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75.飼育係の由美子さん

75.飼育係の由美子さん


 “ファントム”の編集エンジニア、源真樹夫は船の上から八丈島を見ていた。

「もうすぐ到着だな」

隣にいる資材部チーフの浜田に確認した。

「荷物は大丈夫。いつでも上陸できます」

「よし、じゃあ、一丁派手にやってやろうか!」

「そうですね。坊ちゃんをびっくりさせてやりましょう」


 良介たちは食堂に集まって朝食を取っていた。食事が終わると、恒例となった良介のスケジュール発表が始まった。

「えー、今日のボランティア活動だが、海水浴場がどっかのB級映画かなんかの撮影のため午後四時まで立ち入り禁止になったらしい。それで、急きょ予定を変更して、八丈植物公園内の清掃活動をすることになった。夜の花火大会は予定通り実施するので、望と温子は今日の船で到着するはずの花火をゲンさんから受け取って準備を進めておいてくれ。残りの者は全員俺について来てくれ」

むさ美のメンバーは「あいつら、よくやるよ」そんな目で良介の話を聞いていた。こちらはレンタカー2台で島内観光をすることになっていた。


食事が終わると直子がマイクロバスで植物公園まで送ってくれた。晃が園長にあいさつに行くと、園長は両手で晃の手を握りしめ「よろしく頼む」と感謝の意を表した。晃はメンバーに園長を紹介し、園長はメンバーに仕事の内容を説明した。

良介と涼子は園長の希望で臨時のガイドをやって欲しいと頼まれた。メンバーの中で一番の美男美女に白羽の矢を立て、開園までの間に園内の様子を頭に叩き込むよう指示した。

伸一は大工道具一式を渡され、園内の壊れた看板や壊れそうなベンチの修理を頼まれた。

孝太は“キョン”の飼育場の掃除と餌付けを任された。

園長には、晃が事前にメンバーの持ち味を報告してあった。晃は花火大会の段取りで、役場をまわったり地元の工務店で資材の調達をしなければならないからと言い残すと、直子と二人で戻って行った。


 船が着くまでにはまだ時間があった。望と温子は朝食の後片付けを手伝った。晃の父親が港まで乗せて行くと言ってくれたけれど、望は丁重に断った。本音を言うと、“軽トラックには乗りたくない”のだけれど、まさかそうとは言えない。

幸い、むさ美の連中がレンタカーを借りることを知っていたので、彼らに送ってもらうことにした。

司と薫がサービスセンターまで車を借りに行った。停まっている車を眺めながら、亨が言った。

「おい!これにしようぜ」

薫も頷いた。

「そうだな。せっかくの南の島なんだからな」


 他のメンバーが準備を済ませて食堂に待機していると、クラクションの鳴る音がした。司は亨と薫の荷物を担いで玄関まで出た。他のメンバーも続いて出てきた。司は担いでいた荷物を地面に落して目を丸くした。

亨と薫が乗ってきた車は元はワンボックスだったのだけれど、派手な電飾が施され、ハワイアンなイラストが描かれていた。

望はこんな車に乗るくらいなら、軽トラックの方が良かったと言ったけれど、他のメンバーはバンザイをして喜んだ。

運転席と助手席のうしろは“F&N”のVIPルームのボックスシートのように改造されていた。最後部のトランク部分には冷蔵庫も備え付けられていた。

定員は9人といったところだったが、女性メンバーが多いので充分ゆったろと座ることができる。但し、港までは余計に二人乗るので少々窮屈だった。


 源は浜田が5台のトラックを引き連れて上陸するのを見届けると、ダミーの花火を積んだライトバンに乗り込んだ。望たちが港に着くと、“ハワイアンカー”の前をトラックが次々と通り過ぎて行った。

「例のB級映画の撮影隊だな」

亨が言うと、温子はウキウキして声を弾ませながらトラックの行方を追っている。

「高倉健や松坂慶子みたいな有名な役者さんとかも来るのかなあ?」

「バーカ!こんなB級映画に高倉建や松坂慶子が出るわけないだろう」

亨に一蹴され、温子は地団太踏んだ。

「早く行けよ。ほら、向こうで誰か手を振ってるぞ」

見ると、源が手を振っていた。温子は源のそばに駆け寄り「ゲンさんお久しぶり」と、抱きついた。望も「ごくろうさま」と言って握手をした。

「ずいぶん派手な車に乗ってきましたね。彼らが、むさ美の連中ですか?」

「まったく、美大生のくせに信じられない感性だわ」

「でも、まあ、楽しそうじゃないですか。御嬢さんのそんな顔は初めて見ましたよ」

望は苦笑いしながら、ライトバンのドアを開けた。


 この日は土曜日だということもあって、開園と同時にかなりの来園があった。良介は20分もパンフレットを眺めるとその内容をほとんど暗記してしまった。基本的には涼子とペアで、ボケ漫才のように来園客を面白おかしく案内して回るように言われていた。定期的に園内を巡回しながら、人が集まっているスポットで解説を始める。良介の巧みな話術と、絶妙の突っ込みを入れる涼子のコンビは瞬く間に園内で評判になった。二人が客を捜すのではなく、客が二人を捜すようになった。面白いガイドがいるという評判が、朝来た客からホテルや空港でうわさになり、昼過ぎには通常の3倍近い来園客が訪れた。

園長は予想外の結果にせめて、明日の日曜日だけでも続けてくれと懇願した。良介たちは、月曜日の船で帰る予定だったので、日曜日はゆっくり島内観光を楽しむ予定だった。

涼子は既に孝太と島一周しているし、その時は来なかったここに今日来ているので手伝っても構わないと言った。良介は午前中だけということで、園長の頼みを受けることにした。


 八丈島の“キョン”はなかなか人懐っこかった。飼育係の渡辺由美子は孝太とそれほど年が離れていないように思われた。なのに、もう、ここで4年も半働いていると言った。二人はまずは、飼育場の掃除から始めた。最初孝太は動物の独特な臭いに困惑していたけれど、由美子がいろいろ興味をそそる話をしながら一緒に作業してくれたので、次第に臭いにも作業にも慣れて行った。もともと物覚えはいい方だったので、一通りの世話の仕方はこの日だけで覚えてしまった。由美子は「明日は、私がいなくても大丈夫ね!」と言った。孝太は「残念だけど、手伝うのは今日だけだ」と詫びた。由美子は、クスッと笑って「あら、知らないのね?」そう言って、由美子は孝太の手を握って走り出した。


そこにはすごい人だかりができていた。その中心にいるのは良介と涼子だった。

「彼らの人気がすごくて、園長がもう1日だけお願いしたみたいよ」

「彼曰く、彼女がもう一日手伝うことになれば、あなたもそうするって言ってたけど」

孝太はガイドをしながら楽しそうに喋っている涼子を見ながら「まっ、いいか」そう言って由美子の顔を見た。

涼子は孝太に気づくと控え目に手を振った。

「あなた達はお付き合いしているのね?」

「ええ、まあ」

そこへ作業を終えた伸一もやってきた。

「俺は明日は放免だ。だからお前の方を手伝ってやる」

「いいんですか?博子ママを放っておいて?島崎さんに取られちゃいますよ」

「島崎って、“すとれちあ”でシェフをやってる?」

由美子が不思議そうな顔をして、話に割り込んできた。

「そうだけど、島崎さんを知っているんですか?」

「もちろんよ!彼は私の婚約者だもの」

それを聞いた伸一は、生気をみなぎらせ、走り出した。

「前言撤回!明日は孝太君一人で頑張ってくれたまえ!」







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