002.01
今日の更新では、前章の話に出てきた『魔法の使えない魔法使い』が話の主人公になっています。
002.勇者達の冒険記録 間章
「とある少女の春休み」
さて、神原結斗には幼馴染とも言える同年代の少年と少女がいた。そのうち少女の方は捨て子で、結斗の家で育てられていたので幼馴染と言うよりは義兄妹とも言える関係であった。
だがおよそ二年前、幼馴染の少年はその両親とともにその場所を旅立ち、義妹と呼べる少女も「立派な魔道士になって、お義兄さんのお手伝いがしたい」という夢を持って結斗の父親が時々出張していっているらしい学校へ行ってしまう。
結斗は二人が旅立っていたその後しばらくは寂しい思いを引きずっていたのだが、その頃から魔物の活動が活発化したこともあって万屋も忙しくなったため、次第にそういった思いは消え、幼馴染との記憶も次第にかすれていった。
それから4年。成人間近となった(この世界では15歳で成人扱いとなる)結斗は国王から「失踪した勇者の捜索」を命じられ、故郷の地から旅立ったのである。
・・・え、そんな事どうでもいいって? 察せ。
***
とある学院の女子寮。地上四階の隅っこにある、他の生徒のよりは小さな寮室。そこには一人の女子生徒が住んでいた。
「・・・は、ふ。もう朝なの・・・?」
今は寝起きでボサボサになっている綺麗な金色の長髪に頭の上で跳ねるアホ毛、そして眠たそうにしている青色の瞳をベッドの鏡越しに見た少女は一気に背伸びをした。
「っと、早く準備しないと待ち合わせに遅れちゃう。」
そう言った彼女は適当に長髪を櫛ですいてからリボンで一つにまとめ、洗面所で顔を洗う。
「えっと服は・・・。」
洗面所から戻ってきた彼女はクローゼットからお気に入りの服を取り出すと、寝間着を脱いで服を着用し、学園指定のローブ(これしか持っていない)を身に纏う。そして荷物が入っている鞄を持って出ると、しっかりと鍵を掛けた。
「これで良し。・・・うう、早く行かないと。」
かなりお腹が減ってきた少女は、急ぎ足で一階の食堂へと向かっていった。
「おはようございます、ヴィネッサさん。」
「おや、今日はお休みなのに早いねえ。いつものでいいかい?」
「はい、お願いします。」
空きっ腹を抱えながら一階の食堂までやってきた少女は、いつもここで働いている食堂担当の用務員である四十代の女性【ヴィネッサ・アールカンバー】に挨拶し、注文をした。
「はい、これ。」
「あ、ありがとうございます。」
運ばれてきたのは『焼魚』に『味噌汁』そして『ご飯』の和食3点セット(620G)だ。この学校に在籍している、【荒川洋一】という異世界から召喚されてきた少年の手によって生み出されたこの料理から始まる『ワショク/和食』は残念ながら大多数にはウケなかった(そもそも自分用に作っていたので別に良いらしい)が、極小数ハマった人たちがいた。言うまでもなくこの少女と用務員の彼女(以下ヴィネッサ)である。
「・・・やっぱり美味しいですよね?」
「ええ、そうね。 何でウケないんだろうねえ?」
そうやって二人は『和食談義』をしていると食堂の扉が開き、一人の少女が入ってきた。綺麗な銀色の長髪をした、赤と金のオッドアイの少女だ。こちらは鍛冶屋の着るような簡素な作業服に身を包んでいる。
「おはよー・・・って、もう来てたのユーリア!?」
「ん、おはよーシエルちゃん。・・・もう食べ終わっちゃったところだよ?」
「そりゃ髪型とか直してたらこうなるって・・・あとおばちゃん、いつものパンとスープお願い!」
「はいはいちょっと待っててね。」
少女【シエル・ライトパール】の注文に答えるべくヴィネッサは厨房へと向かっていった。
「にしても毎日それって、ユーリアも物好きよね。」
「そう? 美味しいと思うんだけど。」
「まあ確かに美味しいと思うわよ? でも箸で食べるのがちょっと・・・」
「そっか、シエル箸使えないんだっけ?」
「使えないわけじゃないんだけど・・・」
和食の不人気の理由はまさにここにあった。
「はい、どうぞ。」
「おお、やっぱコレよコレ。」
シエルの前に運ばれてきたのは、これまた質素なパン一切れに野菜のスープのセット(420G)だった。
「んー、美味しい。前のとは大違いねっ! 特に野菜が毎日食べられるのは良いわ。」
「前は収穫時にしか食べられなかったから、大幅な改善だよね。」
実はこれらも荒川洋一の手によって大幅に改善されたものであり、こちらは王国全土に広まっていたりする。
***
「ほら、早くしないと遅れちゃうよ!」
「わかってるわよユーリア、だからそんなに走るなっての!」
さて、少女達が食堂から学院の西門まで移動する間、彼女達の事についていくらか話しておこう。体の良いつなぎだと思った方、正解なのでそのまま読み飛ばしてもいい。
「あんたは荷物軽いから良いけど、私はそうじゃないんだから!」
シエル・ライトパール(15歳 女)。
中等部の『鍛冶』科3年に在籍する鍛冶師見習いであり、この魔法学院を含む街である【マギシティ】にある有名な鍛冶屋の一人娘だ。常時自分専用の鍛冶道具を持ち運んでおり、その小柄な姿には見合わない程力があるが、少し器用さが足りない。
「でもさ、洋一先輩とも待ち合わせしてるんだし早く行ったほうが良いと思うけど・・・」
そして、この章の主人公である少女の名前は【ユーリア・ミスティ】(15歳 女)。彼女も中等部だがシエルとは学科が違い、『魔導工学』科に在籍している。父親の家業を継ぐ為に入学したシエルとは線が違って既に一級の冒険者(?)として活躍する義兄に追いつく為に学院に入ったのだが、『ある問題』によってこの学科に入ったという経歴を持っている。
さて、一見するとなんの接点もないように見えるのだが、彼女らが友人となるきっかけにはある少年が関わっていた。
「わっ、もう来てる。」
「・・・その言い方は無いんじゃないかな。」
それが、先程から名前だけ出てきている、【荒川洋一】(16歳 男)という人間だ。彼は高等部の『特殊』科1年に在席しており、そこまで目立つような外観ではないものの十分整った顔立ちをしており、この国では珍しい部類に入る黒髪黒目の少年である。
「だってまだ待ち合わせ時間まで時間があるはずだけど・・・」
「待たせないようにその少し前につくようにするのが普通だからね。だって君たちもそうなんだろう?」
「うっ・・・」
洋一の言葉に言葉に詰まるシエル。
「・・・ま、まあそうなんだけど「先輩に『結構待ったんだからね!』ってやるって昨日言ってた___」ちょ、それは言わないでよユーリアっ!」
「ははは・・・」
ユーリアのコメントに真っ赤になるシエル。その表情に洋一は乾いた笑いしか出なかった。そこに更に追撃が刺さる。
「えっと、確かこう言うんだっけ? ・・・ツンデレ乙。」
「誰がツンデレよ誰が!」
「そりゃあ・・・ねえ、先輩♪」
「え、ここでこっちに振る!?」
いきなり話題を振られて動揺する洋一を見てユーリアはクスリと笑い、一言。
「あー、楽しい。」
「・・・毎回思うんだけど、ユーリアって本当に良い性格してるわね。」
「そうかな? ボク的にはまだ大人しい部類だと思うけど。」
「いや、その理屈はおかしい。」
洋一のこの一言で会話は終わった。
ユーリアは腹黒に見えますか? 私は実妹の影が見えて仕方がありません。




