63.三人で泊まっちゃおう!
63.三人で泊まっちゃおう!
三人で孝太のアパートに向かう途中、温子はこの店がああで、あの店がこうで、と言う風に案内して歩いた。それを聞いていた涼子と知美は温子を冷かして言った。
「はいはい、どうもごちそうさま」
「今度、広瀬君とここを歩くときに、温子さんとはこうだったのね。なんてからかってやるわ」
知美は冗談っぽくそう言った。涼子も笑って、「わたしもそうする」と言った。
「なんだか、こうして夜道を女の子三人で歩いていると、小学校の頃の肝試しを思い出すね」
温子の言葉に他の二人もそんなこともあったと言って、小学校の思い出話に花が咲いた。そうこうしているうちに、あっと言う間に孝太のアパートに到着した。部屋にはまだ明かりがついていなかった。三人は部屋の前で待つことにした。
鉄骨の階段を上がっていき、その一番上に温子が、そして知美が、その2段下の段に涼子が座って孝太の帰りを待った。他の部屋の住人に迷惑にならないように、極力話しをしないように心がけて待った。
十五分ほどすると、誰かがアパートに入ってきた。孝太だった。孝太は真っ直ぐに階段へ向かい、階段の一段目に足をかけると同時に目線を上の方に向けた。薄暗い階段の上に不気味な影が目に入った。孝太は驚いて段を踏み外し、踏み外した弾みに右足のすねを段鼻に打ち付けた。孝太は地面に転がって、両手で右足を押さえた。それを見ていた三人は慌てて階段を駆け下りた。
「孝ちゃん!…」「孝太君!…」「広瀬君!…」「…大丈夫?」
孝太の右足からは、血がにじんでいた。
三人は、孝太を部屋へ連れていくと、手当をしようと薬箱を探したけれど、どこにも見あたらなかった。
「ねえ、温ちゃん、薬箱はどこなの?」
知美が尋ねた。
「私だって知らないわよ」
「私、買ってくる」
涼子がそう言って外へ出ようとすると、孝太は何とか口を開いて、「冷蔵庫」と言った。
涼子が冷蔵庫を開けると、中から薬箱をとりだ、持ってきた。薬箱を開けると中には風邪薬と絆創膏しか入っていなかった。
「も~、なにこれ?」
温子はハンカチを濡らして傷口を拭いた。傷事態はそれほど大きくはなかった。知美は絆創膏を二枚、三枚重ねて貼った。
手当が終わると四人はようやく落ち着いた。
「いったい、何なんだ?」
孝太は三人の顔を順番に見ながら言った。
「ごめんなさいね。ビックリさせちゃって」
温子が言う。
「そうじゃなくて、何で三人でここに来たんだ?」
「同じスタートラインに立たないと意味がないから」
知美が言った。
「スタートラインってなんだよ?」
「三人はライバルなんだけど、同盟を結んでいるのよ」
涼子が言った。
「なんのことだかさっぱり分からないよ。それより、お前達、今何時だと思っているんだ?」
孝太は柱にかかっている時計を指した。既に、日付が変わっていた。
「たいへん!電車がなくなっちゃう!」
そう言うと三人は慌てて部屋を出た。一人取り残された孝太は何がなんだか分からず、呆然としていた。
三人が駅に着くと上りの電車は既になくなっていた。下りの電車の乗る涼子と知美はかろうじて最終電車に間に合う。しかし、温子は家に帰れない。
「仕方がないわ。今日は孝ちゃん家に泊めてもらおうかしら」
それを聞いた知美が目をキラキラさせながら言った。
「あ!ずる~い。それじゃあ、私も泊まっちゃおっと」
「そうね!みんなで泊まりましょう!布団は一組しかないけど、今は寒くないから、バスタオルでもかけておけば大丈夫だものね」
温子がそう言うと、知美は大賛成した。涼子が一人困った顔をしていたので、知美がこう言った。
「私の下宿にみんなで泊まることにしたらどうかしら?」
「それ、いいね!そうしましょう!」
温子はそう言うと、公衆電話を探して家に電話をした。
「涼子と一緒に、むさ美のお友達の下宿先に泊めてもらうことにしたから」
そう言うと知美と涼子が代わる代わる、温子の母親にお詫びをした。温子の母親は知美と涼子の声を聞いて安心したようだった。涼子も同じように家に電話し、温子と知美が交代で、うその事情を説明した。
「さあ、とりあえずコンビニにでも行ってお買い物しましょう!」
温子はそう言って来た道を引き返した。
「なんだか、修学旅行みたいで楽しいね!」
涼子は親に嘘を付いて外泊するのは初めてだったので、多少、親に対しては気が引けたけれど、この状況をいちばん楽しんでいるようだった。
孝太はようやく落ち着きを取り戻し、ラジオの深夜番組にチューニングを合わせた。
今日の“磯松”は特に混んでいて、刺身の類は全部品切れになっていた。賄いの夜食が食べられなかった孝太は昨晩の残りのカレーを温めることにした。
アパートに戻ってきた温子達はすぐにカレーの臭いに気が付いた。
「うわー、なんかいいにおい」
知美がそう言って花をクンクンさせた。
「ラッキー!これ、孝ちゃんのカレーだわ」
温子がそう言った。
「それって!」
他の二人も子供のように目を輝かせた。
カレーが暖まったので皿にご飯を装おうとしたとき、ドアをノックする音がした。孝太がドアを開けると、両手に手提げ袋をぶら下げた温子達がいた。
「ヘヘッ、電車に間に合わなかった」
温子が舌を出してそう言った。その後ろで涼子と知美も手提げ袋を掲げて微笑んでいる。




