74.お似合いの二人
74.お似合いの二人
晃と直子はクーラーボックスをマイクロバスに積んで海水浴場に向かった。良介達を迎えに行くためだ。ビーチに着くと、みんなは遊ぶのに飽きて砂の城を造っていた。
晃のマイクロバスを見つけると、みんなは片づけを始めた。片づけが終わると、身体に着いた砂を落とすためにシャワーを浴びた。座席が濡れないように腰にタオルを巻いてバスに乗り込んだ。
晃は車を出そうとしたが右手の方からやってくる二台の自転車に気が付いた。
「ほら、みんな。孝太達が戻ってきたぞ」
それを聞いた温子と知美は窓から二人を確認すると、すぐにバスを降りて二人に手を振った。他のメンバーもバスを降りて二人を出迎えた。
孝太と涼子はみんなに手を振ってバスの前までたどり着くと自転車を止めた。
「せっかくの合宿なのに単独行動は良くないな」
良介が一言だけ二人を戒めた。
「お帰り!」
温子と知美は涼子を抱きしめた。
「ごめんなさいね」
涼子は二人に詫びた。そして孝太もみんなに頭を下げた。
「おまえさんのおかげで、俺は彼女が四人に増えてたいへんだ」
亨が孝太の頭を軽く小突いた。
「偉そうに言わないでよ。とりあえずのキープ君なんだから」
温子と知美は声を揃えて言った。
「きっとこうなると思っていたわ」
智子と博子はそう言って二人を祝福した。
「この後どうする?自転車は積んでいけるから一緒に乗っていくか?」
晃がそう言ってくれたけど、孝太と涼子は首を横に振った。
「せっかくここまで来たんだから最後まで自転車で帰ります」
「分かった。じゃあ、俺達は先に帰ってるからな」
そう言って晃はみんなが車に乗り込むのを待って出発した。
それを見送ってから孝太と涼子は目を見合わせてペダルを踏み出した。バスの窓から温子と知美が手を振っているのが見えた。
夕食は、晃と直子が釣ってきた魚でバーベキューをすることになった。良介達が海水浴に行った後も晃と直子は二人でイシダイやニシキベラなど20匹の魚を釣ったのだ。良介達が13人で釣った4匹と合わせて24匹がクーラーボックスの中にギッシリ詰まっていた。
メンバーだけでは食べきれなかったので、他の宿泊客にも振る舞われた。温子と知美は涼子の両側に座って、昨夜からのことを根ほり葉ほり聞いている。
「あなたが孝ちゃんに選ばれたんだから、同盟を結んだ私たちに報告するのは当然よねぇ」
温子が言うと、知美も目を輝かせて質問の嵐を浴びせた。
「ねえ、キスはもうしたの?どんな味だった?」
涼子は恥ずかしくて穴があったら入りたいと真剣に思っていたけれど、二人が協力してくれたおかげで孝太と付き合うようになったのも事実だし、拒むわけにもいかなかった。すると、そこへ智子と博子もそばに寄ってきて話しに加わった。
「それで、今朝の朝食は孝太君が作ってくれたの?」
智子が尋ねる。
「はい」
「あなた達が出掛けた後、島崎さんが私たちにも同じものを作って出してくれたのよ。シンプルだったけど愛情がこもっていてとても美味しかったわ」
博子が話してくれた。
「そうそう!本人が作ってくれたものを食べられたのなら、とても幸せでしょうね」
知美がしみじみ言う。
「私も、孝ちゃんのご飯は何度か食べさせてもらったけど、朝ご飯だけは食べたことがないもの」
「しかし、島崎さんも粋なことするわね」
博子がそういうと、涼子はニコニコして博子に耳打ちした。
「島崎さん独身なんですって」
とたんに博子の表情が緩んだので、智子達は涼子が何を言ったのか聞いた。
「島崎さんが独身だって言ったの。」
「それ、本当なの?」
「ええ、孝太君が教えてくれたわ」
温子の目が急に輝きだした。
「だめよ、温子ちゃん!彼、私のタイプなんだから」
博子は温子をけん制した。
「だって、博子ママは高倉先輩といい感じじゃないですか」
「でも、やっぱり、結婚相手は年上じゃなきゃねえ!」
「え~!そこまで話が飛んじゃうんですか?」
温子がそう言うと、他のみんなはケラケラ笑った。
話しは思わぬ方へ進んでいったけれど、涼子は矛先が自分から離れたのでホッとしていた。
「ずいぶん楽しそうだな」
伸一が焼けた魚を届けに博子の元へ来ると「高倉先輩かわいそう」と言う声が聞こえたので伸一は気になったのだけれど、昨夜、酔いつぶれた男性陣はペナルティーとして今夜の食事を用意しなければならなかった。だから、それをいちいち確かめている余裕もなかった。
若菜と綾、それに洋子は健気にパートナーを手伝っている。望は良介がさぼらないように目を光らせている。
涼子はトイレに行くと言ってその場を抜け出した。厨房では晃の両親と直子が宿泊客の、島崎と孝太がバーベキュー用の料理の下拵えをしていた。
「お手伝いしましょうか?」
「ありがたい。もうすぐ宿泊客の夕食の時間だから助かるよ」
島崎は額の汗を拭いながらエプロンが掛かっている場所を指さした。涼子は孝太の手伝いがしたかったのだけれど、島崎にそう言われて苦笑いしながら、エプロンを身につけた。
六時半頃から、宿泊客がぼちぼち食堂に姿を現した。涼子は出来上がった料理をテーブルに運んでいった。
バーベキュー用の下拵えが終わったので、島崎が宿泊客用の料理に廻るからと言って、孝太と涼子に料理をバーベキュー場に持っていくように言った。二人は料理をワゴンに乗せてテラスに出た。
お揃いのエプロン姿で二人がやってきたので、バーベキュー場からは冷やかしの声があちこちから飛んできた。博子は島崎は来ないのかと孝太に聞いた。
「宿泊客の夕食が一段落着いたらきっと来ると思いますよ」
孝太がそう答えたので「あら、そう」と、なんだか嬉しそうだった。涼子は先ほどの話を孝太に聞かせた。
「なるほど、そう言うことか。そうなると、高倉先輩はかわいそうだな」
「誰がかわいそうだって?」
伸一が孝太の後から声をかけた。孝太はビックリして飛び上がりそうになった。
「い、いや、なんでもないです」
伸一は首を傾げながら眉間にしわを寄せた。孝太はバーベキュー用の炉まで行くと、下拵えの済んだ料理を焼き始めた。涼子も一緒に手伝った。そんな二人を温子と知美は微笑んで見守った。
「やっぱりお似合いよね。あの二人」
「悔しいけど、その通りね。見た目はそっくりでも涼ちゃんはやっぱり私とは違うわ」
知美ももう失恋のショックはなくなっているようだった。




