夢のようだ
「サモン・キャラクター!」
目の前にいる黒ローブの怪しげな男が、そう叫んだ。
ポンッ
やけにコミカルな音がして、白い煙がもくもくと立ち昇る。
煙がはれると、そこには…ドラゴンがいた。
ゑ?
俺の名前は進坂信之。
しがないサラリーマンだけど、趣味で書いてたネット小説が大ブレイクして、なぜバレたのか分からないが、社内ではちょっとした有名人だ。
今日は、念願の書籍版発売日だったので、キャラ達のイメージイラストを見てニマニマしていたのだが…どうやら寝てしまっていたらしい。
いやーそれにしても、夢の中ですら、自分の小説に出てくるキャラクターを見るなんて。
よっぽど嬉しかったんだなーとか、思ってみたり。
…ああ、なんでこんな暢気なのかって?
意味深な前振りしてんだから、こんなに穏やかで大丈夫なのかって?
いやさ、でもよお前ら。
目の前に自分の書いた小説のキャラ現れてみ?ってか想像してみ?
なんか現実的じゃないだろ?
夢とかだとか思うだろ?あとはアニメ化とか。
正直さ、リアリティが感じられないんだよねー。
そんな俺の、心の中での嘲りが聞こえたのだろうか。
煙の中から現れたドラゴンさんは、俺をわしづかんで持ち上げたのでした。
…え、ちょっとまって怖い怖い。
リアリティ感じないとか言ってごめんなさい。なんかガチでこあいです。
…えー、恐怖心を紛らわすためにも、ここでこのドラゴンさんについて説明しようと思う。
このドラゴンさんの正式名称は、終焉神ブラックドラゴンと言います。
なんでさん付けなのかと言いますと、実はこのドラゴンさん、人型になれるんです。ないすばでぃの美人姐さんです。ヒロインじゃないけど、主人公のお姉さま役です。
言ったでしょ?キャラって。
神なのかドラゴンなのかはっきりしろって言われるかもしれない。つか言われた。
だってかっこいいじゃん。それぐらい見逃してよ。
…って、反論したら、お前何歳だよ!って、親友にめっちゃ笑われたOTL
…ま、それは置いといて。…あれ、何かこれ、やばくない?
いやだってさ、目の前にドラゴンさんの大きな口があるんですよ?
あーんって、口開けてますよ?鋭い牙、見えてますよ?
俺ドラゴンに喰われたいなんて、これっぽちも思ってないよ?思ってないから、早く夢から覚めてほしいなー、なーんて…。
「うわあああ!俺が悪かったです!調子こいてすんませんでした!だから食べないでえええええ!!」
「サモン!キャラクター!」
ポンッ
「…はえっ?」
なんか、自分の左肩の辺りで音がした。
その部分を、恐る恐る見てみる。
そこには、
「リンリンキター!!!」
妖精様が、光臨なされていた。
妖精様は、俺をちらりと横目で見て、そのままドラゴンへ、一直線に向かっていった。
うおおおおああああああああ!!!
リンリンだ!リンリンが!!リンリンがうごいとぇるうううううううう!!!
だってリンリンだぜ?あの、ツンデレでお姫様キャラだけど、恥ずかしがり屋で、主人公に一途なあの!あのリンリンだぜ?!俺の嫁一号だぜ?!テンション上がるに決まってんだろおおおおおおおお!!!
今着ている深緑のロングドレスが、きらっきらの金髪とあいまってさいっこうにビューティフルだぜ!いえあ!
しかもそんな神々しい格好で、夢の中でピンチに駆けつけてきてくれるなんて、ああこれが俺の理想郷!!
「これ、使ってください!」
な、わけがないのでした。
ヒューンと飛んでくる厚めの本を、左手で上手くキャッチする。
ドラゴンは、リンリンにちくちくと攻撃されてうっとおしそうだ。…そのまま俺のこと、下ろしてくれないかなあ…。
「落ち着いて!とりあえずキャラクターを思い浮かべて、「サモン・キャラクター」って言うんです!その本なら貴方も召喚出来るでしょう!さあ、早く!」
は?ええっと、サモン・キャラクター?…えーっと、もしかしてキャラクター召喚的な?
キャッチした本に目をやる。
…これ、書籍化する予定の俺の書いたやつじゃん!
え、キャラをイメージするって、つまりそういうことですか?
俺の書いた小説の登場人物を召喚しろ、と?
あまりにも非現実的だなあ、流石夢。とか思いながらうんうんうなってたんだが…
「ぐるおおおおおおん!!!」
「きゃあああああ!!!」
「リンリイイイイイイイイイイン!!」
ドラゴンが咆哮をあげ、俺の右耳の辺りをかするようにリンリンが飛んでいき、反射的に俺は悲鳴じみた声をあげる。
瞬間、俺の頭の中は真っ白になった。
このドラゴンには天罰を。
死よりも苦しい地獄を。
夢とはいえ、俺の嫁を、俺の目の前で傷つけるなんて許すまじ!!
「サモン!キャラクター!!」
反射的に、そう叫んでいた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
結果、ブラックドラゴンなんですが…俺の呼び出したドラゴン自身の母親に、尻叩き1000回というお仕置きを受けております。
あ、両方とも人型状態ね。これ大事。だって、ドラゴンの親子の尻叩きの光景なんて見たくないジャン。
まあでも俺がなにかしたわけではないので、たぶん周りの環境だとか、そういうのを母ドラゴンがうまく配慮してくれたんだろう。
いや、でもまあ、とっさに思い浮かべたのが、ブラックドラゴンの母親だったんですがね。ほら、子は母には勝てぬ、なーんていうから?
ただ、ちょーっと、やりすぎてしまったようだ。
あのブラックドラゴン涙目になっちゃってるよ。
「あのー…。」
「…ん?あ、君は…?」
ぼーっと考え事をしてたら、背後から声をかけられた。
なんか聞き覚えあるような…そう思いながら振り返る。
振り返った瞬間、さっきのささいな疑問なんか吹き飛ぶような、強烈なインパクトにみまわれた。
なににって、彼女の見た目にだ。
もちろん、ぱっと見で目を引くのは、ふわりと彼女の腰近くにまで広がっている、桃色の髪と、それと同色のぱっちりとした大きめの目だろう。
肌の色は白く、俺達黄色人種には、絶対に不可能な肌の色をしていた。
服も、こう言ってはなんだが、●ーチ姫が着ているドレスを、そのまま紫にカラチェンしたような感じだ。一見すると、ピー●姫のちょっとアレンジしたコスプレにも見える。
つまりは、典型的なお姫様ってやつだ。
だがしかし、頭の上にあるそれで、全てのイメージを粉砕されたような気がした。
彼女の頭、まあつまり、ちょうど俺の目の高さあたりにあるのだが…
龍のミニチュアが二匹、パタパタと、彼女の頭上をとんでいた。
…これだけだと、俺の驚愕ポイントは伝わりづらいか。ならこれでどうだ。
彼女の頭の上に楽園があり、そこで女神様とドラゴン二匹が、仲良く戯れていた。
これでどうだ。うん、なんかやりきった感じがするし、これでいいのだろう。
まあ夢なんて、なんでもありの世界だし。
ブラックドラゴンとか普通にいるし。
ありえるよね、うん。
まあ、そんな風に俺が呆然としている間にも、当然時間は流れていっているわけで。
「ええっと、詳しいことはお話しますので、とりあえず、城内に入りましょう。あ、その前に、あのドラゴンを消していただけないでしょうか?」
「え、消す?」
「はい。もう試練は終わりましたので。」
城内という言葉も気にはなったが…試練?なんのこっちゃ?
うーん、分からないことが多過ぎっていうか、展開が早すぎっていうか…もうね、唖然とするしかねえよ…。
「リターン・キャラクター!」
ぽぽぽぽぽんっ
そんな俺には目もくれず、さっさと呪文を唱えて?リンリンを消して?しまったこの子マジクール。
しかも何か俺のことじっと見てくるし。なんか、さっさとやれよって文字が顔に見えそうなんですけど…え、これ俺がおかしいの?
リターン・キャラクター?サモン・キャラクターといい、なんかよくわかんないけど…とりあえず、唱えてみる。
「リターン・キャラクター!」
ぽぽぽぽぽんっ
おお、あいかわらずコミカルな。
しかもなんか、登場したときと違って、やけに長いな。音が。
「では、行きましょうか。あ、後片付け、よろしくお願いします。」
変なところで関心を示す俺と違い、彼女はかなりクールだ。慣れているのだろう。
後半部分、俺の方を向いて言われたので、てっきり俺に言われたのかと思い、返事をしようとしたのだが…どうやら俺の後ろにいる黒ローブの人に言っていたようで。
あっぶねー、今間違いなく、気まずい空気つくるとこだったよ。ふー、セーフ。
最初のローブの男が、なにやらブラックドラゴンに指示を出しているのを眺めながら、俺はおとなしく、彼女についていった。
…ところで、この夢、いつ覚めるんだろう?