エピソード第二幕6 ~意地悪仙人と猛修行 再会の時へ編
エピソード第二幕6 ~意地悪仙人と猛修行 再会の時へ編
山脈を抜けた先、連なった山々に囲まれた一際標高の高い天高くそびえ立つ山。
「ほえ~…これ…かな?」
そう呟き、上を見上げるプロフィア。山の頂上は遥か空の彼方、雲に隠れてしまい、どれほどの高さなのかが分からないほど。
「はぅ…こんなの登れるのかなぁ~…でも…いっちょやってみますか♪」
ペッペッと手のひらに唾を吐きかけたプロフィアは、自らに気合を入れ、山を登り出す。
山肌は完全な断崖絶壁で山道などは一切無い。微かな足場を見つけながら腕の力だけで必死に登り続け…登り始めは高い位置にあった太陽も、やがて傾き出し、西の空を真っ赤に染める。
上を見てもまだまだ山頂は見えず、つい下を見てしまい身震いするプロフィア。更に登り続け、日が暮れ、空に広がる満天の星たち。死への恐怖も相成り、すでに疲れはピークを迎え、人が一人横になれる程度の足場を見つけたプロフィアは、ロープを体と岩場に結びつけ眠りにつく。
次の日の朝。寝ぼけ眼も下を見ればパッチリ。更に登り続け、雲を越えると微かに見え出す山頂…登り始めて丸一日以上、太陽が山脈の向こうに隠れ出した頃に山頂に到着したプロフィア。
「ハァ…ハァ…ハァ………あう~…もう無理だよぉ~…」
疲れ果てて仰向けに倒れこみ呼吸を荒げながら周りを見渡すプロフィア。 山頂は結構な広さの平地になっていて、岩肌を利用した丸太の家に食物庫、井戸、人が住めるような場所ではないのだろうが、そこにはしっかりとした生活感があり…。
「あぅ~…緊張してきちゃったよぉ~…」
期待少々、不安だらけ…のそっと起き上がり、一歩一歩ゆっくりと足を前へと進め、入り口のドアの前までやってきたプロフィアは、ドキドキする胸を右手で押さえ深呼吸すると、意を決してドアをノックする。
「誰じゃ?」
中から聞こえる老人の声。
「あ、あのっ! わ、わ、私、プロフィアって言いますっ! えっと…仙人様ですよね?」
「なんじゃ、騒がしい女子じゃな…いかにもワシは仙人などと呼ばれておるが…とりあえず中に入ってこい」
「は、はいっっ!!」
ドアを開け、恐る恐る覗き込むように中の様子を伺い、中に入るプロフィア。少し薄暗い室内、家具はテーブルと椅子、壁を埋め尽くす本棚には年期を重ねたであろう本がビッシリ。
「まるで怖いものでも見るような目で見おってからに、失礼なヤツじゃな。しっかし…ここを訪ねてくるのは、むさっ苦しい男ばかりじゃったが、おぬしのようなか弱そうな女子が訪ねてくるとはなぁ…」
ロッキンチェアでゆったりと体を揺らし古ぼけた分厚い本に目を通していた真っ白な顎鬚を蓄えた小柄な老人が品定めのように上から下へと睨み付けるような鋭い眼光をプロフィアへ向け、本をテーブルに置き、右手で顎鬚をなぞりながらそう言う。
「ご、ごめんなさいですっっ! えっと…私、あのっ! どうしても強くならなきゃいけなくって、それでその、仙人様にどうしたら今よりも強くなれるか、その方法を教えていただきたくって」
「ふん、お前のような小娘が生意気を言いおってからに。では何か? 自分は強いと、今が限界だとそう言いたいんだな?」
「いえっ! あのっ! そんなことは…ない…こともないのかなぁ…私ね、強いと思うんです。自惚れとかじゃなくって、すっごく頑張ってきたから…だけど、どうしても超えなきゃいけない人がいて、私の力だけじゃ、どうしてもその人を超えられなくって、それにはどうしたらいいか教えていただきたいんですっっ!!」
「ほう…まあいいじゃろう。教えてやらんこともない」
「ホントですかっ!!」
「うむ。まあ、ここまで辿り着けたのじゃから弱い者ではないのは分かっておるが…ワシに教えを請えるほどの器かどうか試させてもらおうかの~」
のっそりと立ち上がった仙人は、曲がった腰でゆっくりと歩き出す。緊張し息を呑むプロフィア…部屋の奥から戻ってきた仙人は、手のひらに乗せた青い光沢のある鉱石をプロフィアに見せる。
「これは、この山の麓にしかない鉱石なんじゃが…これと同じものを明日の日の出までにとってきてもらおう」
「は、はいっっ!! って………えーーーーーーーっっ!! そ、そんなぁ~…登ってくるだけで一日以上かかったのに…」
「さてどうする? 無理なら黙って帰るんだな」
『クククッ…これで、大概の者は逃げ帰るんじゃが…さてさて』
「私…やりますっ!! やってみせますっっ!! 待っていて下さいっ! 必ず日の出までに戻ってきてみせますからっ!!」
そう言って飛び出していくプロフィア。
「う~ん…どうしたらいいんだろ………こんなの降りるだけでも朝になっちゃう…」
崖の縁に立ち、眼下に広がる雲を見ながら考え込み、「う~ん…う~ん…」と唸り声をあげながら、その場に座り込むプロフィア。
「よしっ! こんなことやってたって時間が過ぎてくだけだもんっ! やるしかないっっ!!」
意を決して立ち上がったプロフィアは、何度も何度も深呼吸をして気持ちを落ち着かせると、杖を構え、その杖を持つ両手にギュッと力を込めると、なんと崖から真っ逆さまに飛び降りる。
岩肌スレスレを頭を下にして急降下していくプロフィア…目も開けられず呼吸もできないほどの風圧の中、目を見開き、杖を振りかぶり、あっという間に迫り来る地面だけを見つめ続ける。
「ぐぎぎぎ………もう少し…もう少し……今だっ!! はあああああっっ!!」
目前に迫る地面。マナが込められ神々しく輝く杖を力一杯、岩肌に叩きつけるプロフィア。ズドンという爆発音にも似た打撃音とともにプロフィアを落下させていた下へのエネルギーは、打撃の衝撃による横へのエネルギーに相殺され、一瞬、地面から数メートル上の宙に止まったプロフィアは、無事着地に成功し、涙目でその場にへたり込む。
「はぅ…こわかったよぉ……でも…へへへっ♪ なんとかうまくいったねっ☆ よ~し! 次は…」
辺りをキョロキョロと見回すプロフィア。
「あたっ! 絶対に間に合ってみせるんだからっ!!」
落ちていた手のひらに収まるほどの鉱石を拾い上げ、腰のポーチに入れたプロフィアは、自らに気合を入れ、崖を勢いよく登り始める。
「ハァ…ハァ…絶対…絶対に……ハァ…間に合って…みせるんだっ! 世界一強くなって…私がみんなを守るんだもん…あの人を止めるんだもん…あの力を止めなきゃ…きっといっぱいの人が死んじゃう…私が…救うんだ…あの人のことも…だからっっ!!」
想いとは裏腹に時は過ぎて…やがて東の空が薄っすらと明るくなっていく。微かに見える頂上、まるで自分のものじゃないように重く動かない手足、それでも想いだけがプロフィアの体を動かしていく。
「ハァ…ハァ…ハァ………いっけーーーーーっっ!!!」
プロフィアの体が神々しく青白い輝きを放つ。マナを体に纏うことによって極限まで身体能力を高め、凄まじい勢いで崖を駆け上り…ついに頂上へと到着。昇り始めた太陽が東の山脈から顔を出し始める。
「へへっ…間に合った……これを……わたさ…な…きゃ……」
ポーチから鉱石を取り出す…が、そこで力尽き倒れてしまったプロフィアの手から鉱石が転がり…。
「さて…もう日も昇ってしまったの~………くくくっ、あやつ、間に合わなんだか…どれどれ」
外はすっかり明るくなり…座っていたロッキンチェアから立ち上がり、入り口のドアを開ける仙人。
「まさかっ!? 間に合ったのか? なんて女子じゃ…」
倒れているプロフィアと地面に転がる鉱石に目をやり、少々驚いた表情でそう呟いた仙人。その仙人の気配に気づいたのか、目を開け、力無くヨロヨロと立ち上がるプロフィア。
「おぬし…どうやら間に合ったようじゃな」
「はぅ………ううんっ! ダメですっ! だって、ちゃんと手渡ししてないし、登り切った時をちゃんと見てもらってないから曖昧だもん………私、もう一度行ってきますっ!! 試されているのなら、ちゃんと評価してもらいたいもん。えっと…じゃあ日暮れまでに戻ってきますね。ダメ…ですか?」
「いや…まあ、構わんが…」
「ありがとうございますっ!! ではでは~行ってきますっっ!!」
崖から飛び降り、落下していくプロフィアの「だああああーーーーーっっ!!」という気合の入った声が響き渡る。
「まさかあやつ…飛び降りおった!」
驚き、小走りで崖の縁へと移動した仙人は、プロフィアの姿を目で追う。
「なんてやつじゃ…よほどの覚悟があるのか、ただのバカなのか…第一、あんなフラフラで登ってこられるワケがなかろうに…こりゃ追い返すのに骨が折れそうじゃわい…」
結局、ギリギリのところで日暮れには間に合わず…納得いくまでやりたいというプロフィアの要望を呆れかえりながらも了承する仙人。そして数日が過ぎて…。
ほとんど不眠不休のプロフィアだったが、なんだか妙に軽快に崖を駆け上っていく。
「へへっ♪ なんか体が軽くなってきたみたいだ………あっ!! もしかして…この山登り自体が修行だったりするのかな? たしかに…私ってば強くなりたいって焦ってたから、こういう基礎体力を上げるのって考えてなかったなぁ~…体力が上がったおかげで、マナを纏った全開の状態を維持できる時間がすっごく長くなってきたし、限界だなんて思ってたけど、まだまだ強くなれる余地残ってるんだね~…さすが仙人様だねっ☆ よ~しっ! ラストスパートだぁーっっ!!」
全身にマナを纏い、頂上まで一気に駆け上がっていくプロフィア。
「ふぅ~………よしっ! こんなもんかな♪ 仙人様ーーーっっ!!」
頂上に到着し、一息ついたプロフィアは、鉱石を手に持ち家の入り口のドアを開ける。
「なんじゃ、いちいち騒がしい女子じゃな、まったく…。しかし呆れた奴じゃな、おぬしは。こんな短時間で登り切ったうえに、そんな涼しい顔しおってからに。じゃが、ワシはまだ認めんぞ。ワシの教えを請いたければ次のことをやってもらおう」
そう言って外へ出て行く仙人の後を『次はどんな修行なんだろ♪』とワクワクしながらついていくプロフィア。
家の裏側に回り、地面に置かれた直径約1メートル、長さが10メートルほどの巨大な丸太の前で立ち止まる仙人。
「おぬしには、これで薪を作ってもらおうかの~」
「ほえ~…でっかい丸太ですね~…こんな丸太こんなとこまで運べるなんて、さすが仙人様です!!」
「うおほんっ…まあ…な。道具は、そこにある斧を使ってもらおう。時間は好きなだけかけてよい。この丸太全てを薪にできたら、お前の望む力を与えてやってもよい」
「これですね? よいっしょっと」
丸太の中央あたりに打ち付けてある至って普通の斧の柄を両手で握り、引き抜いたプロフィア。
「はぅ…こんな斧でですかぁ…」
『こんな太い丸太…こんな普通の斧じゃ切れっこないよぉ………でも…これも何かの修行なのかもっ!』
「無理なら、やめてもかまわんのじゃが?」
「ううんっ! やりますっ!! やらせてくださいですっ!!」
「まあ、せいぜい頑張るんじゃな」
『クククッ…言っておらぬがあの丸太は千年樹じゃ。あんな斧では半分に切るだけでも数日がかりじゃろうて。途中で嫌になって投げ出してくれればいいんじゃがの~』
そう言い残して家の中へ戻っていく仙人。やる気満々で意気込むプロフィアは、斧を両手で構え、丸太の前に立つ。
「やるぞ~♪ せ~の~よいしょっと」
プロフィアは、そんな掛け声とともに力いっぱい斧を丸太の中央へ振り下ろす。
トンッ………。
「………………………………」
乾いた音が辺りに響く。無言のまま丸太に刺さった斧の刃先を見つめるプロフィア…。
「はぅ………やっぱり、こんなの無理だよぉ~」
斧は丸太に1センチ程度刺さっただけ。頭を抱えてしゃがみ込むプロフィア。
「この丸太の堅さ…普通じゃない。きっと普通の方法じゃ切れないんだ。そっか…これ、やっぱり何かの修行なんだ。山登りは体力を上げる修行だった…きっとこれも、今の私に欠けている何かを補うためのものなんだよね………でもなんだろ? 今更へたっぴな魔法をどうにかできるはずないし…斧を振って力のパラメーターを上げる修行? なんて単純なことじゃないよね…じゃあ何だろ………」
丸太の前に座り込んでしばらく考え込んでいたプロフィアは、立ち上がると丸太に刺さった斧を引き抜き、その斧を両手で構える。
「どうせおバカなんだから考えてたってしょうがないよねっ! とにかく全力でやってみるしかないっっ!! だあああああああーーーーっっ!!」
マナが込められ攻撃力の高められた青白く光輝く斧。プロフィアは、その斧を全力で丸太に叩きつける。
ドンッ………。
マナによって破壊力の上げられただけの鈍器のようになってしまった斧が丸太に刺さることは無く、ただ表面を1センチ程度窪ませただけ。
「これじゃダメなんだ………じゃあっ!!」
今度は全開で身体にマナを纏ったプロフィアは、めいっぱいの力を込めて斧を振り下ろす。
ズドンッ!!
山を揺らすほどの地響きと強烈な爆発音。だが、威力とは対照的に斧は丸太に2~3センチめり込んだだけで、斧の柄が威力に負け砕けてしまう。
「ハァ…ハァ………そんな…これでもダメなんて………ま、いっか♪ 時間はあるんだし、柄になる木でも拾いに行きながらゆっくり考えよっと」
そう言って山を降りるプロフィア。
それから数日が経ち…。
日課になった山登りで拾ってきた鉱石が地面に並べられ日にちを刻み、来る日も来る日も試行錯誤しながら丸太と格闘するプロフィア。
「おいおいっ! そんなスピードじゃ剣にハエが止まるぜ?」
ギルド社屋の裏で毎日毎日、激しい特訓を続けていたジンと、それに付き合うロイド。ロイドの放つ超高速で浴びせられる無数の氷の矢を全て剣で弾き飛ばすジン。
「うおおおおおおーーーっ!! だああああああーーーーーっっ!!」
最後、頭上から落下してきた直径3メートルほどの氷の塊を真っ二つに。割れた塊がジンの左右に落ちる。
「ひゅ~………すげっ…こりゃ、もう敵わねぇ…勝ち逃げしとくか」
「やっぱりヴァルちゃんは天才ね。あっという間に追い抜かれちゃいそうだわ」
「そんなことないですよっ! まだまだリオさんには敵わないもん」
ジンたちと同じく杖を討ち合わせていたリオとヴァル。
「ハァ…ハァ…ハァ………今日はこのくらいにしとこっか」
「はいっ! ハァ…ハァ…あのっ! リオさん…私に究極の魔法…教えてくれませんか? 多分、私が一番足手まといだと思うんです。だから私は、みんなのサポートと回復役に専念しようと思っています。でもっ」
「そんなこと…ないって言っても嘘だってわかるのよね。ヴァルちゃん頭がいいから…。そうね。火力的にはヴァルちゃんでは…私だってね。でも…いいわ。教えてあげる。それにもう教えなくたってヴァルちゃんには使えるはずよ」
「だああああーーーーっっ!! ハァ…ハァ…でけたっ!! へへへっ♪」
地面に突き刺さる斧。丸太は中央からその左右に真っ二つに割れている。
「やっぱりそうだ。これってマナの使い方の修行だったんだねっ! よ~しっ! この調子で、もういっちょ~」
マナが込められ青白く輝く斧。それは今まで通りだが、刃先にだけマナが凝縮され鋭い刃のようになり、更に眩い輝きを放っている。
今までのように激しい音はしない。だが丸太に深々と突き刺さる斧。
「今までは、ただマナを込めるだけだったけれど、もっと緻密にコントロールして、一点に集中させたり、刃状にしてみたりしたら、もっと使用用途も攻撃の幅も広がるし、もっと少ないマナで最大限に攻撃力を上げられるかもだねっ! やっぱり、さすが仙人様だなぁ~…ハァ…ハァ…ハァ…今日は…頑張り過ぎちゃったみたい…だから…また明日…がん…ばろ……っと…」
日暮れ間近、マナの使いすぎで力尽き倒れたプロフィアは、そのまま眠ってしまう。
満天の星空の中、プロフィアの様子を見ようとやってきた仙人。
「こやつ…こんな斧で千年樹を切りおったわ。この切り口…なんて器用なことをするやつなんじゃ…まったく。しかし…なんでこやつは、こうも真っ直ぐなんじゃろう…こんな女子がどうしてそこまでして強くならなきゃならんのか…困ったの~…こりゃ正直に話すしかないかの~…」
そう呟き、プロフィアの無邪気な寝顔を見つめる仙人。
「…………まったく…ワシは人間が嫌いだというのに」
一度家の中に戻り、プロフィアにそっと毛布をかけてあげた仙人の気難しい顔が自然と綻ぶ。
数日後…
「仙人様ーーーっ!! 仙人様ーーーーーっっ!!」
日暮れ頃、勢いよく入り口のドアを開け、仙人を呼ぶプロフィア。
「なんじゃ、相変わらず騒がしい奴じゃな。どうしおった?」
「へへっ♪ 終わりました~」
「ほう…どれどれ……」
いつものようにロッキンチェアに腰を掛け、本を読んでいた仙人は、立ち上がりプロフィアとともに家の裏へ。
「なんと………たいした奴じゃな、おぬしは…」
『こりゃ…素直に謝るしかないのう…』
キレイに積み上げられた薪の山を見てそう言う仙人。少しの沈黙のあと、口元を緩ませた仙人は、後ろに立っているプロフィアのほうへ振り返り、謝罪しようと口を開こうとしたが…。
「あのっ! ありがとうございましたっっ!! 私ってば、まだまだだって分かったし、すっごく勉強になりました」
「お…ああ…まあ………どうじゃ、せっかく薪を作ったんじゃし、風呂でも入らんか?」
「ほえ? いいんですか?」
「うむ。お前が作ったんじゃからな。どうせ、ずいぶん入っとらんのじゃろう?
「はぅ…そうなんですよぉ…毎日拭いたりはしてるんだけれど、かゆいし、臭いも…ぐすっ…」
「くくくくっ。では水汲みでもしてもらおうかの~」
「は~い♪」
「どうじゃ? 熱くないか?」
外で風呂釜に薪を入れながらそう尋ねる仙人。
「だいじょぶです。へへっ♪ すっごく気持ちいいですぅ~」
「そうか。すまんの~狭い風呂じゃろ?」
「ううんっ! とっても素敵なお風呂ですよ~。すっごく星空がキレイですぅ…」
「まあな。ここは雲の上だから年中星空が見えるからな」
「へへへっ、気持ちいい………一緒に入りませんか?」
「バカなことを言うもんじゃない。ワシは、お前のようなお子様には興味ないしのう~。女子は、やっぱりこうもっと豊満じゃないとの~」
「う~…」
「ほっほっほっ。おぬし確かプロフィアとか言ったな…実はおぬしに謝らねばならぬことがあるんじゃ………ワシは仙人などと呼ばれておるが、本当は何の力も持っちゃおらんのじゃ。本当にすまなんだ…」
「そんなこと…そんなことないですっ!! 私、ここに来て仙人様に出会えて、すっごくよかったって思ってます」
「うそじゃ! ワシのこと憎むんじゃろ? あれだけ苦労をして何の力も得られんのじゃぞ? 人間なんぞ損得でしか物を考えない…そんな生き物じゃからな…」
「仙人様………そだね…正直に言っちゃえば、ほんの少しだけ…ホントにほんの少しだけガッカリしてるのかもです…でもっ! 私、嬉しかったもんっ! 仙人様に出会えたこと、すっごく嬉しかったもんっ!! 私一人じゃ分からなかったこと、ここに来なきゃ分からなかったこと、いっぱい分かったし…あの毛布…すっごく暖かかったです。それにこのお風呂も…誰かと出会えて、嬉しいと思える、それだけでも十分だと思うんだ。それが人間なんだって私は思ってるの」
「まったく…本当に変わった奴じゃな…おぬしは。ワシは何の力も無いが、人より長生きしているのでな、知識だけは誰よりも豊富なんじゃよ。どうじゃ? 聞かせてくれんか? おぬしのような女子が、なぜそれほどまでに力を欲しがるのか。何か力になってやれるやもしれんて」
「ありがとうございますっ! あのね、私………」
マックスと戦わなければならなくなった経緯について話すプロフィア…。
「その剣は………ガルバデスじゃな」
「がるばです???」
「うむ…今から1000年ほど前の話になるかの~…あやつは、この世界を支配しようと魔界からやってきたのじゃが、ナリア女神の前に破れ、その力の全てを失い、剣の姿にその身を隠したのじゃ。確か…ナリア城の王族しか入ることのできない地下の宝物庫に保管されていたはずなのじゃが…ガルバデスは魔族としては下級じゃが、この世界を滅ぼすに十分な力を備えておる。確かに人間の力では到底太刀打ちできぬじゃろうな」
「はぅ…世界を滅ぼす…ですか。私ってば、すっごいやつを敵にしようとしてるんですね…」
「今は宿主の身体を利用し、完全復活を目論んでおるんじゃろうて。復活すれば、間違いなく世界は破滅するじゃろうな」
「そんなぁ………じゃあ私…絶対に負けられないですねっ!!」
「おぬし…怖くはないのか? それに、おぬしが背負わなければならぬことでもなかろう? 逃げたって誰も責めはせんじゃろうて」
「うん………怖いけど…でも逃げない。私がやるんだ。私ね、決めてるんだ。戦うための力を持つって決めたときから。私の力は誰かを守るための力なんだ。じゃなきゃ力は、ただ誰かを傷つけるだけのものになっちゃうもん。だから、守るものが、たとえ隣にいる誰かでも、世界中の人たちだって一緒だよ。私に守れるのなら絶対に守ってみせる!」
「本当に変わった奴じゃな。おぬしは………では相手がガルバデスなら、ナリア女神の力を借りればよかろう? もとよりそのつもりだったんじゃろうて」
「へ? ナリア女神???」
「おぬし…分かっておらぬのか? おぬしが左腕につけていたブレスレットは、ナリア女神の指輪じゃろう? それに持っている杖は千年樹…神の宿り木じゃろう。女神の力を借り受けるつもりで持っていたんじゃないのか?」
「そ、そなんだっっ…全然知りませんでした…ははは。そんなに凄そうなものだったんですね~…両方とも偶然手に入ったものでして……それにしても、あれが指輪だなんてナリア女神って大きいんですね~」
「ほう…偶然とは……もしかしたら、それがおぬしの運命なのやもしれんて。ナリア王宮へ行くといい。そしてライラ姫に会うがいい。王家の姫は、代々、ナリア女神の力を継承している。女神の指輪があれば、ライラ姫の精神世界に存在するナリア女神が住まう世界と、この世界との間にゲートを開くことができる。本来この世界では存在できないナリア女神も、千年樹という宿り木があれば行き来ができるじゃろうて」
「ナリア王宮…ナリア女神かぁ……ありがとうございますっ! 仙人さま。私、行ってきますっ! そして、きっと終わらせて…みせ……ま…す………へへへっ………」
「お、おいっ! どうした? 大丈夫か?」
「あう…のぼせちゃった…みたい…ですぅ………」
「バカな奴じゃな~。のぼせる前に上がればよかろうに」
「だって…お話の途中に…動くのは……わるいかなぁ~って…思って……ははは………」
「まったく…本当に変わった奴じゃな…おいっ! 大丈夫か? おいっ!! まったく…世話の焼ける奴じゃ…くくくっ」
翌朝、ここを発とうと崖際に背を向けて立つプロフィアと、それを見送る仙人。
「それじゃ、ホントにホントにありがとうございましたっっ!!」
そう言い、深々と頭を下げたプロフィア。
「ワシは何もしとりゃせんよ。いいから早く行ってこい。そして早く終わらせてこい」
「うんっ! 終わったらまた遊びにくるね~☆」
「二度とこんでいい! ワシは人間が嫌いなんじゃ。ほら、さっさと行ってこい!!」
「は~い♪ んじゃ行ってきますっっ!! だああああああーーーーーっっ!!」
振り返り崖を飛び降りるプロフィア。
「行きおったか…まったく。ワシは人間は嫌いじゃが、あやつのことは…嫌いではない。生きて戻ってきてほしいもんじゃな………しっかし、ナリア女神は、ワシ以上に人間が嫌いじゃからなぁ…一筋縄ではいかんじゃろうて。じゃが、あの子なら…」
アクアリンク社屋内、テーブルの椅子に腰掛け、くつろいでいたジン、ロイド、リオ、ヴァル。窓枠に止まった一羽の白い鳩がコンコンと窓をクチバシでつつく。
ジンが窓を開け右腕を差し出すと、ピョンピョンとその腕に鳩が上り、足に結びつけられた小さな筒の蓋を開け、中からロール状になった紙を取り出すと、鳩に左の手のひらに載せた餌をついばませ外へと放つ。
「ほほう…伝書鳩とはずいぶん古風なものを」
そう言うロイド。
「まあな。だが、これが一番情報が漏れずに確実なんでな。定期的に世界の情勢や狩り情報などをもらっているのだが、今回はプロフィアの行方についても調べてもらっていたんだ」
ジンは紙をスーッと横に開き目を通す。
「うむ…プロフィアのやつ、世界中で派手にやっているようで動きが掴みやすかったようだな。今は、どうやらナリア王宮に向かっているらしい………こんな時に…まずいな…アイゼンシュルツェが、ついに始めやがった。王宮に侵攻を開始したらしい。既に城は墜ちたと見ていいだろうな…」
「だろうな。この世界にあのギルドを止められる力などないだろう。世界征服…まあ力を持った者の末路だな」
「ロイドの言う通りだろう。これで世界は終わりだ。まずいのは、そこにプロフィアが向かっているということだ。あの子がそんなことが目の前で起こっていて何もしない筈がないさ。たとえ一人でも戦おうとするだろうな」
「そんな………それじゃプロさんが…」
「ああ…殺されるな。俺は、ナリア王宮へ行こうと思う。俺はプロフィアを守りたい。それにアイゼンシュルツェ…マックスの悪行を黙って見ていることなんてできない。俺は、生きて戻ってはこれないかもしれない…だからロイド、リオ、ヴァル…このギルドのことよろしくたのむ」
「ばかジンっっ!! 一人でなんて行かせるワケないじゃない。言ったでしょ? ジンさんは何があっても私が守るってさ」
「ヴァル…しかし! この戦いはお前たちには関係のないものだ」
「おいおいジン。関係ないはないだろう? 俺たちはアクアリンクなんだぜ? 仲間のために戦う。それでいいだろう。それに世界を救うなんて俺に相応しい舞台じゃないか」
「ロイド…まったくお前ってやつは………リオは残ってくれ。たのむ…」
「ジンジン…私だってね、アクアリンクの一員なのよ? 私はヴァルちゃんに教えてもらったもの。大切な仲間のためなら命だってかけられるってこと」
「そういうことだジン。早いとこ行かないと手遅れになるぜ?」
「お前たち…すまない。では行くぞ! ナリア王宮へ」
そう言ったジンへ力強くうなずいて見せるロイド、リオ、ヴァル。
決戦はナリア王宮へ…何も知らずに王宮へ向かうプロフィア。そしてジン、ロイド、リオ、ヴァル。世界の運命をかけて…ついに最後の幕が上がります。
つづく




