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80.結婚式は“キョン”だって祝福してくれる

80.結婚式は“キョン”だって祝福してくれる


 孝太と直子は島崎がやってくる前にケーキを植物公園に運んだ。早くに来ていた園長が二人を待っていた。園内にある喫茶コーナーの主任に事情を話して冷蔵庫に一時ケーキを保管してもらうことにした。

“すとれちあ”に戻ると島崎は既に食事の用意を始めていた。孝太達の最後の朝だということで、明日葉を練り混んだうどんを振る舞うといって生地をこねていた。孝太は手伝うと言って厨房へ入っていった。


 良介は朝、早く起きて伸一に荷物をまとめるよう指示すると、望達の部屋をノックした。顔を出した望に事情を話し、朝飯の前にできるだけ荷物をまとめておくように話した。それから博子達の部屋へ行き、博子に事情を話しむさ美の連中に伝えるように頼んだ。博子は例によって少女のような笑顔で、快く引き受けてくれた。

 朝食の時間になると、みんな荷物を担いで食堂に降りてきた。その姿を見て、島崎は「いよいよお別れだな。寂しくなるなあ」と、しみじみ言った。

最後の朝食はいかにも八丈島といった明日葉うどんだった。さっぱりして、とても旨かった。

食事が終わると、良介達は「お世話になりました」と言って“すとれちあ”を後にした。港まで送ると言って、直子がマイクロバスを出した。

 島崎が後片付けをしていると、晃の父親が「もういいから早くいけ」と言って、島崎に植物公園へ行くように促した。

「植物公園に何があるんだろう?」

島崎は訳も分からないまま、バイクにまたがった。


公園に行く途中で、由美子にあった。島崎は由美子に、バイクの後ろを指して「乗っていくか?」と言った。由美子は笑顔で島崎の後にまたがった。

植物公園に到着すると、園長が島崎を呼び止めた。由美子は「じゃあね。ありがとう」と言って、女子更衣室へ向かった。更衣室にはいると、直子と涼子が待っていた。

「あら?あなた達は確か…」

 二人は笑って由美子を迎えた。

 園長に呼び止められた島崎は園長室に連れて行かれ、タキシードを渡された。

「私のものだからサイズが合うかはわからんが、それよりはましだろう」

 島崎は訳が分からず、とりあえず、服を着替えた。

 会場では良介達が飾り付けをしていた。さすがCIP、その場にあるものだけで工夫して、立派な結婚式場を仕立て上げた。

 孝太と温子は二人でケーキを運んでいた。

「このケーキ、私たち二人のだったら良かったのになあ…」

 孝太の顔が青ざめるのが分かったので温子は「冗談だよ」と言って笑った。そして、さらに続けた。

「孝ちゃんの結婚式には必ず呼んでちょうだいね」

「いや、俺は呼べないよ。君を呼ぶのはきっと涼子ちゃんの方だよ」

「良くもまあ、ズケズケと…。でも、本当に涼子を幸せにしてあげてよね」

「ああ、分かってるよ。だけど、結婚となるとまだ早いような気がするなあ」

「ダメダメ!それは絶対に許さないよ。じゃなきゃ、私も知美ちゃんも次に進めないじゃない」

 孝太はそれ以上何も言えなかった。

 会場にケーキが到着すると、一同は「おー!」と言う声を上げた。

「これをお前が作ったのか?本物なのか?食えるのか?」

 良介は感心してケーキを眺めた。


「どういうことなの?」

 由美子は有無も言わさず服を脱がされ、ドレスを着せられた。

「時間がないから急ぎましょう」

 そう言って直子はドレスの裾を直した。その間に涼子が今日の結婚式のことを説明した。由美子は一瞬、驚いたけれど、すぐに喜びがこみ上げてきた。ノーメイクの由美子の目から、うっすらと涙がにじんだ。直子はその涙を拭って、簡単なメイクをした。

「さあ、できたわよ」

 涼子は園長が用意しておいてくれたストレチアの花束を由美子に渡した。

「本当はお父様にエスコートしていただくところだけど、今日は私たちで我慢して下さいね」

 そう言うと二人はそれぞれ由美子の両側に立って、会場までエスコートした。

 会場には既に、園長のタキシードを着た島崎が待っていた。島崎は由美子の姿を見て、初めて事情が飲み込めた。

「孝太!」

 島崎が孝太を睨みつけると、孝太はVサインを出してウインクした。由美子が島崎の隣に立つと、良介がウエディングテーマのカセットテープをならした。

 ジャジャジャジャーンジャジャジャジャーンジャジャジャジャンジャジャジャジャーンジャージャジャンジャンジャンジャ…。

 園長が神父代わりに誓いの言葉を述べた。

「苦しい時も、楽しいときも、病めるときも、健康なときも変わらぬ愛を誓いますか?」

「誓います!」

 島崎は園長の言葉が終わるやいなや、即答で答えた。

「わたしも…」

 由美子も同時に答えた。園長は珊瑚で作った指輪をポケットから二つとりだし、島崎に差し出した。島崎はそれを受け取り、由美子の薬指にしっかりとはめ込んだ。由美子も同じように島崎の指に指輪をつけた。

「さあ、どうぞ!」

 園長はそう言って、唇を尖らせキスをするよう促した。二人は少しためらったけれど、由美子が先に目を閉じたので島崎は自分の唇をタキシードの袖で拭ってからキスをした。

 参列していた良介達や、公園のスタッフからヤンヤヤンヤの歓声が鳴り響いた。園長は島崎に「ちゃんとクリーニングして返してくれよ」と言った。島崎は「新品を買って返したい気分だ」そう言って園長に感謝した。由美子はストレチアの花束を涼子に投げてよこした。

「次はあなた達の番ね」

 そう言って孝太と涼子に近づいて、孝太の頬にキスをした。孝太はびっくりして涼子の方を見た。涼子は「今日は許してあげる」そんな表情で微笑みながら孝太を見た。そして、良介達は、島崎を胴上げした。胴上げが終わると「島崎さん、ボクからの気持ちです」孝太はそう言うと、ケーキを指してナイフを渡した。

 島崎はナイフを受け取ると、由美子と一緒にケーキにナイフを入れた。その時“キョン”達がケーキに向かって突進してきたのでケーキは地面に落ちて“キョン”達の餌になった。

「まあ、いいか!彼らも今日の参列者の一員だから」

 島崎は地面にはいつくばって“キョン”と一緒にケーキをむさぼった。由美子は笑ってそんな島崎を見ていた。


「今日は本当にありがとう。とても嬉しかったわ。そろそろ港に行かないとでしょう?仕事があるから見送りには行けないけど、今日のことは一生忘れないわ」

由美子はそう言って、孝太と涼子の手をしっかりと握りしめた。孝太達は園長に礼を言って、公園を後にした。







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