“プロローグ3”体力測定にて
「飯野7秒8 宇野7秒5」
今日は体力測定。
我らが1年2組は今50メートル走に臨んでいる。
体力測定。
短距離、長距離走などのスピード
握力や上体起こしのパワー
反復横跳びや長座体前屈などの瞬発性や柔軟性など
多岐に渡って身体レベルを測定される。
それは試験結果と同義。
いやそれ以上のステータスが付与される事を意味している。
入学から1週間。
まだ何者にもなれていない者達はこの結果次第では
男子からの畏敬の念を受け、隣で測定している女子達から羨望の眼差しを受ける事になる。
俺、江島進は運動には自信あった。
中でも陸上で磨いてきた短距離走には絶対の自信があった。
今日で俺は…『クラスで運動出来る奴の地位を確立するっ!』
はっ!あれは・・・!?
視線の先には櫻井さんと佐咲さんがいた。
しかもこっちを見てる・・・
もう学年でも噂になっている美女ユニット『サーサーコンビ』がこっちを見ているッ!。
「頑張れ~!」
佐咲さんが手を振りながら言う
横の櫻井さんも手をヒラヒラさせている。
・・・天使過ぎる。
俺も手を振り返そうかなと思ったその時。
「大神君頑張れ~!」
俺の首が物凄い速さで回転する。
「あい。あい。どうもどうも。(ポリポリ)」
出たっ!!こっちは学年超えて噂になってる奇天烈男、大神晃希!
入学式のあの突飛な行動に留まらず、この1週間であらゆる所でトラブルを巻き起こし
反省文の数がもう50枚(噂)を超えているという奇人。
しかも反省文完全攻略!という謎のメモをLINEノートで作成し
先輩に売りつけて今朝小井川先生に怒られていた(事実)
そういえば、何故か櫻井さんと佐咲さんと親し気だったな・・・
大神は覇気のない顔で呑気に頭を掻いていた。
おのれ!こいつだけには負けられない!
「次、位置についてください。」
スターターの声で大神と一緒にスタート位置に付く。
今は大神なぞに構ってられない。目の前のスタートに集中する。
ゆっくり息を吐き集中する。自分の足を信じろ。
「よーい、ドン!」
掛け声と共に一気に前に出る。
もう邪な気持ちは消えていた。前しか見えない。
ふと、横に気配を感じた。・・・大神だ。
馬鹿な!6秒台前半のペースだぞ!?
そのままゴール手前で振り切られる。
その時に見た大神の目は今まで見たことのない目をしていた。
まるで・・・獣だ。
「江島6秒2、大神6秒フラット。」
ゴールで立っていた体育担当の先生が告げる。
「江島は陸上部か・・・。流石だな。」
「ありがとうございます。」
機械的にそう答えるしか出来なかった。
「大神はまだ部活決めてないのか?」
大神の方に先生が視線を向ける。
「部活は入らない予定です。」
大神が答える。
「どうしてだ?」
「うーん。なんか中学で燃えつきてしまって。」
それを聞いて先生が笑う。
「俺にはそう見えなかったけどな。まだ燻ってる。
どうだ、アメフトやらないか?お前の燻ってるものをぶつけられるぞ。」
どうやら、アメフト部の顧問らしい。
大神はちょっと考えた後に。
「痛そうなのでやめときます。」
「ふん。そうか、
まぁ、またフラフラしてる様だったら声かける。」
俺と大神はスタート位置へと歩いていく。
「江島、足早いなっ!」
大神が急に話しかけてくる。
俺は有名は奇人に話しかけられて呆気に取られていた。
「俺、一緒に走る奴が早くないとタイム伸びないんだよね!
だから、江島と走れて良かったよ。」
そういうと満面の笑顔をこちらに向けてくる。
もともと可愛らしい顔も相まってその笑顔は少年の様にきらきら輝いていた。
大神晃希。悪い奴じゃないのか…
「俺も・・・」
一緒に走れて良かったと言いかけた時
「まぁ、俺の方が早かったけどねー!アハハー!」
大神は俺をあざ笑うかの様に高笑いする。
・・・次の反復横跳びは負けない・・・
だが、その後の競技でも大神には勝てず
大神は好成績を連発していった。
***
「大神君、田中君お疲れ様ー。」
体力測定が終わった所で俺と晃希の所に
紗季ちゃんと加奈子ちゃんがやって来た。
「大神君凄かったねー。田中君もハンドボール投げ凄かったねー。」
晃希は全体的に好成績を収め、
俺はハンドボール投げが好成績だった。
「紗季、あんま晃希を調子に乗せないでよ。」
加奈子ちゃんがいつものローテンションで言う。
名前で呼ぶほど仲良くなった二人は
紗季ちゃんなら耐性ありと晃希と俺を紹介してくれた。
4人とも席も近いのでよくつるむ様になった。
「でも大神君は私の言う事なんて聞かないから意味ないよー。」
紗季ちゃんがのほほーんと言う。
「そうだ。紗季ちゃんは良く分かってる。
かーこはうるさい。」
加奈子ちゃんが晃希の脳天につっこみを入れる
「でも、加奈子も結構いい成績だったよね。」
紗季ちゃんが話を変える。
「そうかな。中学でバスケやってて良かったー。」
加奈子ちゃんは中学時代バスケ部に所属していた。
「あと、こいつは遺伝もあるよ。兄ちゃんが化け物だから。」
晃希が復活していた。
「加奈子お兄ちゃん居るの?」
紗季ちゃんは知らなかったらしい。
「うん、まぁ・・・」
「嘘!写真ないの?写真!」
紗季ちゃんのテンションが上がる。
「な・・・」
「あるよ。」
晃希がほいっとスマホを紗季ちゃんに渡す。
紗季ちゃんはスマホを凝視していた。
「芸能人の方?」
紗季ちゃんが真顔で聞く
「そんな訳!もう勝手に見せないでよ!」
スマホをひったくり晃希に投げつける。
「はぁー、加奈子の兄だから予想はしていたけど・・・
まさかここまでとは・・・遺伝子恐るべし。」
「確かに大輝君はかっこいいもんなー。」
晃希がスマホの傷がないか確認している。
「しかも、晃希が運動で何一つ勝てなったもんなー。」
この運動神経にパラメーター全振り(ルックスはまぁ見る人によってか)男が
逆立ちしても勝てなったモンスター。
それが櫻井大輝である。
「凄いね、大輝様。
加奈子んち行ったら会える?」
・・・様?
「今、家に居ないから会えないよ。部活で高校の寮入ってるから。」
大輝君はスポーツ特待で寮に入ってたな。
「部活かー。
加奈子はバスケ高校ではやらないの?」
「うーん。創英のバスケ部結構強いから私じゃ通用しないかなー。」
加奈子ちゃんの運動神経は悪くないが、それでも晃希や大輝君ほど運動神経にパラメーターを振ってない。
「紗季は陸上やらないの?」
紗季ちゃんは陸上部だったらしく、体力テストでも長距離走で高い成績を収めていた。
「無理だよー。創英レベル高過ぎ。」
あの校長が言っていたスポーツに力入れてる発言もあながち嘘じゃないらしい。
「大神君と田中君は?
同じ部活だったんでしょ?」
紗季ちゃんの質問に俺と晃希は顔を見合わせた。
「ないかなー。」
晃希が答えた。
「そうだなー。」
俺も続く。
「二人とも運動神経良いのに?」
紗季ちゃんが尋ねる。
「燃え尽きちゃったから。」
晃希が明るく答える。
「そうかー。私も何となく分かるよ。
燃え尽き症候群!」
「そう!それ!
紗季ちゃんは良く分かってる!」
燃え尽きれた訳ではない。
燻ってるものは俺も晃希もある。
「明日から、部活勧誘始まるね。」
だけどそれを何にぶつけたらいいか。俺たちはまだ知らない。
***
教室の一室。
ドアを開けると。
いそいそと資料をまとめていた。
「どうだった?体力テスト?」
声に反応して資料を纏めてる手をとめる。
「今年の1年は中々粒揃いだ。」
不敵に笑みを浮かべる。
「それで見てたのか?」
手元に置いてある双眼鏡に視線をやる。
「まぁな。」
「徹底してるな。」
手元の資料にも文字がびっしり並んでる。
「あと、面白い奴がいたぞ。田村。」
手元の資料を一枚こちらに渡す。
「大神晃希。・・・凄いな。これは。」
全ての項目が高い数値を出していた。
「速報でなんと、創英で1位の数値だ。」
「それは凄いな。中学時代の部活動は・・・
ハンドボール部か。」
「そして、こっちが大本命。」
矢継早に資料をもう1枚渡してくる。
「こいつ・・・」
その資料に目が釘付けになる。
「こいつが、新生創英反撃の秘密兵器だ。」
日比野十哉 赤嶺学園出身 サッカー部 ポジション FW、MF
全国中学校サッカー大会優勝メンバー。