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47.新たな目標

47.新たな目標


 温子は張り切っていた。雑誌を何冊も買い込んでは、評判の店をリサーチするために出掛けていった。その中で貸し切りにしなくても、十人程度までなら充分な広さと設備が整ったパーテイールームがいくつかあるプールバーに目を付けた。

ビリヤード台の他にダーツやピンボールゲームなどが置かれていて、六十年代のアメリカを思わせる内装の店だ。その店の支配人にCIPの企画で使うと言ったら、全面的に協力してくれると言う。店側もあのCIPが目を付けたとなれば、宣伝効果は抜群だと喜んでくれた。

温子はパーティールーム一部屋の料金を通常の1/3で話をつけた。更に、飲み放題のみの料金でオードブルを付けさせた。しかも、持ち込みOKの許可まで取り付けた。店側もこれがきっかけでパーティールームの需要が増えれば、ある程度の利益を出すことが出来る。しかも、持ち込みを許可することによって利益の薄い食事メニューに手間暇を掛けなくても済む。このシステムはいける!そう思ったのか、それ以来この店は、持ち込みOKのパーティーが出来ると評判になり、週末となれば一ヶ月前でも予約が取れないほど人気がでた。

 温子の企画は大成功だった。企画を依頼した彼は主役の女の子に好意を持っていたので、その彼女がことのほか喜んでくれたこと、そして、自分との交際を受けてくれたことを温子に報告して礼を言った。

この手の企画の場合、予め設定された設定金額をCIPへ先に払って貰い、その範囲で全てを賄うことがルールだった。今回の場合、ほぼ個人的なレベルの企画だったので、金額は大した額ではなかったけれど、温子は50%の利益を上げた。

「ヒュー!やるじゃないか。お嬢さん」

良介に誉められて、温子は鼻高々でVサインをして見せた。

望もこの結果には大いに満足した。

「最初にしては、良くやったわね」

そして、温子にはボ報酬を支給した。こういった個人企画の場合は、担当した当事者が、利益の額に応じて報酬を貰う仕組みになっている。だからといって、赤字を出してもペナルティーがあるわけではない。ただ、報酬は貰えないだけなので、働き損ということになる。もっとも、ほとんどの場合、赤字を出すことなど無かった。

 温子はこれを機に“磯松”でのバイトを辞めた。もともと、バイトを始めたのは経済的な理由ではなく、社会勉強の一環と言うことで両親にも許しを貰っていたのだから、居酒屋にこだわる必要はなかった。大学のサークル活動で収入を得られるのであれば、好き好んでバイトなどする必要もなくなるわけだ。ただ、孝太と一緒に居る時間が少しだけ減ることにはなるのだけれど。


CIPの仕事が無いときもリサーチ活動を続けた。それは飲食店に限らず、パーティー用の雑貨を扱う店から目的に応じたプレゼントを買うのにどこでどんな物を買ったら、誰にウケるのかなどを入念にリサーチしていった。そして、その情報はノート数十冊分にものぼった。このことが、温子の人生の目標を大きく変えることになる。しかし、この時本人はまだそんなことを考える余裕もなかった。


 知美はバザー以来、孝太と顔を合わせていなかった。下宿先の自分の部屋で、家から持ってきたサイン帳を毎日広げて見ていた。いちばん最後のページだけを何度も。

「このままじゃ、何も変わらない。待っているだけじゃ、何も変わらない」

けれど、連絡を取ろうにも孝太のアパートには電話がない。

「行くしかないわね!」

その日の講義が終わると、知美は洋子を誘って“磯松”へやって来た。すぐに孝太は見つかった。注文を聞きに来たのは、他のアルバイト店員だった。

とりあえず、グレープフルーツサワーと海鮮サラダ、サイコロステーキと野菜の鉄板焼きを頼んだ。

温子の姿は、いくら探しても見あたらなかった。

「よしっ!チャンスだわ」

そう思った。

「ねえ、彼いるの?」

洋子が店内を見渡しながら尋ねた。

「いるわ!ほら、あそこ」

知美は客が帰った後のテーブルを片づけている孝太の姿を見つけるとそっちの方を指差した。

「ふーん、なるほどね。まあまあかな」

食器をトレーに載せて厨房に戻る途中、こっちを見ている二人に孝太は気がついたけれど、平静を装ってさりげなく厨房に入って行った。

孝太は食器を洗い物専用のシンクに入れると、一旦、通用口から外に出て新鮮な空気を思いっきり吸い込んだ。

「温子が店を辞めていてよかった」

気持ちを落ち着けてホールに戻ると、知美が手をあげて呼んでいるのが見えた。あたりに他の店員はいなかった。仕方なく、知美達のテーブルに近づいて行った。

「すいません、グレープフルーツサワーをお願いします」

知美が注文し、洋子も同じものを注文した。

「藤村さん、未成年なんだから、お酒なんか…」

知美は人差し指を立てて、口の前にだした。

「しっ!」

そう言って、孝太の手を取りメモ用紙を握らせた。

「飲みすぎるなよ」

孝太は一言、小声で言った。それから、厨房に向かって大きな声で叫んだ。

「グレープ二丁入りました」

厨房からはすぐに確認の返事が飛んで来た。

孝太はちらっと知美を見て、握ったままのこぶしをジーンズのポケットに突っ込んだ。それから、ニヤニヤしている洋子の方に目をやってその場を去った。

厨房に戻ると孝太は今頼んだグレープフルーツサワーを薄めに作るよう店長に頼んだ。

「知り合いなのか?」

「ええ、高校の同級生で…。まだ、未成年だから」

「そうか、わかった。じゃあ、これを持って行ってやれ」

そこには店長が作ったばかりの握り5点セットが用意されていた。ちょうど、二人前あった。

「これ、他のお客さんのじゃあ?」

「いいんだよ。どうせあっちは、酔っ払っているんだから。少しくらい遅くなっても気が付きゃしないさ」

「すいません。それ、あとで俺のバイト代から引いといて下さい」

「いいってことよ!俺のサービスだ。気にするな」

孝太は、店長に礼を言って、握り鮨と薄めのグレープフルーツサワーを知美達のテーブルへ運んでいた。

店長からのサービスだと言って、鮨を置くと二人は大袈裟だと思えるくらいのリアクションで喜んだ。洋子は厨房の方を見て、店長と目が合ったので手を振って投げキッスをした。

知美は、さっきのメモを見たかどうか孝太に確認した。知美に渡されたメモには、こう書いてあった。

『駅前の喫茶店で待っているから、お店が終わったら来て。必ずよ!』

孝太は何も言わずに、ただ頷いて見せた。

「じゃあ、待ってるからね。誰かさんが怒るから、ここはもうすぐ切り上げるわ」

 知美達が帰ると、店長が気を利かして、孝太に声を掛けた。

「今日は上がっていいぞ」

孝太は溜まっている分の洗い物だけ片付けたら上がると言い、作業を続けた。








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