5.自己紹介
建物の中央列にある部室には窓こそないが、天窓があり昼間なら照明が必要ないくらいの明かりが入ってくるようになっている。西側の外に面した側の部屋は、会議室で各倶楽部の合同会議や部長会議の時に使われる。それ以外の各部室の広さは10畳程度だ。
CIPのメンバーは、全員で7名。3人が卒業したあとに、孝太達3人が入部して、変わらず7名ということになる。
部屋に入ると他のメンバーは既に揃っていた。
「おっ!揃っているな」
部屋の中央には小さめの机が3つずつ向かい合わせて置いてあり、そのうち、奥の二つと右側の真ん中の席には、他の3人のメンバーが席についていた。
部屋の中央にある入口の両側には二段重ねになった書庫が置いてあり、それぞれ上の段にはガラス入リの引き違い扉がはめ込まれた書庫があり、中に書籍やカタログの類がぎっしり詰め込まれている。
下の段には鍵付の引き出しが組み込まれたものが置かれている。おそらく、中にはイベントで使用する備品などが保管されているのであろう。
奥の窓際には、この部屋には到底似合わないカナディアン調の木製の両袖机。机の脇には4人ほどが座れる応接セットがある。
ソファーは革張りで、日下部は、その革張りのソファーの奥のほうに、こちら側を向いて腰掛け、入り口付近で立ち止まっている3人を手招きした。
「空いてるところに適当に座ってくれ」
女性が座っている左側二つの席に広瀬涼子と廣瀬温子が順に座った。孝太は、二人の男性が並んで座っている、右側の端の席に着いた。
「まずは、みんな自己紹介をしよう」
日下部は言った。
最初に立ち上がったのは、涼子と温子の並びに座っていた女性で、彼女は黒のスーツに白いブラウス、ロングヘアーで大人の女性といった感じだった。
「副部長の七瀬望です。法学部の4年よ。彼とは幼稚園からの腐れ縁なの。ここでは機材のリースやテキ屋の手配も含めて総合的企画と経理をやっているわ。なにか、困ったことがあったら何でも聞いてね」
もしかしたら二人、つまり日下部と望は付き合っているのかもしれない…。孝太はそう思った。
次に手を挙げたのが、右側の奥の席に着いていた、白とグリーンのラグビージャージに白地のジーンズをはいた、短髪でいかにも体育会系といった男だった。
「高倉伸一です。工学部。2年です。ここでは開場のセッティングなど現場の仕事がメインだ。君たちの一つ先輩になるわけだけど、しばらくは俺が色々教えるからよろしくな」
厳しいが、面倒見のいい人のように思えた。
最後は、孝太のとなりに座っていた、サングラスをして素肌に黒いシルクのシャツを着て、ジーンズに麻のジャケットを羽織ったホスト風の男だった。
「医学部3年の鵬翔晃です。ここでは営業みたいなことをやっています。宜しくお願いします」
鵬翔はそう言って、サングラスを外した。サングラスを外した顔は、以外と人の良さそうな感じで、それまでのイメージとのギャップで思わず笑ってしまいそうになった。
「さあ、今度は君たちの番だ。」
孝太達は、誰が最初に自己紹介するか3人で顔を見合わせながら、孝太が最初に立ち上がった。
「広瀬孝太です。経済学部です。最初は何も役に立てないかもしれませんが、頑張ってやっていきたいと思いますので宜しくお願いします」
深く頭を下げて着席した。続いて廣瀬温子が立ち上がった。
「廣瀬温子です。法学部に入学します。広瀬君とは同じ“ひろせ“でも字が違うんです。親戚でも何でもありませんので宜しくお願いします」
「へぇ、同じ名字が…。佐藤や鈴木ならともかく、二人同時に来るなんて偶然にしてもすごいわ!」
望がそう言うと、日下部と孝太達はクスクス笑った。最後に、広瀬涼子が挨拶をした。
「法学部に入学することになりました。広瀬涼子です」
他の3人が一斉に「おぃ、おぃ、全部“ひろせ”かよ」というような、驚いた声を上げた。笑いながら涼子が続けた。
「そうです。私は広瀬君と字も同じですけど、赤の他人です。宜しくお願いします」
孝太達3人は、揃って立上り再度「宜しくお願いします!」と声を合わせていった。
今度は、日下部良介が立上った。
「顔と名前は分かっているだろうけど、ボクがCIP部長の日下部良介だ。まずは簡単に説明しておこう」
日下部良介は、身振り手振りを交えながら、CIPについて語り始めた。