後輩Aの回顧録
短いです。
すみません。
もう一つ、出そうか。いやいや、テストがあるからな……
「では、昇進試験を始めます。一同、礼っ!」
パラパラと礼が返ってくる。90度の最敬礼をする者もいれば、会釈程度の者もいる。
でも、ほとんどの生徒は45度ぐらいのお辞儀だった。
そうね、10回目の彼女は目礼だったわ。
やっぱり、10回目ともなると貫禄が違うわね。
あと、2回、今回を入れると3回しか受けれないのに、媚びてないの。
あっ、7回目の彼は最敬礼だったなー。
礼のしかたに違いはあれど昇進試験は始まりました。
昇進試験とは、魔法使い達が学生の身分から前線に向かえるかどうかの試験なのです。
胸に抱く星が紺色……空の闇の色から、それぞれの星の色に変わる。それだけでないにしても、紺色からカラフルな色はみんなのあこがれなんですよ。
あっ、ワタクシ?
ワタクシは、青白色ですよ。
2年で学校を卒業したんです。
優秀ですよ?
「……では、第9班のミサ・バンビーケさん、クロード・ハーディさん、こちらにどうぞ!」
3周目、4周目のダブダブリンの人はこれだけしかいないのです。
他の方は合格するか、|星に帰るか《ここには来なかったことに》してしまったのです。
皆さんは、少し根性がないといいますか、もう少し頑張って欲しいと思いますね。……まあ、ワタクシのいうことではないと思いますが。
「では、第一次試験を開始します。好きな動物を召喚してください。何を用いても構いません。」
二人に向かって言う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
ミサさんはポシェットから取り出した一枚の紙に“ロン”と魔力のかかった言葉を語りかけ、ポンッと小龍が出現した。
無詠唱というんだから、驚きです。
クロードくんは、自分の言霊を唱えて……ってビカビカ光ってますね。マイナス10点。
召喚したのはライオン。
百獣の王ですので、龍とはタメを張れますが、魔力は大丈夫? と問いたいところですね。
「では、消してください。」
ミサさんは“バイバイ”と無詠唱。クロードくんは言霊を唱えて消していました。
……クロードくん、消耗してますね。マイナス5。
「では次にこの動物を召喚してください。」
魔法で文字を映し出す。
“鼠・牛・虎・兎・龍・蛇・馬・羊・猿・鶏・犬・猪”
分かりやすいように、黒板に白字で映した。
「言霊、または省略詠唱でしてください。補助的にものを使うのは禁止です。では、始め。」
「あなたに夢が有るならば、私は――――」
「出でよ、ネズミ。出でよ、牛。出でよ――――」
ミサさんは言霊詠唱が長いのでマイナス20。そしてクロードくんは全て詠唱省略していますが、大丈夫なのでしょうか?
実践的ではないのでマイナス30。
「終わりました。」
クロードくんは、実物大サイズを作ってくれたみたいです。
まあ、よし。
「・・・・・・・・・・・・。・・・あの・・・!」
あら、ミサさん。出来た……?
でかいネズミ、ショッキングピンクな牛、デフォルメされたトラ、少し人化していて服を着ているウサギ、龍はばかでかくてヘビはすごく短い……etc.etc……
なんじゃそら!
みたいな。
確かに気を取らせるには良いと思うけど、これはないでしょみたいな?
マイナス40点ですね。ええ。これは……ない。
◇◆◇◆◇◆
「では、第7次試験を始めます。魔法使いは敵を分断することも必要です。違う次元に空間を作ってください。そして、明かりを灯してください。まずはミサ・バンビーケさん。制限時間は1分間です。広ければ広いほどいいです。では、始め!」
「・・・あなたに夢が有るならば、私は叶えてせんじよう。絶対叶わぬ夢なれど、必ず私は叶えます。但し唯一、一つだけ、あなたの思いをいただきます。」
シュワッとどこかへ消えました。
……えーっと、ミサさんは、合計1266点、平均は79.1か。ま、あと94点取れば合格……か。
どうにかして、合格させてやりたいなぁって思ってるんだけどね。
ピピピ……
あら、5秒前のアラーム。
4
3
2
1
「Compulsion・enter、OK?」
ワタクシは自身が暗闇に溶け込むような感覚に襲われたのでした。
◇◆◇◆◇◆
あれ?
目を開けるとそこには骨も溶け出すような真っ暗闇が。
そこにぬっと。
そして懐中電灯を下に灯している人影が――――!
「キャアアアアアァァァァアァァァァァァァァーーーーーーーー!!!」
「・・・・・・先生?」
「ワタクシっ! おいしくないわっ! だから食べないでっ!」
「・・・・・・先生。大丈夫・・・・・・?」
「あっ、え、ええ。もっもちろんですとも。ここは真っ暗ですけど、どどどどういうことですか?」
し、心臓がバックバックしてますわ!
「・・・・・・こっち・・・。」
なにも説明せずに動きだしました。
平行感覚が崩れかけていたワタクシの手を引き、右の方向に向かいます。
ある一定の領域に入ったとき、光がワタクシを襲ったのです。
「なっ、何? まっ、まぶしいっ!」
「・・・先生。・・・狂ってる・・・・・・?」
なんですって! と反論をしようとしたが、できませんでした。
光は目に厳しいタイプのものではなくて、チラチラと揺れるろうそくの光。
……周りには、たくさんのジャック’オ’ランタンが埋め込まれていて、遠く彼方まで広がっていたのです。
「うわぁ…………」
幻想的な世界であるとともに、敵としてここに来たのならば、何か恐ろしい気分に陥りそうな。
「……何故、二重にしたのですか?」
「・・・敵・・・分断・・・。・・・乱入・・・・・・防止?」
「ふむ。」
この試験の基準は3つあって。
・敵を分断すること。
・戦意を喪失させるような造りにすること。
・自分に有利な条件にすること。
これは全て条件を満たしている!
うわぁ、すごい……
100点! 持ってけドロボー!
「良くできました。では、待機室に戻りましょう。ワタクシも連れていってください。帰れませんので。」
この空間の出方が解らない?
何故と思いつつも、落ち着いて言う。
構造をコピーして、その空間をでた。
「では、ロバートさん、お願いします。」
「僕はクロードですっ!」
あら、ワタクシとしたことが……。間違えてしまったわ。
「……ああ、ごめんなさい。クロードさん、お願いします。」
「はい!」
言霊を唱え始めた。
ちらりと紙をみる。
平均。
57.2。
はい、不合格決定しております。
詰んでます。
「・・・・・・先生。」
「はい? なんですか、ミサさん?」
「1分・・・たってます・・・・・・?」
「あっ、やっちゃったー? ごめんね。まあ、でもね。」
意味深長に呟く。
「……Compulsion・enter、OK?」
◇◆◇◆◇◆
と、言うわけで無事昇進試験が終わりました。
合格証書をもらったとき、彼女のほほに赤みがさし、口元が緩んだ……ような気がしました。
もし、そうだったら彼女が笑うのは初めてかもしれないわね。
そう、ワタクシが彼女の初めての笑顔の閲覧者……?
……んなわけないわよね。
試験のときの空間の構造を解き明かそうとしながらふと思う。
ふふふっ。
きっと、彼女は世界を変える……そんな気がする。
後輩の勘をなめないでくださいね?
カリカリとペン先を滑らせつつ、そう言った。
……あっ、そうそう。クロードと言いましたっけ?
あの子、星に帰ったらしいのよ。なんてったって、自分より“は”できないはずの女の子に抜かされちゃったからね。