64.夏休みの合宿
64.夏休みの合宿
夏休みに入るとCIPは、八丈島へ合宿に行くことになった。なぜ八丈島かというと、鵬翔の実家が八丈島なのだ。鵬翔の実家は八丈島でペンションを営んでいる。もともと、北海道で漁師をしていた父親と、北海道へ観光に来て知り合った母親は周囲の反対を押し切って半ば、駆け落ち同然でこの八丈島へやって来たのだ。
晃は地元の中学を出ると、本土の高校に行くと言って島を出たけれど、学校が夏休みになると島に戻って実家のペンションを手伝った。
彼が高校三年の時、家族で旅行に来ていた根本直子は晃の両親が営むペンション“すとれちあ”に三泊した。その時、晃と知り合った。そして、晃は聖都に、直子は西東京国際大学に進んだ。お互いに進学してからも交際を続けている。
温子からCIPの合宿の話を聞いた知美は洋子達を誘って、旅行に行こうと持ちかけた。行先はもちろん八丈島だ。洋子は二つ返事でOKした。結局、知美を始めとするむさ美の面々は洋子に司、亨に若菜と綾、薫に智子と“HIRO”のママ博子までもが一緒に行くことになった。
出発の日の夜、CIPのメンバーとむさ美のメンバーは共に竹芝桟橋に集合することになっていた。
孝太はリュックに最低限の着替えだけ詰め込んでやって来た。良介と望はカートにスーツケースをくくりつけて事務長の日比野が運転するマイクロバスから降りてきた。温子と涼子と知美は三人一緒にボストンバッグを担いできた。洋子は手ぶらで、司が二人分のバッグを抱えて、亨は若菜と綾を引き連れ、薫と智子と博子はタクシーでやって来た。薫は博子のバストンバッグを二つと智子のスーツケースをカートに載せて引っ張ってくる。最後に伸一と晃が到着した。晃は向こうに一式あると言ってリュック一つを背負い、8ミリカメラと一升瓶を持っていた。伸一はクーラーボックスと缶ビールの入った箱を2ケース、缶酎ハイの箱を2ケース、カートに載せていた。
桟橋には八丈島へ向かう“かめりあ丸”が既に出向準備を終えて乗船客を待ちかまえている。
「よし!全員揃ったな。それじゃあ、出発だ」
良介が号令をかけて各々乗船していった。船室はみんなでざこ寝できる二等船室にした。乗船すると、晃と伸一はダッシュでいちばん広いブースを目指した。この時期は船も混んでいる。もたもたしていると通路やデッキで寝る羽目になる。その甲斐あって、総勢16人がなんとか寝られる広さのブースを確保することができた。
そのブースに陣取って、伸一が得意そうな顔で両手をあげてみんなを手招きしていた。ブースに荷物を降ろすと、晃がリュックからネットとロープを出してみんなの荷物にネットを被せ、ブースのヘリのパイプにロープで固定した。混み合った船内で、荷物を盗難から守るためだ。初めて参加した孝太達は晃の手際の良い段取りにしきりに感心した。
ブースは通路の床より30センチほど高くなっている。棚には長方形の枕が並べられている。一人一つずつ枕を確保すると、伸一が缶ビールを配り酒盛りが始まった。孝太はジュースで乾杯だけした後、東京湾の夜景を見るためにデッキへ出た。海の上とはいえ、この時間になってもまだ蒸し暑かった。時折、吹く風も生暖かく、塩気を含んでベタベタする。
孝太が手摺にもたれて海面に映ったネオンの明かりをぼんやり眺めていると、誰かが近づいて来て背中に冷たい何かを流し込んだ。
「ど~お?気持ちい?」
温子が孝太のTシャツの中に、氷を入れたのだ。のけぞりながら振り向いた孝太はバランスを崩してあわや手摺から飛び出しそうになった。温子は慌てて孝太を抱きとめた。
「あ~っ!温っちゃんずるいよ!抜け駆けはなしでしょう?」
ちょうど、デッキに出てきたばかりの知美が抱き合っている二人を見て叫んだ。すぐに涼子も出てきた。
「あっ!」
思わず口に手を当てた。知美があまりにも騒ぎ立てるので、温子はわざと孝太を強く抱きしめて二人の方を見て舌を出した。知美はすぐに駆け寄ってきて、二人を引き離そうとした。
「おい!いい加減にしてくれよ。今度こそ本当に落っこっちゃうよ」
「今度こそって?」
温子と知美がもみ合っているそばで、その様子を見ていた涼子が言った。
「実は、さっき温子に氷を背中に入れられたもんで、驚いて落っこちそうになったところを抱きとめられただけだ。なにも、いちゃついていたわけじゃないから勘違いしないでくれよ。ほら!温子お前も早く離れろよ。暑くて仕方ないじゃないか!」
それを聞いて知美は二人から離れた。
「な~んだ。まあ、大方そんな事だろうと思ったけどね」
「よく言うよ。さっきの顔ったらすごい形相だったわよ。鏡に映して見せてあげたかったわ」
そう言って、温子は知美をからかった。
「ねえ、見て!きれいな夜景」
涼子の言葉に温子も知美も今までの小競り合いさえ忘れてデッキの手摺に並んで、海上から見える東京の夜景を眺めた。
「本当!きれい」
知美が言うと、温子も頷いて孝太にもたれかかった。反対側からは、知美も孝太にもたれかかる。孝太は少し離れたところに一人でいる涼子の方を見た。涼子の長い髪が風になびいてとてもきれいだった。
「よー!モテモテだねえ。広瀬君」
薫と智子もデッキに出てきた。6人で手摺に並んで、遠ざかる東京の明かりを見ながらたたずんでいた。沖に出るにしたがって、風が心地よくなってきた。
船室ではあちこちから奇声や歓声が上がっている。良介たちのブースも、かなり盛り上がっていた。酒が弱い良介が悪酔いしないように、望みは常に目を光らせていた。若菜と綾は良介の武勇伝に耳を傾けていた。伸一は、“HIRO”のママ博子と差し向かいで、日本酒を酌み交わしている。博子が作ってきた自家製の塩辛を摘みながら、バザーのビデオの話しをしていた。晃は既に横になっていた。眠っているわけではなく、何か考え事をしているようだった。亨はガイドブックを広げて、島の観光スポットを研究している。
それぞれの想いを乗せて、船は南の島を目指して夜の海を南下していく。




