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2 ヒロイモノには責任を持って

「あるぇ。なんか注目集まってるんだけど何か知らない?」

「……」

既に少女はぐったりとしたまま反応を返さなかった。

ただ呼吸はしていることから寝てるか気絶しているのだろう。

「こんなん食べても美味しくねぇし……旦那のとこに行く前にコックんとこに寄るかな。」

蜘蛛は自分考えに従い行き先を変更し、歩き出そうとした。

その瞬間肩を掴まれる。

「あら、どなた?」

「俺だ。」

「お前だったのか。」

「こっちのセリフだそれは。全裸の幼子を簀巻きにして運んでる男がいると通報されてみれば……どの子だそれは。」

後ろにいたのは大柄な警官だ。

頭に小さな角が二本生えている。

着ている服は今にも弾けそうなほどぴったりと男の体を表している。

「あぁ、鬼警部。それは俺も聞きたいくらいでさ。俺の趣味知ってる?」

「釣りだろ。それがどうした。それと俺の名前はオルガだ。覚えておけ。」

「これ。今日の戦利品。腹減ったって言うからコックのとこに行こうと思ってさ。」

「聞けよ……まぁ、理解した。理解したがなぜ服を着せない?」

「いや、お前飯を食いに行くためにわざわざ服着るの?」

「着るわ馬鹿者!お前の常識を疑う……まったく。」

そう言うとオルガは来ていた伸びてしまった服を少女に被せる。

「あれ?引き取らねぇの?その方が面倒減っていいんだけど。」

「面倒くさい。どうせドラッケンのとこに行くんだろ。じゃあそこでなんとかしろ。」

「おーい。いいのかよ警部殿ー?……行っちまった。こりゃひどい!職務怠慢だ!そのほうが楽でいいけど!」

そう言うと蜘蛛は少女を担いだまま店に入っていった。

「たのもう!今日も閑古鳥が鳴いてんなぁ!おい!」

自動ドアが開くと同時に叫んで中に入ると強面の男がカウンター越しにこちらを見ていた。

「お前か……。」

「どこいってもその反応なんだけどお前ら俺のことどう思ってるわけ?」

「疫病神。」

即答。

「そりゃネズミの仕事だ。俺じゃない。今日のおすすめ二つ。」

蜘蛛は別段気にすることもなくカウンター席に着くと少女を隣に座らせ注文をした。

「そこの少女は?」

「さっき釣った。」

「なに?お前ナンパしてるのか。それならもう少し人を選んだらいかがでしょうか?ハイお持ち。」

そう言って男はサンドイッチの乗った皿を二つ置いた。

「ちげぇますでございますよゴドー。お前も俺の趣味知ってんだろうが。」

そう言うとゴドーは驚くように目を見開き顎鬚をぞろりと撫でた。

「……たまげた。まだ大地には人がいたのか。」

「または落ちてる途中で引っかかったかのどっちかだろ。こんなのエサにした記憶ないし。」

そう言うと蜘蛛は少女の頬を軽くたたく。

「おい。起きろ飯だぜ。」

その言葉にハッと覚醒すると、少女はすぐにサンドイッチを食べ始めた。

「むぐ……むぐ……むぐっ!?ぐっ!」とんとん!

途中少女はなにやら焦った様子で胸を叩き始めた。

「おーおー、がっつくねぇ。あ、俺とこいつはミルクで。俺コーヒー酔っちゃうの。」

「わかってる。何年の付き合いだと思ってんだ。」

そう言ってゴドーは人肌のホットミルクを二つ追加した。

少女は急いでコップを受け取るとそのまま飲み込むようにして飲んだ。

「あ、そこまで腹減ってたの?まぁ、気絶するぐらいだしなぁ。もう一杯追加で。」

「あまりにそいつほっといてるから逆に俺が心配したぜ。」

「満腹死とかそこらへんか?新しいな。辞書に載っけとこう。」

少女の方を見るとある程度は満たされたのかゆっくりとミルクを飲んでいた。

「もう平気かね。よければお名前を伺いたいんですが?お嬢さん。」

「……名前?」

「あ、ない感じの成層圏の方?それは予想してなかった。へい!ゴドー!何かいいのないか。」

ゴドーは磨いていたコップを置くとやや考える素振りを見せ。

「食い倒れ。」

と答えた。

「お前の回答はユーモラスで素敵だが考えてないだろ。」

「ばれたか。お前が持ってきたんだからお前が付けろ。」

「そうだなぁ……」

少女の方を向けばこちらをじっと見つめてきていた。

何をするのか見ているのだろうか。

「いや、なんか照れるぜ。そうだな。お前の名前は銀だ。」

「お前、それ髪見てきめ…いや、何も言うまい。」

「これから俺が銀とよんだらお前のことだ。誰かが蜘蛛と呼んだら俺のことだ。分かったか。」

「銀……銀、蜘蛛。わかった。」

「それじゃあ銀行くぜ。託児所に。ゴドー、お値段いくら?」

「840。」

「はいよ。じゃあここが更地にならないうちにまた来るぜ。」

「そうしてくれ。」

入ってきた時とは違い銀は蜘蛛の後ろを付いていて来た。

外に出ると周りからの目は多少減ったようだ。服を着せたおかげだろう。

あとは蜘蛛が誰かを連れているのが珍しいのだろう。

悪い意味で有名なやつなのだ。

「いいね。気分は動物園の親鳥だ。まぁ蜘蛛だけど。こっちだついて来い。」

声をかけてもともとの目的地であった仕事場へと足を運ぶ。

 行き先は小さなビルだ。

外についている階段を上がり『萬屋』よろずやと書かれた扉を開ける。

中では机に向かい何やら書類を書いている目が覚めるような赤い髪をした女性が座っていた。

頭に添うようにして後頭部に流れる角が特徴的だ。

「ハロー?ハロォ?龍の旦那いる?」

「だから私が女だと何度言ったら……おや、その子は?」

「さっき釣ってきた。」

「お前は……。」

「なに!?なんなの!?皆して俺を厄介者みたいを見るような目で見やがってYO!」

「事実だろ。」

にべもない。

「否定しない。」

蜘蛛はそう言うと備え付けのソファに座り事情を話した。

「ってなわけでここに来たんだよ。」

「そうか…一つ言うならここは託児所ではない。」

「間違いでもないだろ?」

「子守を依頼されればそうだね……さて、銀と言ったかな?」

「いい名前だろ?」

「お前は少し黙っていろ。それで銀、私の名はアイリーン・ドラッケンだ。」

「はい…。」

「おーおー、こわーいおねえちゃんに睨まれて萎縮しちゃってんじゃないのこれぇ?」

アイリーンが蜘蛛をキロリと睨みつけると蜘蛛は静かになった。

「ゴホン……銀、君はどこにいたか覚えているかな?」

「真っ暗な部屋。そこから落ちた。」

「真っ黒な部屋?それは明かりがなかったということかな?」

その言葉に銀がこくりと頷く。

「なるほど、監禁の類か。それでなにかの拍子にダストシュートに落ちたか、その部屋が抜けたか…」

「そのあとは蜘蛛が拾ってくれたの。」

「なるほど。よくわかったよ。次の質問だ。君は自分のアニマが何かわかるかい?」

「わかんない…。」

「そうか。わかったよ。あと年齢を教えてくれるかな?質問はこれで最後だ。」

「わかんない……。」

そう言うと首をゆるゆると振り静かになってしまった。

「蜘蛛。」

「はぁい?」

「この子家で飼おう。」

「飼おうってペットかよ。」

24歳アイリーン・ドラッケン。

情に絆され易い女である。

「飼うっつってもよぉ。手続きとかあんだろうがよ。それに元の親が来るかもしれねぇし、誰が面倒見るんだ?」

「手続きは私がしよう。親の方も心配はないだろう。世話は蜘蛛、お前がしろ。」

「ジョーダンきついぜ。」

「昔言われなかったのか?」

そう言うとアイリーンはニンマリと笑い続けた。

「拾ってきた子は責任を持って飼えと。」

その言葉に蜘蛛は天井を仰いだ。



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