4.初仕事は入学式
4.初仕事は入学式
もう一人の女の子もひろせだと言ったのか…。まさか!
「えっ?またひろせ?」
「そう!私はあなたと同じ広い方の広瀬ですよ」
二人は、また顔を見合わせながら、今度はケラケラと笑った。日下部良介が、指をパチンと鳴らした。
「驚いただろう?ボクも最初にこの子達が両方“ひろせ”だと言うのには、それほど驚きはしなかったんだ…。はら、よくあるだろう?たまたま、名字が同じで、席も隣同士だから必然的に仲良くなるってこと。それなのに、偶然、声を掛けた赤の他人の君まで“ひろせ”だったんだから。これは、もう、運命としか言いようがないね!」
そう言いながら、日下部良介が、なんだかいちばん嬉しそうにしている。そこへ、ちょうど先ほどの女店員が、ハヤシライスを4つトレーに乗せて持って来た。
「はい!おまちどおさま。」
女店員は、ハヤシライスをトレーごと座敷の端におくと、あとを日下部に任せるというような合図をして、他の客の注文を取りに行ってしまった。
「さあ!食ってくれ。このハヤシは本当にうまいんだ。毎日食っても飽きないくらいだ。まぁ、毎日食ったことはないけど…。それから、二週間後に、今年度最初のイベントの企画会議があから是非参加してくれよ。その時に、他のメンバーも紹介するから」
「最初のイベントですか?」
3人は聞き返した。
「そうさ!君たちの入学式だよ。」
構内は正面にそびえる本館と、各学部ごとに独立した建物がある。本館には事務局や医務室、図書館などがあり、医学部が1号館、工学部が2号館、経済学部が3号館といったかたちで、合計9棟の建物で構成されている。
その他に、入学式や卒業式が行われる講堂、ちょっとしたコンサートもできる設備を備えた小ホール、そして、学生食堂や売店がある厚生棟などの独立した建物がある。
本館の裏手、北側になるが、公園のような中庭があり、そこは学生達の憩いの場でもある。この庭を挟むようにして両側に各学部の建物は建っている。
更に北側、敷地の南側には陸上競技場、野球場、テニスコートなどのグランドが連なっている。陸上競技場はフィールド内がサッカー兼ラグビー場になっているが、実際に使用しているのは陸上部の学生だけで、サッカー部やラグビー部は郊外に専用グランドと寮があるため、ここで練習することはない。
それ以外の倶楽部の部室は厚生棟の2階にあり、中庭のほぼ中央に立てられている。
グランドの向こうを横切る国道を隔てた第二の敷地には屋内スポーツのための体育館が3棟と屋内プールがある。
講堂と小ホールは本館前の桜並木の両側にそれぞれ建てられている。
孝太と日下部は、中庭に出るため本館を突き抜けた。真ん中に初代学長の銅像が鎮座する、大理石貼りのホールを横切り、中央の廊下をまっすぐ進んだ突き当たりに中庭への出入口がある。
中庭に出ると、ジーンズに白いパーカー姿の廣瀬温子と薄いピンク色のブラウスに茶色のカーディガン、カーディガンより少し濃い茶のひざ下ほどの丈のスカートをはいた広瀬涼子が、噴水のそばにあるベンチに腰掛けているのが見えた。
廣瀬温子が、二人に気付いて立ち上り、手を振っている。広瀬涼子は、座ったままお辞儀をした。
「やぁ、お待たせ!」
日下部も軽く左手をあげて応えた。
噴水を回り込むと、そこに立てられているのが厚生棟だ。伝統ある聖都大学の建物の中にあって、この厚生棟は5年ほど前に建てられたばかりの近代的な建物だった。
正面はカラーステンレスのフレームに、ガラスがはめ込まれたカーテンウォールになっている。他の面の外壁は、目地の深いれんがタイルが施されている。全ての窓は、ブロンズカラーのアルミサッシで、各部屋の両側がフィックスされていて中間に、引き違いの障子がはめ込まれているように見えた。
屋根は両側がフラットで、中央部が天窓のようにせり出している。
中にはいると、エントランスは吹抜になっており、正面に学生食堂の入口があり、右側にカフェ、左側に売店が並んでいる。エントランスからは2階のテラスが見渡せる。
まだ、春休み中なので営業されていないが、カフェだけはボランティアの学生達によって営業されていた。左右の売店とカフェの前には、2階のテラスへ上がる階段がそれぞれある。
孝太達は、日下部のあとに続いて左側の階段を2階へと上がっていった。2階のテラスからは、ガラス張りの壁面を通して中庭の噴水を見ることが出来る。
両方の階段を上がった場所からそれぞれ奥に向かって廊下が延びており、その両側に部室が連なっている。
CIPの部室は、東側の外に面した側の部屋の一番奥で、部屋の二面に窓がある。マンションで言うなら、値段の高い東南向きの角部屋だった。