70.温泉よりも孝ちゃんのそばが癒される
70.温泉よりも孝ちゃんのそばが癒される
食事が終わると良介たちは“親不孝通り”へ繰り出そうと相談している。“親不孝通り”とは東京でいえば新宿のゴールデン街のような歓楽街のことだ。良介と亨が中心になって男だけで夜の街に繰り出すことになったらしい。孝太も誘われたのだけれど、酒はどうも苦手だったので断った。それに未成年だし。
結局、孝太以外の男性メンバーは全員、夜の街に繰り出していった。
一方、女性陣は望が足をくじいていたので、博子が温泉ホテルへでも行って、ゆっくり温泉につかろうと提案した。女性メンバーは揃って賛成し、みんなで出かけることになった。
孝太は島崎を手伝って食事の後片付けをすることにした。片付けが終わって厨房を掃除していると、涼子が食堂に姿を現した。
「涼子ちゃん?どうしたの?みんなと一緒に行かなかったの?」
孝太が尋ねると、涼子は厨房にいちばん近いテーブル席に腰かけた。
「実はね、タクシーを二台呼んだんだけど、4人ずつしか乗れなくて。一人あぶれちゃったの。みんなは無理矢理でも乗れなくはないから行こうって誘ってくれたんだけど、今日はちょっと疲れたからここでゆっくりすることにしたの」
「みんな、疲れを癒すために温泉へ行ったんだろう?」
そう言いながら、孝太は女性メンバーの顔を指を折りながら思い浮かべてみた。確かに9人いたので5人乗りのタクシーなら運転手を入れると確かに一人乗れないと思った。
「うん。でも、私は孝太君のそばにいる方が癒されると思ったから」
そんなやり取りを聞いていた島崎は二人に気を利かせた。
「ここはもういいから、テラスにでも行け」
そう言ってくれたので、孝太はひとつお願いがあると言って島崎に小声で耳打ちした。島崎はお安い御用だよと言って、胸を叩いた。それから孝太は、涼子を誘ってテラスに出た。
“親不孝通り”と呼ばれるその通りにはスナックやバーといった類の店が連なっている。
「よしっ!今日は俺のおごりだ。端から順番に制覇するぞ!」
良介の掛け声に亨達は「おう!」と答えた。
むさ美の連中は良介が酒に弱いことを知らなかったから「いいぞ、大蔵大臣!」などとはやし立てている。
良介たちはまず、通りに入ってすぐのスナックに入った。店はすいていた。地元の漁師らしい男が一人と、30前後の女性が一人並んでカウンターに座っていた。良介たちが店に入ると、その女性が「いらっしゃい」と言って立ち上がり、カウンターの中に入って行った。とりあえずビールを3本とアタリメを頼んだ。
漁師らしい男は良介たちが入って来ると「ちぇっ、いいところだったのに邪魔しやがって。」というような顔をして良介たちを見た。良介たちはあっという間にビールを空にすると「次!」と言って隣の店に入った。
ここは最初の店より広くボックス席には数組の客がいた。それぞれのボックスに店のホステスと思われる女性が付いていた。良介たちは奥の角にあるL型のボックスに案内された。良介たち6人に対して、女の子が3人来た。女の子はそれぞれ男性の間に座ると同時にウイスキーのボトルを要求した。亨達はちょっと驚いて良介を見た。良介は平然として、ボトルに名前を書いている。それを見た亨達は安心して腰を落ち着けた。もともとキープするつもりのボトルではないけれど、みんなで廻して落書きをした。男6人と店の女の子も一緒に飲んだので、ボトルはすぐに空になった。女の子が新しいボトルを入れようとしたけれど、良介はそれを制して「次行くぞ!」と言って席を立った。晃と伸一も後に続いた。亨達は気に入った女の子がいたので未練があったようだけれど、大蔵大臣には逆らえない。
タクシーで八丈島温泉ホテルに着くと、フロントで博子が8人分の代金を払った。早速、脱衣室に入る。温子、知美、若菜、綾、洋子の1年生たちは水着に着替え、ジャングル風呂へ向かった。この八丈島温泉ホテルには混浴のジャングル風呂があるのだ。博子と、智子、望は女湯の中の大浴場でゆっくり温泉に浸かった。
「望さん、足の具合は々?」
博子が気遣って尋ねると、望は舌を出して答えた。
「実はもう、ほとんど痛みはひいてるの。だけど、明日のサイクリングにはちょっとって感じだったから、つい…」
「そうね。サイクリングも悪くはないけれど、強制的に島を一週するっていうのはいかにも体育会系ね。そもそもこの合宿プランは誰が考えたの?」
と、智子。
「決まってるでしょう!良介よ」
「やっぱりね。“ファントム”のプロデューサーをしているときの彼とはまったく違ったセンスよね」
「だけど、そこがまた素敵なところでもあるのよねぇ。ねっ!望さん」
望は照れくさくなって、浴槽の中に頭まで浸かった。
温子達はジャングル風呂で、温泉に浸かると言うよりはプールで遊ぶ感覚ではしゃいでいた。特に若菜と綾は子供のようにビーチボールで遊んでいる。
今日行って来た海水浴場は、岩場ばかりでボートの上で浮かんでいるか、本当に泳ぐか、しかなかったから遊び足りなかったのだろう。
温子と知美、洋子は三人でビーチチェアーに横になって話し込んでいた。
「ねえ、涼子には悪いことしたよね」知美が言うと、温子はニヤッと笑った。
「知ってる?男達、全員飲みに行ったと思ってるでしょう?」
温子がいきなり話を変えたので、知美は眉間にしわを寄せた。
「えっ?違うの?」
洋子も身を乗り出して聞き返した。
「どういうこと?」
温子はしてやったりと言う顔で続けた。
「実は、孝ちゃんだけシェフの島崎さんを手伝うと言ってペンションに残っているのよ」
「え~っ!それじゃあ、今ペンションには広瀬君と涼子ちゃんが二りっきりなの?」
「まあ、そういうことになるかな…」
知美は頭を抱えた。
「ねえ、温っちゃん。あなたは平気なの?」
「ええ!だって、今まで涼子がいちばんチャンスがなかったんだよ。少しくいらいチャンスをあげないと不公平だわ」
「温っちゃん、何言ってるの!あなただって分かってるでしょう?広瀬君が今、一番気になっているのは涼子ちゃんなんだよ。その二人を…」
興奮してしゃべる知美を温子は制した。
「言ったでしょう!正々堂々と。その結果、孝ちゃんが誰を選んでも恨みっこなし」
「それはそうだけど…。昼間ならともかく、夜、誰も居ない部屋に二人っきりなのよ」
「さすがに、それは考えすぎだよ。康ちゃんの性格は知っているでしょう?」
「でも…」




