52.思い出の清算
52.思い出の清算
孝太と温子は駅前の商店街にある、ーパーに来ていた。孝太が買い物かごをぶら下げて、温子がめぼしいものを物色してはかごの中に放り込んでいく。まず、野菜コーナーで玉ねぎとマッシュルームを。それから、鮮魚コーナーでイカを。乾物物のコーナーではパスタを。調味料のコーナーで固形のコンソメを。乳製品のコーナーでは生クリームと粉チーズを買った。
孝太にもメニューの察しがついた。ベーコンと卵は冷蔵庫に入っているので、買わなくていいと言った。
「なんだか私達、新婚さんみたいだね」
「そうだな。ちょっと恥ずかしいけど、こういうのも悪くない」
アパートに着いたら温子は早速、台所に立った。決して、慣れているとはいえない手つきで玉ねぎを刻むと涙が溢れてとまらなかった。
「孝ちゃん、悲しいよ~」
そう言ってハンカチで目を拭きながら孝太の方を振り向いた。
「玉ねぎだろう?本当は冷蔵庫で冷やしておくと涙は出ないんだ」
「え~、そうなの?だったら玉ねぎ、冷蔵庫に蓄えておいてよぉ」
「昨日まではあったんだ」
孝太は仕方がないと笑いながらレコードプレーヤーに青リンゴのマークが入ったレーコード版を乗せて針を降ろした。ジャケットには四分割された4人のメンバーの顔が描かれている。アルバムの最初の曲、TWO OF USが軽快なリズムを刻み始めた。
温子は生クリームに固形のコンソメと粉チーズを入れて弱火でゆっくり溶かしている。玉ねぎとベーコンを炒め、マッシュルームを加える。それにコンソメのきいたホワイトソースを合わせる。パスタを茹でる。茹でたパスタを、ホワイトソースに絡める。卵はポーチドエッグにして皿に盛ったパスタの上に乗せた。パセリをみじん切りにして振りかけ、温子風カルボナーラの完成である。A面6曲目のLET IT BEが終わろうとしていた。
「おお、旨そうだな」
「失礼ね!旨そうなんて。美味しいに決まってるじゃない!」
孝太はバーゲンセールの時に買い貯めしておいたインスタントのコーンスープを二つ作った。
「いただきま~す」
二人同時に手を合わせた。
温子の作ったカルボナーラはなかなかのものだった。
「美味しいよ。お嬢様にしては頑張ったな」
「バカにしないでちょうだい。こう見えても小さい頃はお手伝いさんと一緒に夕飯の支度をしていたのよ」
食事が終わると、温子は食器を洗って後片づけをした。
孝太は、温子にシャワーを浴びるように言ったけれど、温子が銭湯に行きたいと言ったので二人で出掛けた。
石鹸やシャンプーは一つずつしかなかったので孝太はそれを温子に持たせた。孝太は途中のコンビニで旅行用のトラベルセットを買った。
銭湯に着くと、それぞれ、男湯と女湯に別れた。
温子は入念に隅々まで身体を洗った。浴槽に浸かっている、男湯の方から口笛が聞こえてきた。
「もうあがる」
孝太が合図をよこしたのだ。
「先にあがってて。私はもう少し入ってる」
孝太は先にあがって牛乳を1本買って飲んだ。しばらくすると、女湯の脱衣場から温子の声が聞こえてきた。
「孝ちゃん、牛乳飲む?」
「もう飲んじゃったよ」
「な~んだ」
温子はいちご牛乳を買った。番台にお金を払いに来た温子がチラッと見えた。まだ服を着ていないようだった。孝太は股間が大きくなっていくのを感じて慌ててタオルで隠した。
「先に出てるぞ」
孝太がそう言うと温子ももう出ると言った。孝太は先に外に出て、入口の脇にあるベンチに座わり、温子が出てくるのを待った。温子もすぐに出てきた。温子は、孝太のTシャツとジャージを着ていた。
二人は、手をつないで、夜の道を歩いた。
「ねえ、ちょっと公園に寄って行きましょう」
「今からか?」
「湯冷めするぞ」
「何言ってるのよ。真冬じゃあるまいし」
「ねっ!いいでしょう?」
「解かったよ」
公園はアパートを通り越した先だったけれど、孝太は仕方なく従った。公園のベンチに座って温子は空を見上げた。
「星がきれいね」
「そうだな」
「ねえ、前にここでお芋食べたね」
「そんなこともあったなあ」
孝太には今日の温子は今までの思い出を辿っているように思えてならなかった。
「さあ、そろそろ帰りましょうか?」
アパートに帰ると、二人はすぐに布団に潜り込んだ。そして、自然に抱き合った。




