空騒ぎのパレード
【第22回フリーワンライ】
お題:大団円の迎え方
フリーワンライ企画概要
http://privatter.net/p/271257
#深夜の真剣文字書き60分一本勝負
カール王城がうららかな一日を迎えようとしたその日、血相を変えた早馬が城門を駆け抜けた。
早馬に跨がってきた伝令兵は、厩に寄る手間すら惜しんで、何事かと集まってきた番兵に馬を預けると、早馬そのもののような勢いで城内へと走った。
「陛下は! 陛下は何処におられる!」
大階段を駆け上がる途中、カール国王の在所を訪ね聞く。
「王陛下は大臣たちと会議を――」
それだけ聞き取ると、伝令兵は階段を駆け上がって円卓の間を目指した。
円卓の間に続く回廊。
ちり一つない真っ赤なビロードの絨毯が引かれたそこを、砂埃に塗れた伝令兵が横切ろうとすると、その行く手を遮る者があった。
儀礼鎧を纏った二名の近衛兵である。携えた長槍を左右から交差させて伝令兵を止めた。
白い面の近衛兵が言った。
「何者か知らぬが、無礼であるぞ」
黒い面の近衛兵が言った。
「許可なくばここより先、進むことは許されん」
伝令兵は、急停止したことで止まりかけた心臓を起こすべく、過呼吸寸前まで空気を取り込んだ。
汗をしたたらせ、ほとんど近衛兵に縋り付くように言いつのった。
「で、伝令……勇者殿が魔王を――討ち取られた」
勇者一行が魔王を討ち破った。
その報せはすぐさま円卓の間を、それどころか国中を駆け巡った。
カール王国は喝采に湧いた。
魔王の影に怯えて暮らす、暗黒の時代は終わりを告げた。
自由なる日々がこれから始まる。
そして第一報が届いた同日、二刻遅れて次の早馬が王城に辿り着いた。
第二報の伝令兵は書簡を携えてきた。
『発、ロカ・P・ゲイル。宛て、カール・グスタフ十世王陛下。
我が隊、魔王バズゥ・カー討伐の任完遂せり。明朝当地を発ち、陛下の元へご報告申し上げる次第。草々』
書簡を受け取ったカール国王はすぐさま触れを出し、全国民に告げた。
「世界を救った英雄、勇者ロカが近日中に戻って参るとの報を受けた。
臣民よ、宴だ! 祭りだ! 偉大なロカ一行を盛大に迎えようぞ!」
それから一両日のうちに王都は活気と極彩色に彩られた。勇者を迎え入れる派手な垂れ幕や飾りが、街辻で翻る。
国王や側近は凱旋式の準備に取りかかった。
まず王城前広場を徹底的に清掃させ、英雄が立つに相応しい舞台を整えた。
選りすぐりの精鋭兵を集めて凱旋パレードの段取りを叩き込む。特注の儀礼装備を着装させ、勇者一行警護する勇壮な列とするのだ。
そして国王は特注の大鍋を鍛冶工に用意させ、各地方から千人分に相当する食材を取り寄せた。凱旋が終わってから、カール王国名物を広場で群衆に振る舞う算段だ。
勿論、軍楽隊の準備も抜かりはない。華やかなファンファーレが凱旋の取りを勤める。
今後は、高名な音楽家も呼び寄せ、凱旋パレードを記念する新たな楽曲作りも行わせる手筈だ。
プー
プファー
ファー
城の園庭で軍楽隊が演奏の練習をしている。
「ふう」
勇者を迎える準備を粗方終えたカール国王は、管楽器の音色を耳にしながら、数日振りに玉座へ身を落ち着けた。
国を挙げての凱旋式ともなれば、王自らが陣頭指揮を執らなければ格好が付かない。
だが、ようやく整った。
後は勇者一行が帰郷するのを待てば良い。
これはカール王国史のみならず、大陸史に残る偉大な催しとなることだろう。
未来永劫その名前が歴史に残るかと思うと、疲労がカール国王は心地良い気怠さに変わっていくのを感じた。
先代が果たせなかった偉業を、当代で成し遂げたのだ。
勇者ロカには、褒美として第一王女でも娶らせて王族に加えるのも悪くない。
それこそ、後世に残る歴史に相応しい。
カール国王が我知らず口元を綻ばせたその時。
「王陛下へ伝令!」
玉座の間を開く者があった。
国王は瞬間的に嫌な予感を覚えた。
「『発、ロカ・ゲイル。宛て、カール・グスタフ陛下。
我が隊、未知の襲撃を受く。敵は大魔王ファウスト。これより暗黒大陸へ渡る。草々』――です!」
即ち、勇者帰郷せず。
プー
プファー
ファー
管楽器の音が空しく響いた。
『空騒ぎのパレード』・了
JRPGにありがちな裏ボス的な。
もうちょっと空騒ぎしてる感が出せれば良かったなぁ。