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ラインブレイカー  作者: MAQ
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第二話 視聴覚室にて

コミニケーションツール。


その変遷はデバイスと共にある。

ポケベルの14文字

携帯電話のEメール

そしてスマホのLINE


LINEが普及してからポケベルやEメールはほぼ絶滅危惧種となった。


ただ、古代から使われているコミニケーションツールで今も尚盛んに活用されているものがある。


それは手紙だ。

年賀状や暑中見舞い。

それぞれのシーズンで活発的に活発がされている。


そして恋文。

相手に想いを伝える際に使う手段として現在でも重宝される。相手のLINEIDを知らなかったら尚更だ。


『田中元様。放課後、視聴覚室まで来て下さい。

どうしても伝えたい事があります。』

そこには女性が書いたであろう可愛らしい文字が書いていた。


「すっ、しゃっぁー!!」

俺は下駄箱で張本ばりに叫んだ。

苦節16年。俺は初めてラブレターをGETした。


***


「昨日大丈夫だった?」

紗希ちゃんが心配そうに尋ねてくる。


「まぁ、なんとか。」

俺が答える。


「一週間やそこらで先輩に連れて行かれるなんてどうせ要らない事したんでしょ?」

加奈子ちゃんは呆れ気味だ


「なんか、鳴上先輩って人が助けてくれた。んでドリア奢ってくれた。」

晃希が眠そうに欠伸しながら言う。

お前、1時間目から4時間目までずっと寝ててよく眠そうに出来るな。


「鳴上先輩って茶髪のかっこ良い人だよね?ちょっと怖そうだけど。」

紗季ちゃんのテンションが上がる。

確かにイケメンだったな。髪型もお洒落だし、モテそう。


「良い人だったぞ。ドリア奢ってくれたし。」


「ふーん。じゃあさ、その浮いたお金でなんか私たちになんか奢って。」

加奈子ちゃんがグイっと顔を寄せる。


「そーだー。奢れー!」

紗季ちゃんも楽しそうにのって来る。


「悪い。モンストに全部突っ込んだからもうお金ないよ。」

晃希の言葉に加奈子ちゃんが溜息をつく


「はぁー。どうしようもないわね。

なんの見返りも無いバーチャルに課金し続けるなんて。」


「お前に課金しても見返り無いだろ。現実でも重力バリア張りすぎて彼氏出来ないくせに。」


「・・・何て言った?」

晃希と加奈子ちゃんが一触即発になる。


「じゃあ!奢らなくていいから、どっか帰り寄ってく?」

紗季ちゃんが焦りながら笑顔で宥める。


「俺はパス。用事あるので。」

晃希が答える。珍しい。


「そっかー。じゃあ田中君は?」

紗季ちゃんに問われる。


俺は放課後に未来の伴侶からの呼び出しがある。

校内でも有名な美人ユニットと放課後ご一緒出来るのは非常に魅力的ではあるが

二人が彼女になってくれる可能性は極めて低い。

ならば優先すべきは決まっている。


遠くの美人より近くのなんちゃらだ。(失礼)


「俺もごめん。今日は用事があるから。」


「あら、残念。じゃあ、加奈子!あの話の続きなんだけど。今日見学行かない?」

沙季ちゃんの誘いを受けて加奈子ちゃんがギョッとなる。


「いっ・・・!私は大丈夫・・・かなー。」

アハハーと渇いた笑いと共に加奈子ちゃんが後ずさりする。


「大丈夫だって!加奈子なら絶対大丈夫だからー!」

紗季ちゃんが加奈子ちゃんを逃がすまいと追いかけていく。


「元、放課後の用事って何?」

晃希が二人が居なくなったの見計らって小声で聞いてくる。

こいつにバレたら・・・あらゆる手を使って妨害してくるっ!

他人の幸福を祝福してくれる様な奴ではない大神晃希はそういう奴だ。


「ちょっと、先生に呼ばれてる。」

口から出任せを言う。


「そっか。お疲れー。」

晃希は特に追求してくる事もなく再び机に突っ伏す。

妙に潔いいな。となってくるとこいつの用事とやらも気になってくるが。

墓穴は掘りたくないのでこちらも追求しないことにした。


***


放課後。

俺は視聴覚室の前に居た。


校内の人通りは少なく。こちらの特別棟には殆ど人が居ない。

告白にはうってつけの場所だな。


この教室の中に俺の事を好きな子が居る。

そう思うとめちゃめちゃドキドキして来た。


髪型は整えようにも坊主なので出来ることが無いが、ちょっといい匂いのする香水は振ってきた。

俺は意を決して扉を開けた。


ガララ。


中は真っ暗だった。


・・・サッカー?


教室前方のスクリーンにはサッカーの試合の映像が映し出されていた。

俺はそれをポカンと見ていた。


どういう事?


「おせーよ。人を待たせると女にもてないぞ。」

応えてきた声は明らかに男だった。


「・・・鳴上先輩。」

俺の絞り出した声に鳴神先輩はヨッと応える。

アレンジした髪をいじりながら購買のジュースを飲んで映像を見てた。


「これは、どういう・・・。」


「まぁ、待てよ。もう一人来るから。」


ガララッ!

勢い良くドアが開く。


「ゴメン、ゴメン!遅くなっちゃた!告白だよね?OK!OK!

この前、先輩に奢って貰ってお金浮いたから、その、お金でどっか遊びに・・・」

現れた晃希が矢継ぎ早に喋っていた。


「・・・あっ。すいません教室間違えました。」

晃希が立ち去ろうとする。


「待て、待て。お前ら呼んだのは俺だよ。」

鳴神先輩が呼び止める。


「いや、俺は女の子に呼び出されたので。」

晃希がポケットから手紙を出す。

今朝、俺の下駄箱に入って居たものと一緒だ。


「あー。それな。俺の知り合いに女みたいな字を書く男が居てな。

そいつに書かせた。」


俺は貰った手紙に急いで目をやる。

この可愛らしい字。男が書いたの!?

キモッ!


晃希も意気消沈している。


「まぁ。座れよ。」

魂の抜けた二人は鳴上先輩の言葉に素直に従う。


「また、サッカーですか?」

俺は前方のスクリーンを見ながら尋ねる。


「そうだ、これは去年の高校サッカー選手権決勝の映像だ。」


「高校。」

晃希が呟く。


「そう、俺たちと同じ高校生。」

サッカーの善し悪しは全く分からないが

そこに映し出され選手達が同じ高校生にはとても見えなかった。

完成された体、華麗な身のこなし、そして堂々とプレーするメンタル。

高校生では無い。そこにはアスリートが映し出されていた。


「この高校生の試合を全国1200万人が見てる。」

確か冬休みにサッカーの試合がよく放送されていたな。

俺は見てなかったけど、そんなに沢山の人が見ているのか。


「そして、こいつらは5万人の観客の前でプレーしている。」

映像の選手が得点した。会場の揺れる大歓声とチームメイトと喜びを爆発させる選手。


「どんな気持ちだろうな。」

鳴上先輩はそういうと映像を切った。


「行かなきゃ分かんないだろ。」

晃希の発言に鳴上先輩は目を丸くした後

笑った。


「その通りだな・・・

だから俺は行く。

あのステージへ、国立へ、どんな事をしても。」

鳴上先輩は立ち上がりこちらにむき直す。


「大神、田中。その為にお前達の力を貸してくれ。

俺はこの創英を国立に連れて行く。それがどんなに馬鹿げてるかも知ってる。

だからこそ、お前達みたいなバカの力が必要だ。」

バカは余計な気が・・・

ただ、そう言った鳴上先輩は本気で言っているのが伝わって来た。


「選手権って全国大会だろ?

本当に行けるのか?」

晃希が尋ねる。全国大会は競技は違えど俺たちが中学時代届かなかった場所だ。

この運動神経お化けの晃希をもってしてもだ。

その厳しさは俺たちも知っている。


「あぁ、行ける。

数年後俺たちはあの舞台に立ってる。」


鳴上先輩の表情は自信に満ちていた。

そして夢見る少年の様な表情をしていた。


ゴンゴンッ!!


教室のドアが勢いよく叩かれる。


「おい鳴上ッ!テメー紹介した女の子全然顔チゲーじゃねーか!

ってかオカマの40代来たじゃねーか!」

そう外から大声で叫ぶのはこの前の銀次先輩だった。

晃希は防災頭巾を被って机の下に隠れる。

どこにあったの?


「俺のPhotoshop技術舐めんなよ。40代のおっさんもJKに加工できんだよ。」

鳴上先輩が大声で応戦する。

とりあえずこの人の女の子の紹介は信用しない事にしよう。


「てめー!開けろー!」

ガンガン!

扉が勢い良く殴られる。


「どうする?お二人?

このままだと君たちもついでにボコちゃうよ?」

いや、あの先輩あんたに怒ってるんですけど?


構うことなく笑いながら鳴上先輩は紙を2枚出す。

そこには入部届と書いてあった。


「サッカー部に入るなら。守ってあげるけど?」

ガンガン!

扉は相変わらず勢い良く音を立てている。

オカマを紹介された怒りがヒシヒシと伝わってくる。


俺たちも無事では済まないだろう・・・


ふと横を見ると晃希は既に紙にペンを走らせていた。


・・・そっか、晃希。

こいつも俺も燻っている想いはあった。

あの時、もうそういう場所は目指せないと思った。

でも、それは誰が決めた?


誰でも無い。自分で決めたんだ。

だったら、今、もう一回決めればいい。


行くも地獄、戻るも地獄。

なら、もう一回、全国目指すってのもいいよな。

そうだろ、晃希。


「全国行ったらモテる?」

書き終えた晃希が鳴上先輩に尋ねる。


「入れ食いだよ。」

鳴上先輩の答えに満足した様で晃希は紙を持って立ち上がった。


ガララ。


「ん?てめーはこの前の!」

晃希は銀次先輩の前に立ちふさがる。


「俺たちは国立に行く。

だから道を開けろ!デカブツ!」


晃希は名前の書いた入部届けを銀次先輩の前に突き出した。


晴れて、俺たちは

鳴上先輩の加護の下

サッカーというルールさえも知らない競技で全国を目指す事になった。


それが想像以上に途方のない道のりとはこの時は知る由も無かった。











































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