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幼女Bの黙示録

これにて完結です。(と言っても再登場しますが)


 コツコツコツコツ―――――


 目の前を人が通りすぎていく。


 何だか、良い匂いがしてきた。


 甘くて、バターっぽくてさも美味しそうな。


 ヒクヒクと鼻がうごく。


 この匂いは、ケーキ? クッキーかな?


 美味しそうな匂い。



 目を開けると、周りにはたくさんの人が歩いていた。


 うわぁ、すごい人。


 みんなは私に目を向けないで、知らんぷりを決め込んでいた。


 ちらっと見る人も、すぐに興味のなさそうに行ってしまう。


 なんで?


 まるで、私がゴミみたいな扱い。


 私がゴミなの?


 そうだよね。


 私が実際にゴミみたいなものだから。


 私が物心ついた頃には浮浪児だった。


 親は居なくて、友達もいない、敵ばっかなこの世界にいつからいたのかはわからないし、自分の名前もわからない。


 私はただ、害のなすホームレス。




 あはは。あはははは。


 声を出して笑う。特に面白いことも無いけれど、笑った。


 声を出したせいか視線がきつくなった。


 人の目は、私という存在を奪ってしまいそうで、とても恐ろしい。


 だから、私は目を閉じてぼろぼろの毛布をかぶった。




 ここは安全なのだから……




 ◆◆◆◆◆◆◆

 視界は暗転して

 ◆◆◆◆◆◆◆




 「ママー、ママー!」


 小さな幼児の声が上がる。


 その幼児は可愛らしいドレスを着ていたが、顔は涙と洟でぐちゃぐちゃだった。


 「ママー、死なないで、死なないでー!」


 幼児は死に逝く母親にすがりつく。


 「神様、お願いします! 私、何でもしますから! お願いします!」


 無邪気そうな声で叫ぶ。


 いい子にするんだよ……、それがその子の母の最期の言葉だった。


 息を引き取った後も、泣きじゃくり続ける。




 後ろに大きな手が迫っているのにも気づかずに……。




 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 さらに視界は暗転して

 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆




 「テメー、汚い手でさわんじゃねーよ!」

 「ほら、謝れよ! あと、コレだろ、コレ!」


 叫ばれる。

 耳に反射する。

 「あ・・・・・・・・・、ぁぅ・・・・・・・・・」


 「オイ、こいつ、カネ持ってねーぞ?」

 「ちっ、マジかよ。ホームレスでもちっとはカネ持ってるハズなんだけどな。おい、このクソガキよお。オレラの服のクリーニング代、どうしてくれるんだあー?」


 前髪痛い。

 助けて、

 「・・・・・・・・・・・・」


 「おい、シカトかぁ? こいつ、売っちまおうぜ?」

 「そんだけのリスクを犯すなら、もっと上玉じゃねーと割りに合わねぇよ。だけどよぉ、ホームレスなんて王都のゴミだから、殺しても罰はあたらないよなぁ?」


 離して。

 神様・・・・・・。


 「だよなー。んじゃ、そこの路地裏でストレス発散だな。クハハッ!」

 「ククッ、楽しみだぜ!」


 痛い、痛い!

 「う゛あ゛っ!」

 引きずらないで!

 痛いよ!


 「じゃ、汚ねぇやつには拷問だな。」

 「いいねえ。」


 「・・・ぐはっ」

 痛い!

 痛いよぅ!

 助けて下さい。

 神様。




 「アヒャヒャ、楽しいな。」

 「キャハハハハ、全くだぜ。」


 「ぅ・・・・・・」

 神様神様神様。

 今日も。

 助けてくれないの・・・

 わかった。

 わかったよ・・・・・・。


 「あれ、こいつ動かなくなったぜ?」

 「あ、ホントだ。死んじまったかあー? いや、まだ、生きてるぜ。もうちょっとヤろうぜ。」



 わかった。

 わかった・・・。

 神様なんて。

 この世に・・・ない。


 「オイ、そろそろ憲兵の見回り時間だしよ、そろそろ止めねぇか?」

 「そうだな。ずらかるとするか。」



 居なくなった。

 神様なんて居なくて。

 下劣な人間と動物だけで。

 この世界は













 ・・・・・・・・・やっぱり痛い。




 ◆◆◆◆◆◆◆

 場面は変わって

 ◆◆◆◆◆◆◆




 はむっ、ぐちゃぴちゃ。くっちゃくっちゃ、ごくん。

 はむっ・・・


 ごはんを食べるのはおいしい。

 例え残飯であってもごはんはごはんだし、例えバケツの中のでも食べられることにはかわりはない。

 食べられる、なんて最高なことなんだろうか。


 「!」

 急いで、それを吐き出す。

 毒の味がしたからだ。


 あーあ、ここの店ももう食べられないのか。不味いことで有名で残飯が多くて嬉しかったのに・・・・・・

 体がピリピリしてきた。

 急いで逃げなきゃ・・・捕まる。



 しびれた体に鞭打って近くの民家の屋根に登る。

 体がしびれている分、いつもより苦労した。



 ビリビリしびれる手を目の上に置き、目を閉じる。

 明日・・・明後日のごはんはどこで食べようか。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 一瞬だけ、白くなって

 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 あれ、ここはどこ?

 私はごはんを探しに路地裏にいたはずなのに。私は・・・・・・私は狭くて臭くて汚いところにいたはずなのに・・・・・・

 「ミサ・バンビーケさんですね? ようこそ! 第2世界の魔法学園クライストへ!」

 「・・・あ。・・・ぁ・・・・・・!」

 5年かそこら使われていなかった喉は錆び付いて声は出てくれなかった。

 「ん、じゃ、まずはお風呂に入ってご飯食べる? お腹すいてるでしょ?」

 「・・・ぅ・・・!」

 どうしても声が出せなかったのでコクリと頷いた。


 「よろしくね、ミサ・バンビーケちゃん。わたしの名前はカオリよ――――」




 ◇◆◇◆◇◆




 ゆ、め、かぁ。

 キラキラとまぶしい朝日の中、私は目を開けた。

 悪夢だった。私の過去・・・だった。

 それは私の、黒歴史。誇りには思ってはいるけれど黒歴史には変わりはない。



 ふわぁーあ。

 それなりにはふかふかの宿のベッドから起き上がり、ひとあくび。

 自分の手のひらが目に入った。

 なんて小さな手のひらなのだろうか。

 十年ちょっと、前の世界に換算すると三千年ちょっとは変わっていない、私の手。

 もう、二度と動き出すことのない体の時計。

 私はいつまで生きるのか。

 そこまで考えたとき、溜め息が自然と出た。




 ああ、・・・・・・ロンはもう、帰ってこない。

 いつの間にか頭の中でぐるぐると巡っていた。

 ロンは昨日の戦闘で、死んだ。私を守って・・・死んだ。

 もう、帰ってこない。二度と、二度と。


 「ろ・・・、ん?」

 涙声で名前を呼んでも、聞き慣れた軽口は返らない。

 私のせいで。私が弱かったせいで・・・・・・。

 涙が零れそうになるのを服の袖で拭う。


 泣いちゃ、ダメだ。

 ロンに心配かけちゃ、ダメだ。

 元の世界に戻って、生まれかわったロンのしあわせを願わなきゃ・・・・・・。



 エグッ、ヒック・・・・・・

 あれ?

 どうして?

 涙が止まらない。

 どうして?

 どうして?

 私、壊れちゃったの?

 私、私は何がしたいの?

 ロンのため、ロンのためにここまで頑張ってきたはずなのに・・・・・・・・・・・・。


 ダメダメ。

 ロンに心配かけちゃ、ダメだ。

 ほら、私。笑え。笑ってしまえ。ほがらかに高らかに笑え。さも、快活に笑え。

 願わくは、それが顔に張り付くように。


 けれども、笑顔に慣れない顔面は歪んだ笑顔しか映せない。

 何故だろうか、笑っているはずなのに笑顔でいるはずなのに・・・瞼の隙間から涙が染み出てくるのは――――




◇◆◇◆◇◆







 「おひさしぶりです、ミサねえちゃん。」

 まだ、分別はつかないけれど・・・・・・メソメソしていてもしょうがないから違う使い魔を呼んだ。

 薄黄色く、尻尾がライオンのような、額には真紅の宝石がついている、ウサギ。

 ――――カーバンクル。


 「・・・カノン」

 「あれ、水龍のお兄ちゃんはどこに行ったの? カノンなんかよりよっぽどえらいのに。」

 「――――っ! ・・・・・・sっ、ししし死んだよ・・・。」

 「ふーん。そっかー。死んじゃったのかー。だったら、カノンがミサねえちゃんをひとりじめだね!」

 「・・・そうなる、ね・・・・・・」

 「カノン、がんばる!」

 ひきつった笑顔を浮かべるが、カノンは何も問いかけない。それは敢えて気づいていない振りをしているのか、本気で気づいていないのか。

 「・・・・・・よろしく。・・・・・・ん・・・・・・と今日の・・・予定?」

 涙よ、止まれ。未来へ向かえ。私の止まった魂よ。

 「あっ、えーと、きょうのよてい? えーと、えーと、えー、もうちょっとまっててね? えっと、えーっと………………」

 小さなウサギがくるくる慌てていて、微笑ましい。やっぱりカノンはかわいい。

 ・・・・・・ロンには敵わないけれど。

 あっ、・・・ダメだ、ダメダメ。

 「あ、あのねミサねえちゃん、いったんもどってかくにんしてきてもいい?」

 「・・・ん、別に・・・・・・今度は・・・気を付けて。」

 慌てて戻ろうとするカノンを制止して、ポシェットから封筒を取り出す。

 「・・・第・・・3691世界・・・・・・かぁ。・・・勇者・・・神・・・エビルデビル・・・・・・ふーん。」

 「ミサねえちゃん、どうしたの?」

 「あと・・・30分。・・・・・・買ってくる。」

 「えっ? なにをー? カノンもついてくー!」

 「・・・ダメ。」

 魔導で寝間着を普通の服に見せるようにして、鍵を閉めた。

 「・・・存在消去(イレイス)

 鍵の存在を薄くした。




 ◇◆◇◆◇◆




 「・・・・・・んー・・・」

 なかなか美味しそうなものがない。

 やっぱり技術革新が遅れているからなのか、あっさりした味のものしかない。

 近くに農村がないのか、萎びた野菜に煙くさい薄っぺらな肉と固く黒っぽいパンで挟んだサンドイッチ。

 見ただけで塩の結晶がついていて塩辛そうだ。


 ・・・・・・しょうがない。

 あと、30分で出ないと間に合わないから。

 VSエビルデビル。

 私と現地の人と小悪党の戦い。

 はてさて、どちらに軍配が上がるのだろうか?

 負けて尻をふりふり逃げるなんて・・・・・・よくあることだ。


 「・・・2つ、・・・・・・下さい」

 「あいよー、じゃ、160マルクだよ!」

 「・・・・・・ん」

 ぴったり160マルクを出してショボいサンドイッチを受けとる。

 「御贔屓になっ!」

 ワヤワヤした人混みの中に紛れ込む前にそんな声がした。


 ・・・・・・これからこの世界を離れるのだけれども。

 さて、この残った64768マルクはどのように使おうか・・・あ、孤児だ。


 ・・・・・・・・・あげるか。




 ◇◆◇◆◇◆




 「・・・あなたに夢が有るならば、私は叶えてせんじよう。絶対叶わぬ夢なれど、必ず私は叶えます。但し唯一、一つだけ、あなたの思いをいただきます。どんなに重い思いでも、私はしっかり受けとめて。その思いを世界に捧げ、あなたの願いを叶えます。」

 第3691世界の神、レサト様の目の前に座標、位置指定。

 さあ、出発。

 「ミサねえちゃん! カノンも連れてって!」

 「但しあなたの重きぉも――――・・・・・・あ、ごめんね。」

 「いいよ! よていが30セコンドぐらいおくれてるけど、だいじょうぶなの?」


 忘れ物は、もうないな。


 「・・・ん、大丈夫。・・・あなたに夢が有るならば、私は叶えてせんじよう。絶対叶わぬ夢なれど、必ず私は叶えます。但し唯一、一つだけ、あなたの思いをいただきます。どんなに重い思いでも、私はしっかり受けとめて。その思いを世界に捧げ、あなたの願いを叶えます。但しあなたの重き思い、決して手元に戻りません。」


 ハジメマシテ、第3691世界(ILLNISH)

 そして、サヨウナラ第8739世界(LUCNACE)




 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。


 よろしく、カノン。

 ・・・・・・これからも、ずっと――――





 ずれかかっていた闇色の帽子を正しい位置に戻した。


«ミサ・バンビーケの簡略年表»


・宝暦1453年(地球時間B.C1597年)

花の月第10日目にツヴィングリ国の子爵の第三子として生まれる。


・宝暦1457年

愛人だった母が死ぬ。

勘当されて、路頭に迷う。(世間的には死亡扱いとなっている)


・宝暦1462年

膨大な魔力を保有していたので、第2世界に引き抜かれる。


・(学園生活8年目)

遠足で行った世界で水龍を使い魔にする。


・(地球時間1965年)

魔法学園クライストを何とか卒業。


・(地球時間1976年)

地球の世界の王レックスムンディと会う。


・(地球時間201×年)

第8739世界の魔王を倒す。

水龍の使い魔を失う。


・(地球時間201×年)

第3691世界へ行く。

レサト様と出会う。




といった感じでありました。

だから、彼女には名字があったのです(他の人は考えるのが面倒くさ……げふんげふん)。


読んで頂きありがとうございました。



再び、彼女が表舞台に上がって来るのを期待しつつ……

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