表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/83

43.お似合いのカップル

43.お似合いのカップル


 智子は涼子の顔を見ると、時計に目をやり時間を確認した。

実は前日、司と知美が店を訪れていた。知美は今日、二階堂教授の息子がやっている“ムササビ”というアニメスタジオへ行くと言っていたのを聞いていたからだ。だから、こんな時間に知美がここへ来るのは、おかしいと智子は思ったのだ。

「今日は、アニメスタジオへ行くはずじゃあ…」

「えっ?」

涼子は、一瞬とまどったが、すぐに知美と勘違いしているのだと気が付いた。

「あっ、もしかして、藤村さんと間違えていますね」

智子は、キョトンとして涼子を見ている。

涼子は、自分が、藤村知美にそっくりで、偶然ボウリング場で会って、その知美が、だぶん、もうすぐ来るはずの孝太の高校時代の同級生で、孝太のことが好きなことや、今の孝太の恋人の温子と張り合っていること、逆に、知美のことが好きな司のことなどを、一通り説明した。

ちょうど二階から降りてきたママの博子が、興味津々といった表情で、話に割り込んできた。

「なんだか、昼メロのドロドロみたいな話しねえ」

「ああ、ママ!おはようございます」

智子はママに挨拶した。涼子も、軽く頭を下げた。

「それで?」

ママの博子はカウンターに身を乗り出して、話しの続きを聞きたがった。ちょうどその時、孝太が店に入ってきた。

「あら、噂の彼ね」

事情が飲み込めない孝太は、しどろもどろしながら、三人の顔を見た。

「まあ、まあ、とりあえずお座りなさいな」

ママの博子はそう言って孝太に涼子の隣の席を示した。孝太が席に着くと、智子が思いだしたように言った。

「ごめんなさい、そう言えば、まだ注文も聞いてなかったわね」

「あら、あら、智ちゃんも注文も聞かないで、こんな話しに夢中になるなんて、井戸端会議に夢中になっている、オバさんみたいね」

「失礼ね!私は、ママとは違います」

「こんな話しって?」

孝太が、涼子に尋ねると、涼子は智子と目を見合わせ、クスッと笑った。

「何でもないの。それより何にいたしますか?」

智子が、再度、注文を聞いた。孝太は、コーヒーを頼み、涼子はアップルティーを頼んだ。

涼子はふと思った。孝太と二人だけで、(ママの博子と智子は別として)こうしているのは初めてだと。温子がもう少し遅れてきてくれたら…。そう思ったところに、店のドアが開いて、温子が入ってきた。

「お待たせ。本屋のおやじが、しつこくて」

温子は、涼子の隣の席に座った。

「涼子のところはどうだった?」

「私のところは順調だったわ」

「孝ちゃんは?」

「うん、おかげさまで」

「じゃあ、あれを見せて貰いましょうか?」

温子が、そう言って、例のPRビデオを見せて貰いたいと頼んだ。

「僕たち、この件には関わってなかったから、まだ見てないんですよ。すごく評判だって聞いたから、どうしても見たくて」

「あら、めちゃくちゃ関わったでしょう」

温子が手の指にできたタコを示しながら、ふくれっ面で言うと、涼子も頷いて温子のふくれっ面をまねした。

「ああ、そうだったな」

ママの博子がビデオテープをセットした。テレビの画面から、映像が流れ始めた。この店のロゴが入ったエプロンをした、ネコの看板が映し出された。

「あれっ?」

そう思いながらも、三人、いや、智子も含めた四人は画面を見ていた。太ったネコ“ぷーすけ”を抱いたママの博子がいる。

ロケ班が、店で撮影の準備をしている。スタイリストが智子とママのメイクをし、衣装を合わせている。薄紫色のブラウスにデニムのスカートを身につけたママが、エプロンをしながら、二階から降りてくる。厨房で、コ-ヒー豆を挽きながら、鼻歌を歌っている。食器棚から、ティーカップを取りだし、コーヒーを入れている。ちょっとカメラ目線で、ほほえみかける。表情が少し引き攣っているけれど、映像的にはなかなかのものだ。

ビデオの後半は、スタッフのためにサンドイッチを作っているところや、休憩しているスタッフにお茶を入れて差し入れしている姿、空き時間に雑誌を見ている姿などが次々に映し出されてくる。

「ちょっと!これって?」

智子がママの方を見て、睨み付けている。

「エヘッ」

ママの博子は、ペロッと舌を出して苦笑いした。

孝太達は訳が分からず、二人のやり取りを見ていたが、これが、PRビデオではないことだけは分かった。

智子は、ビデオテープを入れ替えると、孝太達に詫びて、再びママを睨み付けた。


 画面に映し出された映像を三人は食い入るように見た。

「すごい、すごい」

温子と涼子は、PRビデオを見終わると、拍手喝采した。

「さっきのママさんも素敵でしたよ」

涼子がそう言うと、ママの博子は上機嫌で、アップルパイを出してくれた。ママ特性のアップルパイは、とても上品な味で旨かった。孝太達はそれを食べ終えると、ママにお礼を言って店を出た。

しばらく歩いてから涼子は立ち止まり、“HIRO”に戻ると言った。どうやら忘れ物をしたらしい。孝太も、温子も一緒に戻ると言ったが、涼子は一人で大丈夫だと言って、駆けだした。

店に戻ると、智子が、微笑んで小さな紙袋を掲げた。

「これでしょう?」

涼子は紙袋を受け取り礼を言うと、そそくさと出口へ向かった。涼子が、店を出ようとすると、智子が涼子を呼び止めた。

「あなた達、お似合いよ。きっと。素敵なカップルになれるわ」

智子には孝太と温子の関係を話している。なのに、智子は孝太と涼子がお似合いのカップルだと言ったのだ。涼子は、顔が一気に赤くなっていくのを感じた。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ