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72.朝食はロマンティックな特別メニュー

72.朝食はロマンティックな特別メニュー


 翌朝、孝太は厨房で朝食の支度をしていた。ベーコンを電子レンジで暖めて、ほうれん草とあわせてサラダを作った。ベーコンを電子レンジで温めるのはカリカリした食感を出すのにいちばん簡単な方法だった。和風のドレッシングを掛けて、カリカリベーコンの和風サラダにした。

卵は目玉焼きにし、二つの卵を時間差でフライパンに載せた。そうして、黄身が半熟のものと完熟のものを一度に作った。孝太が半熟は苦手だったのでそうしたのだ。

二種類のソーセージはボイルして軽く網で焼いた。そして、涼子が誉めてくれたオニオンリングフライ。オーブンを覗くと、バターロールがいい具合に仕上がっていた。地元の牛のミルクで作った杏仁豆腐にパイナップルを加えたデザートをデザートカップに盛ったところで島崎がやってきた。

「ほー!なかなか美味そうじゃないか」

島崎は孝太の作った朝食を見て言った。

「このベーコンはいい具合だな。電子レンジを使ったのか?」

「はい、横着しちゃいました」

「いや、このやり方を知っているヤツはそうはいないぞ。どこで覚えた?」

「お袋が朝早くに仕事に行くので、僕らは支度してある朝食を電子レンジで暖めて食べることが多かったんです。そのとき偶然発見したんですよ」

島崎は、うーんとうなって言った。

「やっぱり、コックになれ!」

孝太は笑って、島崎に頭を下げた。

「さて、あとはこれで足りるかな?」

島崎は搾りたてのミルクが入った容器と自転車の鍵を二つ調理台の上に置いた。

「ありがとうございます」

孝太は礼を言って、料理を食堂のテーブルに運んだ。


 涼子は他の二人が起きないように、そっと着替えて部屋を出た。

食堂からはパンが焼ける匂いと油の香りが漂っていた。厨房にいちばん近いテーブルには既に二人分の朝食が用意されていた。涼子が席につくと、エプロン姿の孝太が厨房から出てきた。

「おはよう!」

お互いに挨拶をすると、孝太は微笑んだ。

「今朝は特別メニューなんだ」

涼子は一つ一つ味わうように食べた。

「美味しいわ」

それを聞いて孝太はホッとした。厨房のカウンター越しに島崎がニコニコしながら二人を眺めている。

「こんなに絵になるカップルは初めてだよ」

そんなことを言って二人をからかった。涼子は顔を赤らめながら孝太を見て、はにかんだような笑顔になった。

 食事が終わると孝太は二つの水筒に氷を入れ麦茶を注いだ。それから、もう一つ。少し小さいポットに淹れたばかりの熱いアップルティーを注いだ。そして、二人でおにぎりを作った。昨日孝太が作ってきたように、小さ目のおにぎりに何種類かの具材を入れた。梅干、鮭、昆布、焼きたらこ、おかか、野沢菜の混ぜご飯、高菜の混ぜご飯、ゆかりご飯の8種類を作った。島崎に借りたランチバッグに荷物を詰め込むと、二人は“すとれちあ”を抜け出して空港の方に向かって歩きだした。


サービスセンターの前には二台のツーリング用自転車がチェーンでガードパイプにつながれていた。孝太は島崎から受け取った鍵でチェーンをはずしてそのうちの一台にまたがった。昨日の夜、島崎が帰る途中でセンターの係に二台を外に出しておくように頼んでおいてくれたのだ。

「さあ、行こうか!」

二人は八丈島一週のサイクリングに出発した。


 温子は目が覚めると涼子がいないのに気が付いた。テーブルの上には温子宛の封筒が置いてあった。温子は静かに微笑んで、その封筒を手に取った。

~おはよう。夕べ孝太君に告白しました。今日は二人で島一週のサイクリングに出掛けます。温子ならきっと喜んでくれるよね。~

そう書かれた手紙が入っていた。温子は穏やかな笑みを浮かべて、アーチ型の窓を開けた。そして、両手をあげて思いっきりのびをした。

「やれやれ、これでやっと肩の荷が降りたわ」

そう呟いくと、食堂へ降りていった。


 二人はヤシ並木を底土港へ向かって併走していた。右手前方から朝日が昇ってくる。孝太は自転車のバッグからスポーツキャップをとりだして被ると、同じものを涼子にも渡した。涼子は自転車を孝太のそばに近づけてキャップを受け取った。涼子は長い髪を後で結んでポニーテールにしていた。フレッドペリーの紺のポロシャツに白いホットパンツ、NIKEのスニーカーを履いている。孝太は袖の部分が紺色になっている白いTシャツ、カーキ色の半ズボンにコンバースのバスケットシューズ。

 底土港まで出ると、右にカーブして島を南下して行った。左手に太平洋を見ながら二人は海岸線を軽快に飛ばしていった。


 朝食の時間になっても晃を除く男性陣は誰も起きてくる様子がなかった。

温子が食堂に降りてくると間もなく望みもやってきた。

「男どもは今日は全滅ね!少なくとも、良介はたぶん使い物にならないわね」

髪を掻き分けながらそう言うと、望は温子の横に座った。

食堂には家族連れが二組とカップルが一組いて朝食をとっていた。

「あら?涼ちゃんは?」

望はそう言って辺りを見回した。

「ええ、ちょっとお散歩かな」

温子はそう答え、話しをはぐらかした。

島崎がカウンター越しに顔を出し「もう出してもいいかな?」そう言った。

「すぐに揃うと思うからお願い。但し、女性の分だけね」

「ああ、ハナからそのつもりだよ。今日は、お前さん達にだけに特別メニューがあるんだ」

島崎はそう言って料理を運んできた。

「これのどこが特別なのかしら?」

そう思った望が思わず口に出してしまったけれど、島崎は気にすることもなく自慢げに説明を始めた。

「この料理は初めてお互いの想いを告げて結ばれたカップルが、最初の朝に食べた朝食のメニューなんだ。愛する彼女のために男性が作った最高の料理さ」

「へー!ロマンティックなエピソードね。それって、実話なの?」

その時、ちょうどむさ美の女性陣を引き連れて食堂に降りてきたばかりの智子が尋ねた。若菜と綾も興味津々といった表情で島崎の答えを待っている。

「ああ、実話だ。でき立てホヤホヤのな!」

それを聞いた知美は涼子の姿がなかったのを思い出し愕然とした。その様子に気が付いた温子は知美を隣に座らせて肩を抱いて慰めた。他のメンバーはまだ気が付いていないようだった。

「ワオー!島崎さんおめでとう!」

若菜と綾はお互いの肩を叩きあって歓声を上げた。てっきり、島崎が自分のことを話しているのだと思っていたからだ。ところが、島崎は首を横に振って否定した。

「この料理を作ったシェフの名前は“広瀬孝太”さ!」

「え~!」

一同は一斉に驚きの声をあげた。

「相手は誰?温子ちゃん?知美ちゃん?それとも涼ちゃん?」

博子はそう言って二人を交互に見た。知美は温子にもたれかかってうなだれている。その温子は知美を慰めながら、諦めとも思えるけれど、清々しい表情をしている。そして、博子に向かって左右の手を交差させ、私じゃないよという意味のポーズを作っている。その時、涼子だけがここに居ないことに博子は気が付いた。

「それで、二人は今どうしているんですか?」

智子が島崎に向かってそう聞くと、温子が涼子の手紙をみんなに見せた。知美には気の毒だとは思ったけれど、一組のカップル誕生に他のメンバーは歓声をあげた。







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