった。
次の日もまた俺が屋上前に行くと吉川もそこに居た。
「てめえ、邪魔なんだよ。どっか行け!」
あいつは俺を見ても眉ひとつ動かさない。それでも黙って立ち上がり、そのまま階段を降りて行く。そんな吉川に追い討ちをかけた。
「イジメられてイジケてんじゃねえよ。そういうの見るとムカつくんだよ」
あいつは階段の踊り場から俺を見上げる。
「……別にイジケてなんか居ないわよ」
「イジケてんじゃねえかよ!だからこんなとこ居るんだろうが」
「ただ静かな所に居たかっただけよ。それにイジメなんてどうでも良いわ。どうせ……」
死ぬんだから。
俺は誰も居ない踊り場を見つめていた。あいつは自殺するつもりなのか? 吉川の終始無表情だった顔がチラつく。
「死にたけりゃ勝手に死ねば良い」
俺はそう呟いて自分のスマホを取り出した。だが気が付けば俺はまた踊り場を見ていた。