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77.あれは忘れて。それで、今のはお礼よ

77.あれは忘れて。それで、今のはお礼よ


 やぐらの上では浜田と良介が全体の風景を見ながら、花火の打ち上げスタッフと最後の打ち合わせをしていた。そろそろ日が暮れて、いい具合になってきた。

「よしっ!始めてくれ」

浜田がトランシーバーで合図すると、手始めに打ち上げ花火が単発で連続10発上がった。その後は100発の打ち上げ花火の乱れ打ち。続いて会場から大玉が上がった。間をおいて3発。再び100発の乱れ打ち。そして最後にナイアガラ。

時間にしたらわずか30分で終了したけど、その間は島にいる人々はみんな花火に見とれていたに違いない。

花火の余韻が残る中、メンバーは源が用意してきたダミーの花火で遊び始めた。これも、遊びにしてはかなり豪華なおもちゃ花火だった。やぐらの上から見ていた良介は浜田に尋ねた。

「いったい、いくら使ったんだ?」

浜田は笑って指を二本突き出した。

「よくやるよ!こんなことにニ千万?」

「なぁに、ほんの二カ月分の給料ですよ。それに、社長が経費で認めてくれると言ってましたから」

「おやじが?まさか!」

信じられないという表情の良介に、浜田は上空を指さしてほほ笑んだ。ニ機のヘリコプターが旋回している。そして、浜田は改めて良介に海岸の使用許可証を見せた。使用者は、株式会社ファントム代表取締役社長日下部良太郎になっていた。

良太郎は浜田から花火大会の話を聞いて閃いた。数社の得意先クライアントに話を持ちかけスポンサーを募り、島の夏祭りを大々的にプロデュースしてみるのは意外と面白いかもしれないと考えた。今回は軽いテストみたいなノリで、浜田を差し向けたのだった。

「そういうことか!こりゃ、一杯食わされたな」

「実は、すでに来年以降もスポンサーは既に決まっているらしいですよ」

浜田は下を指して良介にウインクした。やぐらの下で望が呼んでいる。

「じゃあな!ハマさん。おやじによろしく言っといてくれ」

そう言って良介はやぐらの梯子を下りてった。

 夏祭りは夜の十時までで終了させた。資材の片付けは翌朝の早朝から行うことになっていたので、やぐらや足場の周りにバリケードが張られた。屋台も食材がなくなっていたのでシートで覆われた。


祭りの後…。

メンバーは砂浜に並んで座り、祭りの後の余韻に浸っていた。すると、いきなりフラッシュの光が孝太たちを照らした。源が写真を一枚撮ったのだ。

「皆さん、いい表情してましたよ。写真はまとめて後で学校に送っておきますからね」

「まとめてって?」

温子がきくと、源はにこりと笑って答えた。

「俺だって、ただの酔っ払いと一緒にされちゃあかなわないからな!地味な仕事をさせてもらったよ」

そう言うと源は浜田とライトバンに乗って引き揚げて行った…。と言うよりは、夜の街に消えて行った。今日の花火の仕掛け人だと話をしたら、二人ともどこの店に行ってもモテモテだろうなと良介は思った。


 翌日、渡辺由美子が迎えに来て、孝太は良介と涼子と一緒に八丈植物公園に向かった。

公園の入り口には『特別ガイド本日限り(12:00まで)』と書かれた立て札が立てられていた。

三人が到着すると、園長は良介と涼子を丁重にもてなした。孝太のことはついでのお手伝い程度にしか思っていないようだった。

「まあ、あっちはほっといて、私たちは行きましょう?」

由美子はそう言って、孝太の手を引いて飼育場へ向かった。

「今日は午前中しか手伝えないけど、その分、一生懸命やるから」

「別にいいのよ。今日は何もしなくても」

「えっ?だって、昨日…」

「ああ!あれはね、ただ、あなたに来て欲しかったから。あなたと一緒にいたかったから」

「?」

孝太と由美子は“キョン”に囲まれて、二人でベンチに腰かけていた。突然、由美子は孝太に寄りかかり顔を近づけてきた。びっくりしてよけようと思ったけれど、由美子の唇が孝太の唇をとらえる方が早かった。

「!」

孝太は一瞬何が起きたのか理解できなかった。由美子は目に涙を浮かべながら「ごめんなさい」としきりに謝った。

「どうしたんですか?」

孝太はようやく我に返ると、泣き崩れる由美子の肩を抱き寄せた。まだ、開園前なので誰かに見られる心配はなかったけれど、孝太は胸がドキドキして心臓が破裂しそうだった。しかし、由美子の尋常ではない姿に何か出来ることはないかと必死に考えた。孝太に肩を抱かれると由美子は大分、落ち着いたようだった。

「島崎が浮気をしているの」

「えっ!」

「心配しないで。あなたと一緒に来ている人ではないから」

「…」

「私たち、年が離れすぎているから…。周りには色々言う人がいて、小さな島だから彼も最初はかばってくれていたんだけど、最近は煩わしく感じだしたみたいで…。浮気の相手っていうのは、“すとれちあ”に宿泊した本土の女なの。彼が休みのときに、つけて行ったの。そしたら…」

「由美子さん…」

孝太にはあの島崎が浮気をするとは到底思えなかった。

「…島崎さんには確かめたんですか?僕には島崎さんがそんなことをするような人だとは到底思えないんだけど」

由美子は首を横に振った。

「そんなこと怖くてできないわ」

「怖くても聞いてみるべきだよ。そうしなければ前に進めないと思う」

孝太の言葉を聞いて由美子は少し考えていたけど、決心したようだった。

「今から、“すとれちあ”に行ってくるわ」

由美子は立ち上がり、涙をぬぐった。

「あとはお願いね。どんな結果になっても、お昼までには戻ってくるわ」

 

昼前に由美子は戻ってきた。戻ってきた由美子の表情が結果を物語っていた。

「孝太君、ありがとう。確かめに行ってよかったわ。完全に私の勘違いだったわ。例の女だけどね。島崎の従妹だったのよ。島崎より先にマスターが教えてくれたの」

由美子はそう言い、孝太を抱きしめてキスをした。

「さっきは、ごめんなさいね。あれは忘れて。それで、今のはお礼よ。こんなお礼で申し訳ないけど」

「いいえ、気にしてませんから。それに、こんなに素敵なお礼はありませんよ」

孝太は竹ほうきと角スコップを担いで、道具箱の扉を開け、中にしまった。

「孝太く~ん」

涼子が仕事を終えて、飼育場へ孝太を迎えにやって来た。孝太は涼子がもう少し早く来ていたら、由美子にキスされたのを見られたかもしれないと思うと冷や汗が出た。

孝太は、由美子におじぎをして涼子と一緒に事務所に戻った。由美子は、“キョン”達に餌の残りをやりながら、幸せいっぱいといった表情をしていた。







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