44.意外な素顔
44.意外な素顔
平日、しかも雨だと言うのに、ものすごい人だ。
東京ディズニーランドはまだオープンして間もないこともあって、この日もかなり混んでいた。人気のアトラクション、“スペースマウンテン”の行列に並びながら良介は“もううんざりだ”という表情が表にでないように気を付けた。そして、少しずつしか進まない列に並びながら、ただひたすら耐えていた。
望は、パンフレットを広げて、園内の案内図を見ている。
「ねえ、少しお腹がすいたわね。これに乗ったら、ここに行ってみましょう」
望が指したのは、“カリブの海賊”というアトラクションが入っている建物の中にあるレストランだった。
「そんなところに行ったら、また、めちゃくちゃ混んでいるんじゃないのか?腹が減ったのなら、こう…。とにかく、もっと簡単に食えそうなもの売っているワゴンかなんかに行ったらどうだ」
望は首を横に振って、猛反対した。
「バカね!その辺で、デーとしているのとは訳が違うのよ。せっかく来たんだから、並んででもここに行かなかったら、自慢話もできないじゃない」
良介は、“やれやれ”と思ったが、今日だけは、お姫様の言う通りにしておこうと思った。
実は、良介が“ファントム”にこもっている時、映像エンジニアの源が、パスポートチケットを5枚手に入れたと言って、そのうちの2枚を良介に譲ってくれたのだ。残りの3枚は自分が娘を連れて家族3人で行くとはしゃいでいた。
良介は、CIPの部室に戻ると、それを望の顔の前でちらつかせた。こう見えて望は、遊園地が大好きで、特に絶叫マシンといわれるジェットコースター系の乗り物には目がないのだ。
「何?」
久しぶりに部室に顔を出した良介に文句の一つの言おうとしていた望の目が、瞬く間にキラキラ輝きだした。
望が良介の手から、そのチケットを奪い取ろうとした瞬間、スッと良介は手を引いて、チケットを持った手を背中のうしろに隠した。
「良介、お願い。それ見せて」
望が良介の背中のうしろを覗こうとすると、良介は身体をひねって意地悪をする。ところが、ひねった側に居た温子が、良介の手からチケットを取り上げる。
「うわあ!これ、ディズニーランドのチケットじゃないですか!どうしたんですか?」
「温っちゃん、ごめんなさいね。それは、良介が、私のために手に入れてくれたものなの。だから、返してちょうだい」
そう言って望は温子に向かって、右手を差し出した。温子は仕方なく、チケットを望に渡した。
「いいなあ…」
温子は孝太の方を見た。孝太は、良介の方を見たが、良介は顔の前で手を振って、それから×(ダメ)のポーズをした。
「ねえ、いつ行こうかしら?」
つかの間の王様気分があっと言う間に逆転して、良介は少し気落ちしていたけれど、とりあえず、むさ美のバザーが終わってからにしようと提案した。望みも渋々承諾した。
むさ美のバザーは、CIPの奮闘により、大成功に終わった。
CIPは、収益の20%を受け取った。バザーの企画で収益の20%は破格だ。それでもむさ美側は、例年の三倍もの収益を得ることが出来たのだ。
今回は、ほとんどが人件費。“ファントム”のスタッフ以外は、全て自分たちの足で動き回ったので、撮影用の機材の損料などを差し引いてもかなりの黒字で終えることが出来た。望からそう報告があった。そのうちの50%をCIPの口座に蓄え、残りは全員で分配した。
孝太達一年にとっては、初めての給料ということになる。孝太は、望から受け取った封筒の中を見て驚いた。一万円札が6枚入っていた。
良介は絶叫マシンという物が苦手だった。自分たちの順番が近づいて来るに連れ、良介は、だんだん落ち着きが無くなってきた。望はそのことを知っているので、良介が途中で逃げ出さないように、しっかり腕を捕まえている。
ついに、順番が回ってきて、スペースマウンテンの箱に乗り込む。頭の上から、ガードが降りる。
「着替えのパンツは用意してあるのかしら?」
望がからかう。
「何のことだか…」
良介がごまかそうとした瞬間、その箱は動き出した。
「うぉー」
早くも良介が、わめき始める。
「まだ早いわよ」
箱は、スピードを上げ、急カーブを高速で廻っていく。登る。落ちる。曲がる。
「うぉー、うわー、あー…」
そんな良介の横で望は、足をバタつかせて喜んでいる。箱が通っている空間は高速で宇宙を旅する宇宙船をイメージしているようで、暗闇があるかと思えば、鮮やかな星が流れて行ったり、屋外のジェットコースターとは違った楽しさがあった。しかし、良介にはそんな景色など何一つ目に入らなかった…。というより、良介は箱が動き始めてからずっと目を思いっきり閉じていた。
箱は、あっと言う間にプラットホームに戻ってきた。けれど、良介には一時間にも二時間にも思える、時間だった。
箱から降りた良介は、少しふらついて、望の肩にしがみついた。望が良介の股間を触る。
「お漏らしはしなかったみたいね」
そんな風にからかわれても、良介は何も言い返せなかった。
レストランの前にも、予想通り行列が出来ていた。順番待ちのベンチに座ると、良介はうつむいて両手で頭を抱え込んだ。
「だらしないわねぇ。男なんだから、ちゃんとエスコートしてよ」
「無理言うなよ。ああいうの、俺が苦手なことは知っているだろう?ありったけの勇気を振り絞って付き合ったことに対しての賛辞くらいあってもいいんじゃないか?」
三十分ほどしてようやくテーブル席に着いた二人は、肉料理をオーダーした。
望は早速パンフレットを広げて、次のアトラクションを探している。
「次はこれね。“カリブの海賊”これならあなたでも大丈夫だと思うわ。さっきのスモールワールドみたいなヤツだから」
その時、レストランにミッキーマウスが入ってきた。
「良介、カメラ、カメラ!」
望は良介からカメラを奪い取ると、ミッキーマウスに向かってシャッターを切った。すると、ミッキーが良介達のテーブルへやって来てくれた。望は良介にカメラを投げると、ミッキーの横に並んだ。
「早く撮って!」
良介は、ミッキーマウスの横でVサインをして満面の笑みを浮かべている望を見て、心が安らぐのを感じた。
食事を済ませて、次のアトラクション、“カリブの海賊”にやって来た。以外と空いていたので、すぐに乗ることが出来た。スターとするとすぐに、急降下。
「話が違うじゃないか~」
良介は、そう思ったものの声に出すことが出来なかった。
存分に楽しんで、駐車場に向かう、望は、るんるん気分だった。雨も、既にあがっていた。良介は、両手に紙袋をいくつも持たされている。
「こんな姿、他のメンバーには絶対に見られたくないな」
良介は、そう思った。
車にたどり着くと、良介は一旦、紙袋を置いてポケットからキーを取りだしフェラーリのドアを開けた。




