79.サプライズは極秘のうちに
79.サプライズは極秘のうちに
島内観光を終えたメンバーたちは、“ハワイアンカー”で一度 “すとれちあ”に戻り荷物を降ろした後、ペンションと車をバックに記念写真を撮った。
車を返しに行く晃に、直子が軽トラックで同行した。孝太たちは一時間ほど休憩をした。孝太はその間に帰りの荷支度を整えてしまった。もともと大した荷物はなかったし、翌日は出発までにやりたいことがあった。
温子達の部屋では涼子が同じように荷支度を整えていた。
「明日ゆっくりやればいいのに」
温子も望もそう言ったけれど、涼子は「明日は帰るまでにやりたいことがあるから」と、作業を続けた。
一時間後、みんなでさよならパーティーの準備を始めた。
むさ美の連中も少し遅れたけれど、準備に合流した。晃の父親の好意でこの日はバーベキュー場を貸し切りにしてくれた。
「なあに、今日の午前中でほとんどの宿泊客が帰っちまったからな」
晃の父親が言う通り、あすは月曜日なので家族連れで来ていた客はほとんどが今日の戻りの船と飛行機で帰ってしまっていた。“すとれちあ”には孝太達の他にはカップルの客が一組残っているだけだった。
晃の父親はそのカップルに一緒にパーティーに参加しないかと誘った。カップルは快く承諾してくれた。本音は一組分別メニューの食事を用意するのが面倒くさかっただけなのだが。晃の母親にそのことで「横着しないで、ちゃんとサービスしないとダメよ」と戒められていたけれど「こっちの方が豪華な夕食なんだ。大サービスじゃないか!」と、そっぽを向いた。
メンバー達はこの夏、三度目のバーベキューなので、準備も料理も慣れた手つきでこなしていった。
晃の両親と島崎は食堂で一杯やっている。メンバー以外のカップル客も予定外ではあったけれどバーベキューを楽しんでいる様子だった。
パーティーが終わろうとする頃、南野大洋もやってきた。知美は良介を紹介した。大洋は良介がまだ現役の大学生だと聞くと「どえらい新人が隠れていたもんだ」と、感心し、ほめたたえた。その後、知美は大洋と一緒に最後の夜を楽しんだ。
孝太は明日の朝食を出し終わったら、植物公園に来て欲しいと島崎に言った。島崎は晃の父親にお伺いを立てた。晃の父親は笑って許してくれた。
バーベキューが終わると、孝太はいつものように島崎と一緒に後片付けをしていた。片づけが終わると、島崎は自分がご馳走するから飲みに行こうと誘ってきた。けれど、やることがある孝太は未成年だからと言って断った。島崎は仕方なく一人で行くと言ってエプロンを脱いだ。
島崎が帰る間際に、孝太は明日必ず植物園に来るように念を押した。
涼子は直子の部屋で直子と一緒に縫い物をしていた。孝太から島崎と由美子の事を聞いて、二人の結婚式をやってあげようと提案したのだ。場所は植物公園で“キョン”の飼育場がいいと言った。園長に電話して、開演するまでの時間なら問題ないと許可をもらった。それで、直子に協力してもらい、由美子に着てもらうためのドレスを縫っているのだ。
他のメンバーに話しをすれば、みんな喜んで協力してくれただろう。しかし、涼子は孝太と二人でやりたかったのだ。
ドレスが仕上がったときには、空がうっすら明るくなっていた。温子が心配するといけないので、予め直子に理由を付けて部屋に呼んでもらうようにしてあった。
後片付けが終わると、孝太は予め事情を話して晃の父親に材料を用意してもらっていた。島崎のためならと、晃の父親は喜んで材料を提供してくれた。孝太は島崎と由美子のためにウエディングケーキを作っていた。パンケーキで土台を作り、生クリームでデコレーションしていく。続いて、クッキーの生地を“キョン”の形に作っていく。生地ができたらオーブンに入れる。その間に、プラスチックのパイプを4本立て、台座をセットして二段目のケーキを乗せる。真ん中にはホワイトチョコで作った小さな白い家と一組のカップルを乗せた。もちろん島崎と由美子だ。
焼き上がった“キョン”のクッキーをその廻りに並べる。土台のケーキの真ん中には八丈富士に見立てたシュークリームに抹茶パウダーを振りかけた。八丈富士の廻りには、マンゴーやパッションフルーツなどを飾り付けた。孝太のケーキが出来上がったのも明け方に近かった。
孝太はケーキを冷蔵庫に保管すると、食堂の椅子に座ってパッションフルーツの生ジュースを飲んでいた。そこへ、涼子と直子がやってきた。孝太は余ったパンケーキで作ったフルーツケーキとパッションフルーツの生ジュースを二人に用意した。ケーキには“キョン”のクッキーが乗っていた。
「まあ!なんて素敵なケーキかしら」
直子はケーキを皿ごと持ち上げ、あらゆる角度から眺めながら言った。
「直子さん、こんな時間まで協力してもらって本当にありがとうございます。明日は、ゆっくり休んで下さいね」
涼子が礼を言うと、直子は首を振ってこう言った。
「えっ?私は式に呼んでもらえないのかしら?」
「出ていただけるんですか?」
「もちろんよ!」
「ありがとうございます。でも、疲れているんじゃないですか?」
「平気よ。疲れているのはあなた達も一緒でしょう?それに、ケーキを運ぶのに車がいるでしょう?」
「あっ!」
孝太も涼子もそこまでは考えていなかった。三人はお互いの顔を見合わせて吹き出して、大声で笑った。
トイレに起きて、孝太がいないのに気が付いた良介がその笑い声を聞いて降りてきた。
「ずいぶん早起きだなあ」
寝癖で髪の毛がツンと立ったままで現れて良介を見て、三人はまた笑い声をあげた。
孝太は、島崎と由美子の結婚式の話しをした。
「よしっ!朝飯を食ったら、荷物をまとめてみんなで祝いに行こうじゃないか」
といって良介は賛成してくれた。
「しかし、水くさいじゃないか」
良介は面白そうな計画を自分に内緒で進めようとしていた孝太たちを冗談交じりで咎めてのだけれど、こういう自主性を持っている後輩が居ることに頼もしさも感じていた。




