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57.温子の本心、涼子の気持ち、知美の想い

57.温子の本心、涼子の気持ち、知美の想い


 CIPの部室では温子と涼子が先ほどの西東京国際大学のデータをまとめていた。涼子は温子が孝太をふったと聞いたときには驚いたけれど、その後、二人がいつもと変わらないのを見て安心した。

あの日…。孝太が電話ボックスの中でうなだれていたのを目にした時には本当に心配だったから。あんな孝太を見たことは無かったから。

「あー、やっと終わった。ありがとうネ!ねえ、涼子?久しぶりにご飯食べて帰ろうよ!」

「いいよ!温子と二人でご飯食べるのって本当に久しぶりだね」

「そうよね。大学に入ってからはずっとバイトだったしね。まあ、そのおかげで私は孝ちゃんと知り合えたんだけどね」

「え~?知り合ったのは合格発表でしょう?」

「へへ、そうだったね。よし!それじゃあ、“磯松”へ行こう!」

「磯松?孝太君がバイトしているお店?だって居酒屋でしょう?」

「そうよ。でも、ご飯ものもおいしいのよ。ねっ!いいでしょう?」

「そうね。一度くらいは行ってみたいわね」

「よし。決まり!」

温子は涼子を部屋から出すと、部室のドアにカギを掛けた。


  “磯松”へ向かう道すがら、涼子は温子に確かめた。

「あなた達って、本当に別れたの?」

「ええ、そうよ。もう、恋人同士ではないわ。だから、あなたともライバルね。正々堂々とやりましょう?」

なんだかよくわから無いけど、涼子は嬉しかった。孝太が温子の恋人でなくなったことにではなく、温子が今までと変わっていないことにだ。そして、そのことで二人が気まずくなっていないことに。


 二人が店にやってきたことに最初に気が付いたのは亨だった。

「おっ!元気印がやってきたぜ」

それを聞いて、知美は入口の方を振り向いた。すぐに温子と目が合った。知美達に気が付くと温子はレジの店員に知美達の席に合流すると告げた。店員は温子達をその席に案内した。

「皆さんお揃いで、どうしたんですか?」

温子がそう声を掛けると、すぐに亨が答えた。

「今日は、こいつらのカップル成立祝いなんだ」

そう言って、前の二人を指した。亨の前には、司、洋子、知美の順に座っている。つまり、こいつらというのは、司と洋子のことらしい。

温子が二席空いている4人用のテーブルの亨の隣に座ったので、涼子は知美の隣に座った。席に着くと、温子は店員に頼むものが決まったら呼ぶと告げた。店員は頷いて一旦下がって行った。

二人並んだ知美と涼子を見比べて、温子と亨は同時に口を開いた。

「改めて二人並べてみると、本当にそっくりだなあ」

「本当!」

他のメンバーもみんな二人を見比べた。


 追加の飲み物を運んできた孝太は温子と涼子が同じ席にいるのを見てギョッとした。近づいてくる孝太に気が付くと、温子は孝太に向かって手を振った。

「孝ちゃ~ん!」

孝太は苦笑いを浮かべて生ビールを二杯テーブルに置いた。

「孝ちゃん、涼子が一度来たいっていうから連れてきたよ。私、レモンサワー!薄くしてね!もう、酔っぱらっても泊まるところないから!涼子は?」

涼子が何か頼もうとすると、孝太が先にこう言った。

「ここは、アップルティーは置いてないんだ」

涼子は微笑んで、グレープフルーツジュースにして欲しいと言った。

「了解!」

孝太は他に頼むものがないか、亨達に確認して厨房に戻った。

「ねえ?ねえ?ねえ?今のはなあに?」

温子は目を輝かせて涼子に尋ねた。

「今のって?」

「孝ちゃんがアップルティーはないって言ったでしょう?」

「ああ、あのね、孝太君が言うんだけど、私、いつもお茶を飲むときはアップルティーを飲んでいるって」

「へ~!それ、孝ちゃんが言ったの?」

「そうなの!」

そう言った涼子の表情が照れくさそうで、しかし、嬉しそうに笑みがこぼれているのを見て温子はご機嫌になった。なんだかんだ言っても、孝太は涼子のことをちゃんと見ていた。

横で二人の会話を聞いていた亨が口を出した。

「おい、おい、どういうことなんだ?説明してくれよ。元気印は、あいつをふったんだろう?」

「元気印って、失礼ね!私には温子っていう名前があるのよ!」

温子はおしぼりで亨のほっぺたを軽くたたいて言った。

「そうよ」

「まあ、それは分かった。それで、今あいつは、このそっくりさんと付き合っているのか?」

「どっちがそっくりさんよ?私に言わせれば、藤村さんの方が涼子のそっくりさんなんだけど!」

涼子と知美以外は吹き出して笑ったが、二人はちょっと複雑な思いだった。

知美は今の涼子と孝太の会話を聞いていて、孝太の心の中で涼子の存在が大きくなっているんだと感じた。

涼子は“F&N”の件もあって、知美の孝太に対する思いを知っているから気まずかった。

本当は、遠慮せずに、今は私が孝太君の彼女よ…。くらいのことが言えたらいいのに。そう思っていた。すると、温子が替わりにこういった。

「確かに、私は孝ちゃんをふったけど、振り出しに戻しただけ。だから、私たち三人ともライバルね。今は涼子が一歩リードってところだわ」

知美はピンときた。温子はああ言っているけど、それは、たぶん、涼子のために身を引いたに違いないのだと。

亨と司は訳が分からないと言ったけれど、温子は亨に訳が分からないのは、キザオ達も同じでしょう?と反撃した。

「誰がキザオだ!」

亨はムキになって怒ったけれど温子は更に追い打ちをかけた。

「同じキザオでもうちの部長はもっと格好いいけどね!」

「かー!頭に来た」

そう言って亨はジョッキを持つと、残っていた生ビールを一気に飲み干した。







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