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45.秘めた想い

45.秘めた想い


 思わぬ臨時収入に孝太は使い道を考えていた。

温子や涼子は貯金すると言っていたけれど、孝太にはまだ必要な物が山ほどあった。貯金にまわすほど生活が充分に潤ってはいなかった。

とりあえず、服を何着か買うことにした。むさ美のバザーで、出店してくれる店に打合せに行ったとき古着屋があったのを思い出し出掛けてみた。 まだバザーのポスターが貼られたままの店もある。自分が担当として打合せに行ってきた第三ブロックにさしかかった。

「まあ、部長みたい」

あのとき、そう言って微笑んだ涼子の笑顔を思い出した。

 古着屋の店主は、孝太のことを覚えていてくれた。ちょっと、よそ行き用のジャケットとパンツなどを買った。

「半額でいいから」

店主は、バザーで世話になったからとサービスしてくれた。


帰りに、“HIRO”へ寄ってみることにした。むさ美のバザーが終わってまだ間もないのに懐かしい感じがした。

ドアを開けると、“カランカラン”とベルが鳴った。

「いらっしゃいませ」

たぶん智子の声だ。入口を入ってすぐのテーブル席に中年のカップル、カウンターに若い女性が一人座っていた。孝太は、カウンターに向かって歩いていった。女性が座っている席の二つ奥に座って女性の顔をチラッと見た。

「藤村?」

そこにいたのは、藤村知美だった。

「あっ、孝太君」

「えっ?涼子ちゃん?」

むさ美の近くなので、必然的に知美だと思ったのだけれど、考えてみれば涼子の家もここからそんなに遠くはないのだったと聞いたことを思い出した。

「どうして?涼子ちゃんが?」

「あら?変かしら?私の家は隣の駅なのよ。むさ美のバザーの後はよく来ているのよ」

涼子は、ポーチから小さな紙袋を取り出した。

「これね、この前、打合せに行ったお店で、可愛かったから買っちゃったの。」

そう言って、孝太の隣に席を移ると、バッグから紙袋を出した。まだ、テープが貼ったままだった。中にはキーホルダーが二つ入っていた。一つは、女の子で、もう一つは男の子の人形がついていた。人形が着ている服はハートの形が半分になったものだった。二人をくっつけると、ハートの形が出来るようになっていた。

涼子は、そのうちの男の子の方を孝太に差し出した。

「一つ孝太君にあげるね」

照れ隠しするように、涼子はアップルティーの入ったティーカップを自分の前に置き直した。

「それね…」

智子が、口を出そうとすると、涼子は口の前で人差し指を立てた。

「ないしょ!」

そういうポーズをした。

「さあ、そろそろ私、帰らないと…」

涼子は席を立った。

「ああ、孝太君の分も、今日は私が払ってあげるわね」

「いいよ。臨時収入も入ったことだし。涼子ちゃんの分も俺が払っとくから」

「無駄使いしちゃダメだよ。だから、いいって!温子から聞いているのよ。孝ちゃんは貧乏だから、私が養ってあげなきゃいけないんだって。温子はそう言ってたわ」

財布から、千円札を1枚取り出して智子に渡そうとする涼子の手を、孝太は掴んだ。その勢いで、涼子は少しよろけた。弾みで、孝太に抱きつく格好になった。孝太も想わず、涼子を抱きとめた。孝太の手が、涼子の背中をしっかりと抱きしめた。涼子も孝太の胸に顔を埋めた。ほんの一瞬だったが、孝太の胸のぬくもりを感じた。

「おやおや、ここはお茶を飲むところなんだけどね。」

ママの博子がどこからともなく現れて、そう言った。二人は、ハッとして離れた。涼子は顔を赤くして、千円札を置くと、お釣りも受け取らずに、駆けだしていった。店を出る前に振り向いた。

「ないしょ!」

智子に向かってもう一度ポーズを見せて、店から出ていった。店を出ると、涼子はそのまま駅まで走った。

 孝太は、カウンターの上に置かれた千円札を無意識のうちに、ポケットにしまった。とりあえず、ここの勘定は自分が払って、後で涼子に返すつもりだった。カウンターの中では、ママの博子が、智子にいさめられている。

「また、余計なことを言って…」

そんな二人をよそに、孝太は涼子が置いていってキーホルダーを見ている。どこか、自分に似ているような気がした。


涼子は、数日前に買ったこのキーホルダーをずっと開けずに持っていたのだ。今日、ここに来たのも、もしかしたら、孝太がここを訪れるかもしれないと思ったからだった。

「それね…。彼女には口止めされたけど…」

キーホルダーを眺めている孝太を見て智子が、口を開いた。

「あの日ね、あなた達が来た日のことなんだけど。三人で帰った後、あの子一人で戻ってきたの。それを忘れたからって。それ、私も同じ物持っているのよ。それが入っていた紙袋は私が同じものを買った雑貨屋さんのものだったから、ピンときたのよ…。彼女、間違いなく、あなたのことが好きなのだと思うわ」

「あなたこそ、余計なことを言ってない?彼の顔をご覧なさい」

孝太は自分の心の中で何かが変わっていくのを否定しなかった。








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