56.合コンラリー
56.合コンラリー
孝太は温子、涼子、鵬翔とともに西東京国際大学に来ていた。温子の手伝いで合コンラリーの参加メンバーの面接を行っている。鵬翔は先方のリーダーに三人を紹介すると、後を温子に任せて先に一人で帰った。
「もう帰っちゃうんですか?」
温子がそう聞くと野暮用があるのだと、珍しくデレデレした表情で答えた。
入り口の外にはごく普通のという言葉がよく当てはまる女の子がいた。ここの学生のようだった。
「あの二人、付き合ってるのかなあ?」
温子がそうつぶやくと国際大のリーダーが咳払いをし小声で教えてくれた。
「君達は知らないのかい?あの二人はここでは結構、有名なカップルなんだよ」
「え~っ!」
三人は声を上げてお互いの顔を見合わせた。リーダーは、再び咳払いをして、冷ややかに言った。
「さて、本題に戻ろうか」
西東京国際大学からは、10人の男子学生が参加する。合コンラリーのルールはこんな具合だ。エントリーしているのは男・女4つずつ、8つのグループだ。それぞれ、総当たりで4ラウンド実施される。エントリーするグループは予め、メンバー表とメンバーの写真を提出しなければならない。
1回の合コンに参加できるのは各グループ5人までだ。メンバーはラウンドごとに入れ替えることが出来る。参加メンバーはCIP発行の参加証とナンバープレートを受け取る。気に入った相手がいれば、合コン終了時にレフェリー(CIPメンバー)立合のもと電話番号を書いたメモを相手に渡し、ナンバープレートをレフェリーに返却する。
渡す相手は1ラウンド一人だけだ。受け取る方は何人からでも受け取ることが出来る。渡された方は以後、その相手との交際権を得ることができ、その証のカードを受け取る。カードを受け取っても次のラウンドには参加できるが、交際を決めた場合には参加証とカードをレフェリーに返却し、以降のラウンドには参加できなくなる。渡した方はその次点で次のラウンドには参加できない。
ただし、渡した相手が他の相手と交際を決めたときは、その次のラウンドからナンバープレートを返却して貰い、復帰することが出来る。
電話番号を渡すとマイナス5ポイント、渡された方はプラス5ポイント。カップルが成立すると、お互いにプラス10ポイントになる。
従って、電話番号を受け取ってカップルになれば15ポイント、渡した方もカップルになれば5ポイントが入る。
4ラウンド終了して最もポイントの高かったグループが合コンチャンピオンの称号とチャンピオンカップを得ることができる。
まあ、ざっとこんな感じだ。
西東京国際大学は前回初めて参加し最下位に終わっている。今年は少しでも順位を上げようとオールラウンダーを6人と特定の相手にターゲットを絞ったスペシャリストを4人用意した。
温子は参加メンバーを見て会場を選ばなければならないので真剣に質問を繰り返しては、写真を貼り付けたメンバー表にメモを取っている。
孝太と涼子はメンバーの癖や性格を観察して温子のメモに付け加えていく。孝太は男の目で見た意見を温子に伝える。涼子は女の目で見た意見を温子に伝える。
みっちり1時間の面接を終えた温子はその足で部室に戻ってデータを整理すると言った。涼子はそれに付き合うと言い、温子と一緒に聖都へ戻った。
孝太はバイトがあったので“磯松”に向かった。温子は、涼子が“磯松”に行ったことがないので、後で涼子とご飯を食べに行くと言った。
“磯松”は今日も繁盛していた。
孝太がレジで帰る客の勘定を清算していると知美がやってきた。洋子と横山司、それに皆川亨、石川若菜、米村綾も一緒だった。
「いらっしゃませ!」
そう言うと孝太は店内を見渡して4人用のテーブル席が二席空いているのを確認して、知美達を席に案内した。
「係の者がまいりますので、少々お待ち下さい」
孝太がそのまま下がろうとすると、亨が降誕の腕を引っ張った。
「とりあえず、先に生ビールを6杯大至急持ってきてくれ!のどがカラカラだ」
それを聞いた孝太は知美を睨んだ。知美は微笑んで頷いた。
「亨先輩、私たちは未成年なんですからウーロン茶にして下さい」
「えっ?いつも1杯くらいは飲んでるじゃないか」
「孝太君にお酒は辞めろと言われたからもう飲まないわ」
知美はそう言って孝太にウインクした。
「じゃあ、私たちもウーロン茶で!」
若菜と綾も賛成した。けれど、洋子だけは生ビールがいいと言った。パッと見た目には、洋子は充分大人の女に見える。
「了解!じゃあ、生ビール3杯に、ウーロン茶3つだ。つまみは今から考えるから、とにかく飲み物を大至急な!」
「それでは、すぐにおしぼりをお持ちいたしますので」
孝太は深々とお辞儀をしてその場を去った。
孝太が去ってから亨が知美を冷やかした。
「すっかりあいつに飼い慣らされているじゃないか」
「そんな言い方はよせよ」
司が気を使って知美をかばった。
「そうそう、亨ちゃんの悪い癖よ」
若菜と綾も亨をたしなめた。亨は“やれやれ”といった仕草で知美を見た。知美はこの三人の不思議な関係に、思わず吹き出した。
すぐに、孝太が生ビールとウーロン茶をもってやって来た。
「なあ、お前さん、藤村のことはどう思ってるんだい?こんなに健気に愛してくれる女なんて滅多にいないぞ!まあ、あの元気印も悪くはないがな」
孝太は一瞬表情がこわばった。知美はそれを見逃さなかった。すかさず、孝太に問いかけた。
「孝太君?どうかしたの?」
孝太は、ためらったが、正直に話した。
「温子にはふられたよ」
「えっ?」
知美は驚いた。
「なんだって?」
亨が口を挟んだ。
「きっと、こんなにいい子をほったらかしにいていたから罰が当たったんだな!」
「そうかもしれませんね」
孝太はそう言うと、伝票を手にしてつまみの注文を取った。
「ありがとうございます。それでは、ごゆっくり」
そして、再び厨房へ消えていった。
孝太がいなくなると、洋子が目を輝かせて知美に言った。
「知美!チャンスじゃない」
「そうかもしれないけど、ダメよ!」
「どうしてよ」
「そんなことで、つき合い始めても、長続きしないわ」
「そんなの、付き合ってみなければ判らないじゃない」
「だけどダメなの」
「まったく、あなたって子は…」
洋子は半分諦めて生ビールを口にした。
「いけない!先に飲んじゃった」
「やってくれたよ。」
亨が額に手を当てそう言いながら笑った。
「じゃあ、改めて乾杯!」
「乾杯!」
みんなでグラスを合わせてそれぞれ一口飲んだ。
「しかし、お前がふられたのも分かる気がするよ」
亨が司に向かってそう言った。
「だから、俺は彼女のそう言うところに惚れたんだ」
「何を言ってやがる!一目惚れだったくせに」
亨が司にそう言うと、みんな一斉に吹き出し、それから大声で笑った。




