001.02
二個目。これで今回はひとまず終わりです。章的な意味でも。
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一方。大変な事を任命されてしまった結斗。その後予め父親から任されていた城下町での幾つかの依頼をこなし、三日後の日が暮れる頃にようやく故郷の村へ辿り着いたのであった。
「ただい「お帰りっ! お兄ちゃん!」ぶっ!」
家の玄関に『神原』の木造プレートが掛かる自宅に帰宅した結斗。その直後に彼の妹の【神原結香】__人懐っこく、お兄ちゃん大好きな幼女__の懐飛び込みで大きく体制を崩し転倒、頭を強打してしまう。
「」
「・・・お兄ちゃん? お兄ちゃん大丈夫!?」
妹の心配そうな声を聞きつつ、結斗の視界はゆっくりとブラックアウト。・・・連日の疲れも相まってずっと気絶していた結斗が目を覚ますと、既に陽が上がっていた。どうやら到着した日の次の日のようだ。
「(うーん・・・あまり堪えて無かった筈なんだけどな・・・。)」
結斗は後頭部をさすってみるが痛みは既に無い。
「ぁ・・・お、お兄ちゃん! 良かったぁ、もうこのまま起きないんじゃないかって・・・。」
入ってきた結香は泣きそうな顔をしてそう言ったのに対し、結斗は少し呆れたような表情をしてこう切り返す。
「半分は結香のせいだからな?」
「・・・ごめんなさい。」
「結香、結斗は起き・・・たようね。」
次に入ってきたのは結香に良く似た妙齢の女性。言わずもがな母親である。
「やっと起きたのね、結斗。・・・ほら、朝御飯の前に水浴びして来なさい。」
「・・・了解。」
--家の裏--
とりあえず昨日までの旅の汚れを落とすため、裏手の川で身体を浄める事にした結斗。
まあ、一応家には村唯一の『シャワー付きお風呂』があるが、恐らく目を覚ます為だと思われる。
「(う、やっぱり冷たい・・・。)」
「おお結斗、やっと起きたか。」
春の川で身体を清め、その冷たさで目を覚ました結斗に、今まで薪割りをしていた一人の男性が声をかける。結斗に良く似た彼は、言わずもわかるが父親だ。
「にしてもお前、ますます少女染みてきたな・・・。」
「いや、親父がそうなるように鍛えさせたんでしょ・・・。」
露となった結斗の体格はかなり華奢で、下のソレが見えなければだいたいの人が女子と見紛うと思うだろう。そんな彼の身体を作ったのは、父親であり同じ体格の持ち主の男性『神原裕也』であった。
「・・・っていうかさ、親父っていくつ?」
「確か二十歳の時にお前が産まれたから・・・34歳の筈だが?」
一拍。そして一言。
「親父は34歳に見えない。」
「母親共々鍛えてますから、な。」
「・・・はぁ・・・。」
溜め息を漏らした息子に裕也はタオルを投げ掛けてやる。
「ほら、拭け。」
「これって__」
「予備タオルだ。使って無いから安心しろ。」
「あ、うん__「返事は『了解』だろ?」__り、了解。」
結斗はいそいそと身体を拭き、川岸に置いてあった服に着替える。
「目は覚めたか?」
「うん、もうばっちりと覚めたよ。」
「じゃあ戻るぞ。朝御飯ついでにお前に話がある。」
「話?」
「簡単に言うと、俺と裕香(結斗の母の名前である)の身の上話な訳だが。」
頭の上に?を作る結斗を撫でると、裕也は帰途についた。・・・そして朝食後。衝撃の事実が明かされることとなる。
--朝食後--
朝食中に結斗から『依頼』の話を聴いた父親【神原裕也】は、まずこう発言した。
「まあ先に言うが、俺らはこの国の人間じゃない。今敵対している『化学帝国』から脱出してきた兵士だったのさ。」
「・・・えっ?」
「(笑)」
父親の発言を聞き、結斗は驚いた。その反応に母親である裕香は小さな笑いを漏らし、父親は話を続ける。
彼は元々、主に単独で基地を視察してきたりとか時にはスパイ、暗殺とかを任務としている帝国軍上級士官で、平民からの叩き上げでそこそこ出世していたらしい。
なんという蛇、と結斗が思ったのかはさておき、桐島裕香__現在は神原裕香、つまり結斗の母は父親の行きつけのバーで出会ったのだと父親は言った。
「そうそう、最初に貴方が言った言葉は・・・『一緒に飲まないか?』でしたっけ。ねぇ? 」
「ああ、そんな感じの台詞だった。で、後に俺がとある特殊部隊のチームリーダーに成ったときに、裕香がチームに居て驚いたな。」
「私は通信と衛生係を担当していたのよね。」
その後、紆余曲折あってから遂に交際を開始したのだが・・・。
「・・・いやはや、いきなり魔族軍の部隊に襲われちゃってさ。撃退には成功したんだけど・・・その時ってまだ魔王帝国と科学帝国同盟組んでたはずだから__」
「上から『そんな訳がない』ってハネられちゃってね。殺されそうになったからそのままこっちに逃亡してきちゃったっていう。ちょうどその頃、結斗を身籠ってたし。」
「・・・え?」
母親の発言にまたもや呆然とする結斗。
「途中で追っ手を撒くために森で部隊のクルマ(戦車)を爆破したりしてね?」
「そう、結構勿体無かったがアレは面白かったなぁ!」
「そこで部隊は解散、私達がここに着いたのが今から15年くらい前の事なのよ」
「その頃、既に魔王帝国と科学帝国の間には同盟なんて無いようなものだったしな」
「へ、へぇ・・・凄かったんだ・・・」
尚・・・父親の場合、敵国の技術である魔法__PSIは苦手だったから習わなかったらしい。
「私は独学で治癒用PSIだけは覚えたわ。便利だし、就職にも使えるから。」
「は、話が突飛すぎて私にはよくわからないよぅ・・・」
「ん、そうか?まあ、結香はわかんないだろうな」
湯気をたてながらも必死で理解しようとする結香を、その父親である裕也は優しく撫でた。そして一通り話をした父親は、結斗にこれからの話を始める。
「で、結斗は『勇者』って奴を探さなきゃならないんだろ?」
「う、うん」
「俺としては付いていってやりたいとは__」
「ううん、いつまでも親父に頼ってられないし俺一人で頑張ってみる。自分自身の実力で勇者を見つけてみせるよ。」
「・・・そうか、そりゃ良かった。こっちとしても『したいこと』があるしな。」
「(『したいこと』?)」
感心感心といった風に頷く父親の横、母親である裕香が口を開いた。
「とりあえず今日はゆっくり休んで、明日から準備なさい。」
「・・・」
結斗はその言葉に無言で頷いた。
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・・・結斗は午前中をたっぷりと休むと午後から自主トレで体を慣らし、そして父親との戦闘訓練を開始した。尚、長いので割愛させてもらうこととする。
その最中、父親である裕也から化学帝国の主武器である『銃』の使い方を学んだ結斗は夕方まで銃の練習をこなしたのであった。
--二日後 朝--
「それじゃあ、行ってきます。」
村の外れで、結斗は家族と別れて旅立ちの時を迎えていた。
「おう・・・間違っても、死ぬなよ?」
「ちゃんと荷物持った?」
結斗は何時もの仕事用の服(対物理ジャケット、カーゴズボンとブーツという近代兵士風な装備の上にフード付きローブを着ている)、背中には着替え等が詰まった大きな袋を引っ提げており、見かけはただの旅人にしか見えない。
「うん、あるよ。ちゃんと武器も・・・」
取り出したのはコンバットナイフ。金属ではなくシリコン製で、金属探知機に反応しないタイプだ。
「んー、やっぱこれだけじゃダメか。よし、これをやろう。」
結斗には直伝の格闘術も教えてあるが、流石にナイフ一本じゃ危ないと判断した裕也。結斗に一つの黒い武器を渡す。
「・・・これは?」
「我が家の秘密兵器。ただの拳銃じゃないぞそれ。俺の仲間が開発してた【魔導銃】って言う代物でな。何でも『魔力の素となる物質を空気中から取り込み、弾として撃つ』事が出来るらしい。」
「そ、そうなんだ・・・。」
「幾つかモードが有るみたいだが、基本的には麻酔モードにしておけ。」
「うん、ありがとうお父さん!」
結斗は拳銃を、一緒に渡されたホルスターにしまって腰に着ける。
「それじゃ、行ってきます。」
「おう、行ってこい!」「行ってらっしゃい!」「がんばってねお兄ちゃん!」
・・・こうして結斗は家族の声援を背中に受け、勇者を探すために故郷を出発したのであった。 ただ結斗とその家族は後に、意外な形で再会することになるのだがそれはまだ先の話である。
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※この小説は朝霧浩之の著作物になります
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割とわかりにくいかもせれませんが、それは仕様だと思ってください。