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妖精Tの古記録 <上>

普段の5倍の文量!


打つのに時間がむちゃくちゃかかるのも納得です。

 拝啓   コサギくん。


 ボクの種族は絶滅していました。



―――――――――――――――――――――――――――――――――



 やっぱりか、と思う半面妹や弟の子孫は残ってて欲しかったとも思えた。

 まだ遺跡っぽいところは残ってたから、そこの秘宝を貰ってきた。泥棒じゃなくて、妖精のラグーナ族だったら、持ち出し自由……ではないにしても正当な理由さえあれば使えたは使えたんだけど。

 まあ、今となってはボクしかいないからどうしようもないことだけど。

 ボクの発動具は、星形のステッキ。

 これに紛失防止の魔導と破壊不可の魔術が掛かっている。

 それに、今日から新しいコートがもらえる。

 胸には黄みが少し掛かった白色。階級を示すとともに、自らの身代わりとなるお守りの星。自らの目標とする、目印となる星。特殊な魔法をかけるといろいろなことがわかるらしい。そして、この色が一番多かったりする。

 服の生地はやわらかく、身体の動きを阻害しないような暗い紺色の生地。胸で一つその星で止めてあり、あとはふわっと流すもよし、しっかり紺色のボタンを止めるもよしなコート。裾がギザギザなのもいいと思う。これを着ていることによって、『認定魔法使いプロヴァンズウィザード』と名乗ることが出来る。宇宙をまたにかけ、問題を 解決することが出来る『認定魔法使いエトワール・ウィザード』はなんと不老だ。

 この学校(卒業したけど)に入ったときには、体内の刻が止まる。

 そうそう、不老で困っていそうってのはやっぱり、ミサ・バンビーケさんかな?

 ボクは17でここに連れてこられたけど、彼女は9歳の時だったらしい。

 今年、やっと卒業っていっていたから、いつか、おめでとうとでも言ってみたいなぁ。

 ボクは妖精だから箒はいらないのが残念って思ったりするんだけどね。(ほら、魔法使いって言ったら箒でしょ?)

 でも、箒が無ければ飛べないというのもなかなか不便だと思うんだ。

 今日は『認定魔法使いエトワール・ウィザード』になって初めての任務なんだ♪

 だから、今日は楽しみなんだ♪

 「では、これから今回の任務の説明をする。」

 「「はい」」

 たまに間延びした声も聞こえる。

 総勢5人。今回の試験で合格した人の数。

 ボクとちびっちゃい子とタカビーな人と人魚の人と双子の人。

 双子の人って言っても、一応“一人”扱いなんだ。片手と片足が繋がっていて別行動が出来ないかららしい。その理由は……言っていいのかな、言っちゃお。……心臓が一つしか無いから。女の子の方に心臓は無くて、男の子の方には馬並みの強すぎる心臓がある。

 そのお母さんがというか、その世界が生まれる子供が少ない世界だったらしく、生きていけたそうな。

 ……風呂とかトイレとかどうしてんだろ。

 「今日は、第8739世界の魔王を倒しに行きまーす。そこの神様から救援依頼が来ましたー。ま、ランクはCだから、前衛がいなくても何とかなりまーす。」

 ええーと不満の声が主に人魚の人とタカビーな人から出る。

 「大丈夫です。みんなを信じて! とりあえず、私はみんなを見守っているから。じゃ、集団転移(マステレポート)行いまーす。頑張っていきましょう!」


 みんなの足下(但しボクは空中に浮いている)から青白い光が出る紋章が有って。

 抵抗する前に自分が細かい粒子になるように感じた。




 ◇◆◇◆◇◆




 「はーい、ここを抜ければ魔王の居城でーす。では、頑張ってくださーい?」

 先輩! “(ハテナ)” はやめて下さい!

 「存在消去(イレイス)

 古株の女の先輩が水に溶けるように消えた。



 有象無象のこれからどうしようボイスがあたりにばらまかれる。

 「じゃあ、まず自己紹介をしましょう。わたくしから時計まわりに自己紹介して下さい。わたくし、サラサラ死ぬ気はないので、さっさと倒して拠点に戻りましょ。」

 タカビーな女が仕切っていた。

 普段はムカッとくるかもだけど、今はとても助かる。

 空中分解しかねなさそうだったし。

 「わたくしは、ルーテ。発動具はこの杖ですわ。発動準備時間は短いですけれど、そのぶん威力は小さいですね。これから短い間ではありますが、よろしくお願いしますわ。」

 へぇ、案外タカビーじゃない……かも?

 「えっと、おれは人魚(マーマン)のヒトシだ。っと水の中は任しとけ! だけど、陸上は人並みにしか動けないな。発動具は腕輪で、武器(ウェポン)は銛だ。まっ、よろしくな〜。」

 スカートをはいている男の自己紹介。

 「えっと、アタシはユーリで、こいつの姉です。発動具は指輪で、武器は弓です! よろしくお願いしまーす。」

 「……ユーマだ。発動具は同じく指輪、武器はこの剣だ。」

 “よろしくお願いします”を抜かしていたので、お姉ちゃんに頭を殴られていたのは少しかわいそうでもあったけど、場を和ませることができていた。

 やるな!

 ……あっ、ボクの番だ。

 「ティムです。発動具、武器共にこのステッキです。小さいので、肉弾戦は難しいですが、囮ぐらいにはなると思います。よろしくお願いします。」

 ふぅ、何とか言えた、な。

 おでこの汗を拭うような動作をした。

 次は、最後のミサ・バンビーケさんか……

 「・・・ミサ。」

 そう言っただけで、あとは何にも言おうとしない。

 ポムッと小さな音を立てて、一人の人間が出てきた。

 ……人間?

 確かに、ボクらの仲間は使い魔になっているやつもいるから、“人間”の使い魔も使えるっちゃ使えるけれどそれは倫理的に不可能だ。

 「初めまして。ロン、と申します。ご主人様に代わり魔法、魔術の方を施行させていただきます。皆さま、どのような命令をしていただいても構いませんが、ご主人様の意向に沿わないことは致し方ございませんことをこの場をもって深くお詫び申し上げます。」

 ここでこんな頭がフリーズしそうな文言を聞けるとは思ってなかった。

 「べ、別にそんなかしこまらなくてもよろしくてよ。」

 タカビー女もといルーテが困惑した表情を保っている。

 「わかりました。ご主人様は発動具に拳銃を使っており、武器もまた同様に拳銃です。よろしくおねがいしますととも言っておりました。」

 ミサさんはコクリとうなずくだけで、あとは無言無動作だ。

 ま、一応は同じ学校の生徒だから、大体はわかっているんだけどね。

 ミサさんはあまりにも無口で無口だ。

 「あのっ、ロン……はどのような魔法や魔術を使えるんですの?」

 ありゃ、タカビー女のほっぺたがほんのり紅い気がするな。

 「一般的なものは使えますよ。」

 「……あら、そう。」

 タカビー女は顔を背けた。



 「……では、そろそろ出発しましょう。」

 ありゃ。

 いつの間にかタカビー女ではなく、使い魔男が音頭をとっている?




 ◇◆◇◆◇◆




 「あそこにガーゴイルが2匹いますね。あと、あっちにケルベロスが1匹。それ以外にはないです。」

「わかったわ。じゃ、ティムとユーリ、ユーマ、ロンはケルベロスでわたくしとミサとヒトシはガーゴイルですね。では、いくわよ!」

 「わかったよ、ルーテ!」

 「うん……」

 「まっかせとけ!」

 「全てはご主人様のため。」

 「・・・・・・・・・・・・・」

 ボクは、

 「頑張るぞっ!」

 って、言ったんだ。

 「みなさん、お怪我のなさらないよう。」

 ルーテはそう言い捨てて、ガーゴイルの方に翔んで言った。脚力強化の魔法が掛かっていたみたいだ。

 わかったよ、と声を出しながらユーリとユーマが駆けていく。

 ボクは羽を全速力で震わせて、ユーリとユーマを追い抜かし、ケルベロスのところへ向かった。




 「グルルルルルゥゥォォォオオオオウ!」

 「ゲルルルルルゥゥゥゥ…ガオゥーッ!」

 「キャルルルルル、キャゥ、キャオン!」

 ケルベロスの3つの頭が同時に吠えた。

 頼れる仲間はユーリ&ユーマ、ロンのみ。

 ユーリとユーマは機動性に欠けるし、ロンはそれを庇っていたら勝負がつかない。しかも、戦闘が長引けば他の魔物が音や匂いに誘われて出てきてさらに状況は悪化する。それは避けるべき。


 「だから、ボクは囮になる。」


 小さな体を利用した機動力。それは誰よりも優れているはず。

 願いを込めて、ボクは言う。

 「ボクの夢は世界平和。人種差別のない世界であってほしい。だからボクは、For the All――.」

 体に力が巡る感覚があって、思考スピードも身体スピードも上がった気がする。

 ケルベロスの高い声の頭のそばで目の前をうろちょろする。


 「キャア、キャイーン!」


 警戒音、すなわちボクを敵と認めたよ音を甲高頭は出した。

 そのとたん、残り2つの頭もくるりと鎌首をもたげ、グルルルルと威嚇してきた。


 無視。

 ……するしかない。

 ロンもユーリ&ユーマも、囮になるほどのスピードはない。ロンはあるっちゃあるけど、どちらかというと、ダメージディーラーだから囮にしてはいけないタイプだ。

 だから、ボクは翅を震わせた。


 キイィィィィィイイィィィン……


 耳の中で甲高い音が響く。

 ……あれ、もうそんな速さか。

 でも、まだケルベロスは全ての頭でこちらを見つめている。

 さあ、まだまだ。

 ロンとユーリ&ユーマの準備が終わるまで。

 ボクは……


 ガウッ!


 髪の毛の横をヨダレまるけの口が通った。

 お腹のそこがスッとしたような気がしたけど、動き続けなければ死への一本道を爆走するに等しい。

 「ボクの夢は……よっと、世界平和ぁっ!人種差別のない世界でっとっとっと、あってほしいほうあっ!だからボクはぁっふぅ、For the Allッ!」

 避けながらチマチマと言霊を唱えた。

 作戦変更――――!

 『もしもし、ティム様ですね。』

 (別にティムって呼び捨てでいいですよ。)

 『今、追い付いた、ユーリだよー! ユーマと二人で業火練っていいー?』

 『いいですよ。そして、ティム様。』

 (様付けはやめろっ!)

 ぶおっと襲ってきた爪を無意識で避ける。

 『これはご主人様からのご命令――』

 『――ああっー! もうっ! いいの、業火出して! あんたら、こんなとこでちんたらしゃべってる暇あるの?』

 『……わかりました。では、お二人方が業火を発動しますので、ティム様は離脱したあと風の魔法か魔術を使って下さい。そのあと、自分が突っ込んで倒します。』

 (や、そんなの、悪いって。いっつもロンが殿(しんがり)なんだよ? ロンが死んだら、ミサさんが悲しむよ?)

 真ん中の頭の右目にステッキを振りかぶりながら急速加速(アクセル)を掛け、眼球を破壊する。

 激昂したケルベロスが向かってくるが、そんな単純な動きは見え見えだよ。

 『大丈夫です。自分は強いですから。それに……ご主人様は悲しみません。』

 何か、淋しそうな声が聞こえたがケルベロスのせいで良く聞こえなかった。


 えっ、何て言ったんですか? と言おうとしたが。

 ツー、ツー、ツーと通話終了の音が流れていた。

 何て言ったんだろう。

 ……気になる。

 目の端に狂暴そうな頭が映る。

 ヒラリと避けた……つもりだったが、少しの服が牙に持ってかれた。


 「ちっ……」

 ボクの体は限界に近いようだ。

 後ろをちらりと見ると、ロンが手に光を湛えていた。

 ケルベロスも、そちらの方にも気が取られているようだった。

 多分あれは――――――――、



 意図がわかったボクは翅を最大限に震わせて上空、あの曇って湿気た空に精一杯飛ぶ。

 “業火”が来る。“鬼火”がくる。

 ヤバイ。

 そう思った瞬間、肌を焼くような凄まじい熱気が立ち上って来た。

 「あっつっ!」

 うわっ、ミスった。

 指を少し舐め、ひんやりした方、つまりは風上に移動する。



 ひゅっと風が吹き、熱くなっていた表面が冷まされる。

 背筋がゾクゾクッとするが、下を見る。

 業火はそろそろ消えそうだったが、ケルベロスはまだまだ動けそうだった。

 『おーい、ティム君! 風の魔法はまだかいなー?』

 ユーリからコールが入った。

 (あっ、忘れてた!)

 『だと思ったー。もう遅いから、風魔法は使わないでね? で、土か闇の捕縛魔法、よろしくー。うちらも掛けるから、とりあえず足は動かないように、以上!』

 (了解です。)


 言霊を唱え、未だ少し炎の残っているケルベロスに土の茶色の足かせを創る。そして、水の属性で強化する。

 ユーリ&ユーマは闇の属性で足止めをしたっぽい。


 断末魔があたりに響きわたる。

 それは、他の生き物を集める声。小さなものは微生物から、大きなものはケルベロスと同じレベルのものまで――――!

 「無声音声(サイレント)ッ!」

 3つの頭を1つの頭として、無声音声(サイレント)を掛けた。

 「……グッ…………」

 足枷から逃げ出そうとするし、サイレントは破壊しようとする。

 それから抵抗するために多くの魔力を注ぎこむけど、その分体力の消耗が早い。

 足がガクガクするけど、翅で飛んでいりボクには関係ない。怖いことは翅が動かなくなることと……

 「……よっし!」

 自分に喝を入れて魔力を注ぎ込むのに専念する。




 ロンはまだかなぁと思ったそのとき、ロンがケルベロスを殴りとばした。

 邪魔になるから、意地汚く残っている土の魔力を回収して、サイレントの維持に取りかかる。

 いつもだったら、ユーリ&ユーマが遅延魔法を掛け……あっ、掛けた。

 ケルベロスが見るからに遅くなる。

 殴りとばしたケルベロスに肉薄して手刀の構えをとり、そのままケルベロスの首を切断した。

 よし、もう終わりだなと思いつつも、サイレントに掛ける魔力は変えない。

 ロンの手刀で合計3つの頭を刈ると、ケルベロスの体は地に伏した。


 絶対結界(ザ・バリアー)をロンが唱え、臭いがあたりに散らないようにして戦闘が――――終わったのだった。




 ◇◆◇◆◇◆




 「遅かったですわね、あなた方。わたくし達はもうとっくにガーゴイルを倒していましたよ。」

 「あっ、ウソついちゃいけないんだよ、ルーテ! ヒトシ君がたった今討伐を終えたって言ったもん! ほら、意地なんて張らずにもっとリラックスリラックスって〜。」

 「…………。」

 「なんだよー、ルーテー。黙りこくっちゃってさー。ほら、笑顔笑顔っ! 笑顔がいちばんかわいいってユーマも言ってるよー?」

 「世迷い事をほざかないで下さる?」

 「……言ってない。」

 「はいはい、ごめんよー。それはそうと、ロン。もうそろそろ夜だけど、今日は野宿だったりするよね?」

 「ええ、そうですね。明日か明後日には魔王の城に着きますから。証拠に魔物のレベルが上がってきているって感じません?」

 「だねー、みんなもそう思うでしょー?」

 「確かに……そうですわね。ですが、対処できないわけがない、ですわ。」

 「そうだよね!」

 「そうだな。」

 「…………。」

 「・・・・・・。」


 「こら、ユーマ! 返事はきちんとしなさいっ!」

 「…………はーい。」

 やっぱり姉ちゃんって怖いなぁ。居なくて、良かった。

 まあ、仲がいいのは良いことだけどね。

 「……それでは、野宿の準備にかかりたいと思います。自分はテントを張りますのでユーリ・ユーマ様は薪を、ヒトシ様は結界を、残りの方は夕飯を作って下さりませんか? ご不満がありましたら、ぜひ自分に。」

 特に何もなかったから、それぞれ目的を果たすために散った。

 料理は何処で作ればいいかとロンに尋ねようとしたとき、ルーテがロンに声をかけた。

 「あ、あのっ……!」

 きっとボクと同じような質問だろうと、

 「……何ですか、ルーテ様。」

 心の底で、思っていた。

 「何故(なにゆえ)、ティムやミサさんを料理班にするのですか? 料理なら、ユーリちゃんとかの方が上手ですのに。」

 ……でも、違った。

 発された声は真っ黒なヘドロを練り込んだような声。

 「や、自分は適材適所で選んでいると思ってますよ? ユーリ・ユーマ様達で明日の朝までの薪を拾い、残りの方々で一番力の強いヒトシ様に結界を張ってもらい、残ったお三方は料理ができる。自分のご主人様は人とのコミュニケーションが苦手でありますし、いささか言いにくいのではありますがティム様はまだまだ動きが荒削り、ルーテ様はある意味でコミュニケーション能力が不足しているのではないでしょうか、と思いましてこういうような人選にしました。」

 ……荒削り……かぁ。

 確かに……だなぁ。

 ギリギリで避ければコストも下がる……けど。

 「なっ、なんですってー……!」

 ……この言い方は〜どうかな。

 ルーテはキレちゃったし。

 「わっ、わたくしを侮辱しないで下さるっ! わたくしが下手にでていたらいい気にならして!キィッ!! 魔法を連発できるわたくしの方が格段に強いのですわ! さあ、跪きなさいっ! 平伏(ひれふ)しなさい、わたくしの(もと)に!」

 巨乳とでも言えるようなカップつき(・・・・・)の胸を張り、反らし、指で下を指して仁王立ちをしていた。

 「…………どうしましょう、ご主人様?」

 ロンがミサに顔を向けたが、ミサはなにも動かない。

 「……わかりました。ご主人様からの回答です。ロンがあなたに跪く必要はない。あなたも私もロンも他の子もみんな同じ目的を持った“仲間”なのだから、対等であるべき。……だそうです。ご主人様の回答は自分の回答ですゆえ。」

 「なっ、なによそのいい子ちゃん回答! ミサ、あんたよ! 無口キャラでなんにも言わずにそのくせたまに実技でぶっちぎりの一位をとったりしてるくせに、何その劣等生顔! 普通に優等生じゃない! なのになのになのに……!!! 何であんたは劣等生顔するの! わたくしはあなたが気にくわないのっ! 目の前から消えて頂戴っ!」

 ……死刑宣告………かぁ。

 っていうか、こんな場所でこんなこと言わないでほしいね。もっとこう、プライベートな空間で言うべきだーって思うんだけど。

 「・・・・・・・・・」

 スッと沈黙を保ったまま、開けた広場から森に入った。


 「キーーーーッ! あなた、逃げる気っ!」

 とヒステリックな金切り声をあげているがミサさんはお構い無しで深い森に入っていく。

 「何よ、あなた! 見てるんじゃないわよ! そういえば、あなたはわたくしが醜態を見ていましたね……」

 と、逆怨みというか、反・逆ギレというか、キレられた。

 や、ボクはただ見てただけの傍観人だし。ボクは何も関係ナイんだよ。



 なんて言える訳でもなくルーテの目を見つめていたら、ひゅっと体が引っ張られるのを感じた。




 ◇◆◇◆◇◆




 「えぇっと、大丈夫でしょうか?」

 ロンがドアップで視界の中に映った。

 「あっ、だだだ大丈夫ですぅ……」

 後ずさりながら言った。空中にいたから大丈夫だったけど、地上にいたら尻餅をついていたと思う。

 「じゃ、レッツクッキング! ですよ?

 「……はぁ。」

 第874世界のリー柴田さんですか?

 「ルーテさんは抜けていますがまあ、彼女は頭を少し冷した方がいいでしょう。魔術とか魔導とかを使用してもよろしいので、“カレー”を作っていただけませんか?」

 えっ、やだよ。

 ボクは体がちっちゃいんだよ? 無口さんと、二人っきりってどんだけ雰囲気悪いんですか〜?

 ……ああ、でも。

 ロンってテントを一人で組み立てるんだったよな……

 「わかりました……」 しぶしぶながらも肯定する。

 「では、あちらにご主人様が待っておられるので……」

 指で指した方向を見て、でボクはどうしたらいいんだ? と聞こうとしても、そこには誰も居なかった。

 「……まあ、いいや。」

 指し示された方向へと急ぐ。




 ◇◆◇◆◇◆




 「・・・・・・遅い。」

 まな板らしかったものに野菜だったっぽいものがばらばらと散らばっていた。

 細かいねー。

 まな板はおろか、包丁までバッラバラー!

 「・・・・・・嵐の刃・・・?」

 ……なるほど。野菜を切るために発動した魔導が切断しちゃったかー。

 「大丈夫だよ。ありがとうね。」

 子供をあやすような口調で言ったら怒っているような雰囲気になった。

 ごめん、ごめんっば。


 言霊を唱えてまな板と包丁の欠片を野菜から分離する。

 洗浄して、鍋の中へ入れた。

 「・・・煮込む・・・カレー粉・・・?」

 「うん、そうだね。カレーって煮込めば煮込むほどおいしくなるから、促進か時間短縮の魔法を掛けておけばいいよね、……あっ、薪がない。」

 「・・・・・・ほら・・・」


 彼女の腕には大量の薪が鎮座していた。

 「ど、どうしたの、それ?」

 「・・・魔導・・・で?」 火よ、と呟くと、ポゥと火がついた。これは、本物の木だ。

 「……すごいね、ホントに。」

 普通は、形ぐらいしか、見た目しか魔法では表現できないけど、本質を現すことはできない。

 普通の魔術でも、一部の魔導でも。

 でも、彼女はできた。やっぱりすごい。これが格の違いと呼ばれるヤツなのか?

 「ありがとうね!」

 「・・・・・・」

 無表情で、だけど嬉しそうな顔をしていた。

 竈を魔術で作り、火の魔法で薪に直接火をつけて、安定するような感じで網を乗っける。

 「ミサさん、ちょっといい?」

 「・・・・・・?」

 彼女は首を少しだけ傾げた。

 「ボクだけじゃ鍋が持ち上げられないんだ。」


 コクリとミサさんはうなずいた。

 ……良かった。

 手伝ってくれなかったらと思ったら……なわけないか。



 「よいしょっ!」

 筋力強化の魔法を掛けて(もちろん言霊を唱えて)、ミサさんと一緒に鍋を持ち上げる。

 ドスッと重量感溢れる着地音が鳴るなか、ミサさんとの距離が少しだけ縮まった感じがする。

 少しだけ、ほんの少しだけなのだけれども。

 「あとは煮込んで味付けするだけだね。」

 「・・・・・・うん!」

 自分より歳上のはずのでも体は小さな少女が、可愛く見えた瞬間だった。




 ◇◆◇◆◇◆




 「はいはーい、ユーリちゃんがユーマと共に薪を拾ってきましたよー!」

 「………………。」

 「あっ、ありがとねー。そこ置いてくれるー?」

 「どーいたしましてー! ここだよねー?」

 「………………。」

 「うん、そこだね。」

 「これ、ユーマ! あんたもなんか返事しなさい!」

 「……あ、えっと……こんばんは?」

 「こんばんは?」

 「あんたねぇ、今さらこんばんは? じゃないわよ!」

 「……じゃこんにちは。」

 「……えーっと。」

 「こんにちははもっと違うってばっ!」

 ユーリのツッコミ(繋がっている方の手で)がユーマの頭にサクッと刺さった。

 「ちょっ、痛いじゃんか、姉ちゃん!」

 「コミュ障なあんたが悪い。ところで、何でもう火が付いてるの? うちら、遅かった?」

 「ううん、大丈夫だよー。ミサさんが薪を作ってくれたから。」

 「! 作った! すごい、すごい! ミサちゃん、天才!」

 鍋が焦げ付かないようにぐるぐるかき混ぜていたミサさんに近寄った。……ユーマを引きずりながら。ちょっ、引き、ずるなっ、とか言ってる。

 なんか、かわいそう。

 「だーい好き!」

 数メートル離れた場所で踏み切り、そのまま勢いよく跳んだ、ユーマはもう……為すがままだ。

 「・・・・・・ユーリ・・・さん。」

 「ユーリって呼んでねー!」

 「・・・ヤ・・・だ」


 飛びかかるユーリをひらりとかわし、続くユーマの軌道を修正して(カレー鍋に当たりそうだった)、お玉をぐるぐる回し続けた。


 ちなみに。カレー粉を入れる前はかき混ぜなくても大丈夫なんだよ?


 「・・・・・・カレー粉?」

 ん? ああ、そうだね。

 「そろそろ、カレー粉入れようか。」

 「・・・わかっ・・・た。」

 すぐそばのテーブル――奇跡的に“嵐の刃事件”から生き残っていた――からカレーのルーを取り、トテトテと駆け寄って分量通り入れた。

 「・・・ぐるぐる・・・・・・ぐるぐる・・・・・・。」


 お玉を回して溶かす。

 えっと、なんかボクができることないかなぁ……。

 そうだ、たき火の火を用意しようっと。

 ユーリ&ユーマが拾ってきた薪を草を刈って火が燃え広がらないようにした場所に置く。薪は太めの三本をトライアングルのように組むのがポイント。間に細い木の棒を結構いれて、最後におがくずと導火線のもととなるような草の枯れたやつを間に挟み込めば完了。あとはマッチでもチャッカマンでも魔術、魔導でも火を付ければ薪を切らさない限り火は燃え続ける。

 ま、魔術とか魔導は使用者が解いてしまえばおしまいなのだけど。



 ふぅーと息をつこうとしたとき、ユーリのこんな声が聞こえてきた。

 「あー、いいにおいっ! 美味しそうー! あっ、あたし味見係に立候補するよー!」

 「・・・・・・ダメ。」

 「な、何でダメなんだよー?」

 「・・・そ、それは・・・・・・」

 「理由が言えないなら、いいじゃんかー! あれ、ごはんは? 飯ごうがないよー? もしかして、カレーオンリー?」

 「・・・・・・あ・・・」



 あ。



 テーブルの下を見ると、ちょこんと黒い飯ごうがかわいらしく、それは大層かわいらしく、据わっておりました。

 「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 忘れてた、バカじゃん、ボク。

 カレーにはご飯は必須なのにっ!

 「どうしようっ!」

 「どうしようもないよな、ユーマ。」

 「そ、そんなぁ……」

 「……促進魔法をみんなで使えばなんとかなるばず?」

 「あっ、なら、大丈夫! 間に合うかもっ! じゃ、米を洗ってくるから、準備して待っててねー。」


 「……何言ってるの、ティム? あんたのちっさなお手々で米はほとんど研げないんじゃなーい? ほら、ユーマ。米研ぎに行くから手伝いなさい。……だって、二人でした方が早く出来上がるだろうからね!」

 ユーマを引きずりながら(仮)流し場に向かった。

 「あっ、ありがとね!」

 と声をかけると、お互い様だからねーと呑気な声を上げていた。

 ユーマはジタバタと暴れていたが、ユーリから拳を一発もらうと静かになっていた。

 「じゃ、言霊でも唱えて、準備しよっかな〜。」

 空中1.5メートルでホバリングしながら、呟いた。


 「ほょなぁっ!」

 重力とはまた別の正体不明な力に驚いて奇声をあげてしまった。

 後ろから、多分裾がどこかに引っ掛かった……ような?

 でも、ここは広場(障害物はない)のはず――――!

 まさか、幽霊っ!


 ソロリ、ソロリと後ろを向くとそこには……ミサさんが、裾を引っ張っていた。


 「・・・座標指定・・・・・・か、事象指定?」

 あ、促進魔法の対象ね。

 「あー、事象指定の方がいいかもー。」

 「・・・わかった・・・」

 言霊を最後のフレーズだけ残してそのまま待機。

 『できたから、飛ばすね!』

 とユーリから念話が飛んできた瞬間、飯盒がかごに入ってそれなりのスピードで浮いてきた。

 ピタリとボクの前で止まる。

 「いっ、しょっと。」

 筋力強化の影響がまだ残っていて、簡単に持ち上がる。ユーリの魔法が解けてずしりと重くなっても両腕で支えられる。

 「ミ、ミサさん! そこの棒を取って!」

 さすがに、ボクだけではこれは用意出来ない。

 無言でなおかつ無表情で彼女は鉄の棒を取ってくれた。

 「ありがとう、ねっ!」

 彼女は口をぱくぱくさせた。何を言いたかったんだろう?

 思いつつ、棒に飯盒の持ち手を通す。

 手伝ってもらって即席の竈の上にかけた。

 もちろん、薪はもう組んである。チャッカマンで火をつけてメラメラと火が燃え出すのを確認した。

 「じゃ、ミサさん。お願いし――」

 「あなたの思いをいただきます・・・。」

 ボクの言葉を遮りつつ、最後のフレーズを唱えた。

 小さな炎が大きくなって、その炎がさらに大きくなって、さらにさらに……



 飯盒を呑み込むほど大きくなっていた。

 ………………。

 パチクリ。

 …………っ!


 「っちょ、ミサさん! どんな魔導(・・)を掛けたんですかっ!」

 「――・・・反応促進・・・・・・火力ぞ」

 ゆったり喋りも今は、もどかしい。

 「火力増強止めて! 早く!」

 一刻も争う事態にボクは叫んだ。

 「・・・わかった。」

 ポシュと火は急に小さく普通の大きさになった。

 新品だったみたいな飯盒はもうすすまみれだ。

 「あと、促進のレートは!」

 あの馬鹿火力がどれだけ続いたかも問題で、もしレートが10より大きかったら……。

 「・・・にじゅう。」

 「にっ、20っ! レートを5まで下げて!」

 「・・・わかった・・・」

 なんだか、不服そうだけど仕方がない。米が米が炭になる!


 ……火の揺らめくスピードが格段に遅くなった。

 新品の飯盒がすすまみれになっている。

 「水よ、彼の物の状態を示したまえ!」

 風属性は密封されているから、使えない。水の力でみると細部が分からないが今はいい。

 ……Oh!

 ……見たところ半分ぐらいは焦げてる。まあ、ギリギリお焦げとして通用できるレベルかな。

 でも、これを悪化させない自信がない。

 じゃあ、いっそのこと賭けをしてみるか。

 さっき燃えた分の薪を継ぎ足してっと。

 「火よ、彼の米を美味しく炊きたまえ。」

 薪を入れた分だけ小さくなっていた火が、一気に大きくなった。

 ……始めチョロチョロがキレイに消えたなー。

 さて、あとはタイミング良く薪を入れていくだけだね!

 「・・・ティム・・・・・・くん?」

 「あっ、ミサさん、どうかした?」

 「・・・何で?」

 「……えーっと、何がかな?」

 「・・・全て・・・?」

 「……全て!?」

 彼女はコクンと頷いた。

 「全てってどういう意味?」

 辛抱強く聞いていくと、米を何故最初から魔法で炊かなかったかと聞きたかったらしい。

 「あー、失敗する可能性があったからね。失敗した場合、全てが丸焦げになって大変だからね。」

 「・・・これ・・・せい・・・こう?」

 「うん、成功だよ。成功率は60%だったけど、成功してよかった……」

 「ってことは、米をもう一回洗わなきゃいけなかったかもしれないのかーい!」

 「ヘブシッ!」

 頭、どころか体全体が揺れた。翅が少しだけ縺れたけど、墜落はしなかった。

 「・・・ユーリ。」

 「ユーマもいるよ! ってユーマも言っているよ!」

 「……言ってない。」

 「ユーリ! 何するんだよ! 痛いじゃないか!」

 「何言ってんの! そんなんは痛いうちに入らないよ! 痛いはそんなヘラヘラ笑いながら言えないよ? 痛みはもっとセツナクて、もっともっとカナシイんだから!!!」

 この場の空気が切れかけの炭酸のようにしゅんとなった。しんみりした、もの悲しい空気が空間に染み渡る。

 「……そうだね。ボクが悪かった。」

 ボクもみんなもココロのキズを抱えている。痛みは何時でも感じている。

 「なら、いいんだ!」

 ユーリはにぱっと笑ってボクに指をさす。

 しんみりした空気が少し薄くなった。

 「弱音は吐かない! みんなも抱えてるんだから! でっ! カレーはいつ出来るの?」

 「あと、10分ぐらいでできるよー。」

 もう、薄青い空気は何処かに飛んでってしまったよう。さっきの気楽な場面に戻った。

 「・・・ペコペコ。」

 「だよねー、ミサ! ところでルーテは? 見かけないけど。同じお料理班じゃなかったっけ?」

 「あー……」

 言うべきか、言わざるべきか。

 ミサさんとルーテちゃんがケンカしたことは言うべきか、言わざるべきか。

 「・・・ケンカ?」

 そんなボクの心情を知ってか知らずかミサは普通にその事を口に出す。

 「な〜る。ケンカしたのか。だから、いないのかー。あー、おなかすいたなー。」

 心底どうでも良さげな顔をしたユーリを見てユーマは心配そうな顔をしていたが、ユーリは我関せずを貫いていた。

 「あと、何ぷーん?」

 「5分ぐらいー。」

 「へぇー、あと5分かー。」

 ユーリは地面に落書きを始めた。落書きをと言っても、魔力回復の魔法陣だ。

 「姉ちゃん、」

 「話しかけないで。」

 「他の人と話していい?」

 「ダメ。ちょっとぐらい待ってなさい。」

 近くにあった木の棒でフリーハンドなのにきれいな真円を書いた。そこへいろいろな文字を当てはめていく。

 「終わったぜー! メシはまだかー?」

 「あと、もうちょっとで出来るよー。」

 ヒトシが帰ってきた。……ウサギを数匹携えて。

 「これ、なんか食えるもんにしてくれよ。ほら、今日のバンメシはカレーだろ? カレーだけじゃさみしくならんか?」

 「あー、確かにそうだね! さあ、ティム! 作っておしまい!」

 「何その悪役の魔女みたいな口調!」

 「あたしも手伝うから! 子ウサギの串焼き、串焼き〜♪」

 「わ、わかったよ。」

 「頼んだぞー、料理係!」

 ヒトシの声がボクの心に突き刺さる。別に望んでしてる訳じゃないし……。

 「料理係って呼ぶな! ……ていうか、お前も手伝えやっ!」

 「や、できねーもん。精々できんのはカレーの盛り付けだけだしー。」

 見た目だけのテーブルと皿を作り、並べる。

 「ほら、ティム! ユーリらと串焼き作ってくれよ、なっ?」

 そう言われてしまえばしょうがない。そう思うしかない。

 「……うっ、わ、わかったよ。」

 翅を少し震わせると推進力が生まれる。

 「ユーリ、ボクも手伝うよっ!」

 流し場でウサギ相手に悪戦苦闘している声をかける。

 「ティム、もうちょっと、早く来なさいよ?」

 包丁片手に、ウサギを両手に持ったユーリは“にっこり”と返答。

 「ちょっ、怖いからっ!」

 と、言いつつも自分から笑顔が溢れるのがわかった。

 ……ユーマは無言で黙々とウサギの毛を刈っていた。


 あれ、ユーリより下手?

 「……言うな。」


 あれ、心が読めるのかな?


あれ、ご飯の準備に半分以上使ってた……?


あれー、こんなつもりはなかったのになー。





『おとうさん、そこにみえないのー

てすとがいる、こわいーよ』


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