43.お似合いのカップル
43.お似合いのカップル
智子は涼子の顔を見ると、時計に目をやり時間を確認した。
実は前日、司と知美が店を訪れていた。知美は今日、二階堂教授の息子がやっている“ムササビ”というアニメスタジオへ行くと言っていたのを聞いていたからだ。だから、こんな時間に知美がここへ来るのは、おかしいと智子は思ったのだ。
「今日は、アニメスタジオへ行くはずじゃあ…」
「えっ?」
涼子は、一瞬とまどったが、すぐに知美と勘違いしているのだと気が付いた。
「あっ、もしかして、藤村さんと間違えていますね」
智子は、キョトンとして涼子を見ている。
涼子は、自分が、藤村知美にそっくりで、偶然ボウリング場で会って、その知美が、だぶん、もうすぐ来るはずの孝太の高校時代の同級生で、孝太のことが好きなことや、今の孝太の恋人の温子と張り合っていること、逆に、知美のことが好きな司のことなどを、一通り説明した。
ちょうど二階から降りてきたママの博子が、興味津々といった表情で、話に割り込んできた。
「なんだか、昼メロのドロドロみたいな話しねえ」
「ああ、ママ!おはようございます」
智子はママに挨拶した。涼子も、軽く頭を下げた。
「それで?」
ママの博子はカウンターに身を乗り出して、話しの続きを聞きたがった。ちょうどその時、孝太が店に入ってきた。
「あら、噂の彼ね」
事情が飲み込めない孝太は、しどろもどろしながら、三人の顔を見た。
「まあ、まあ、とりあえずお座りなさいな」
ママの博子はそう言って孝太に涼子の隣の席を示した。孝太が席に着くと、智子が思いだしたように言った。
「ごめんなさい、そう言えば、まだ注文も聞いてなかったわね」
「あら、あら、智ちゃんも注文も聞かないで、こんな話しに夢中になるなんて、井戸端会議に夢中になっている、オバさんみたいね」
「失礼ね!私は、ママとは違います」
「こんな話しって?」
孝太が、涼子に尋ねると、涼子は智子と目を見合わせ、クスッと笑った。
「何でもないの。それより何にいたしますか?」
智子が、再度、注文を聞いた。孝太は、コーヒーを頼み、涼子はアップルティーを頼んだ。
涼子はふと思った。孝太と二人だけで、(ママの博子と智子は別として)こうしているのは初めてだと。温子がもう少し遅れてきてくれたら…。そう思ったところに、店のドアが開いて、温子が入ってきた。
「お待たせ。本屋のおやじが、しつこくて」
温子は、涼子の隣の席に座った。
「涼子のところはどうだった?」
「私のところは順調だったわ」
「孝ちゃんは?」
「うん、おかげさまで」
「じゃあ、あれを見せて貰いましょうか?」
温子が、そう言って、例のPRビデオを見せて貰いたいと頼んだ。
「僕たち、この件には関わってなかったから、まだ見てないんですよ。すごく評判だって聞いたから、どうしても見たくて」
「あら、めちゃくちゃ関わったでしょう」
温子が手の指にできたタコを示しながら、ふくれっ面で言うと、涼子も頷いて温子のふくれっ面をまねした。
「ああ、そうだったな」
ママの博子がビデオテープをセットした。テレビの画面から、映像が流れ始めた。この店のロゴが入ったエプロンをした、ネコの看板が映し出された。
「あれっ?」
そう思いながらも、三人、いや、智子も含めた四人は画面を見ていた。太ったネコ“ぷーすけ”を抱いたママの博子がいる。
ロケ班が、店で撮影の準備をしている。スタイリストが智子とママのメイクをし、衣装を合わせている。薄紫色のブラウスにデニムのスカートを身につけたママが、エプロンをしながら、二階から降りてくる。厨房で、コ-ヒー豆を挽きながら、鼻歌を歌っている。食器棚から、ティーカップを取りだし、コーヒーを入れている。ちょっとカメラ目線で、ほほえみかける。表情が少し引き攣っているけれど、映像的にはなかなかのものだ。
ビデオの後半は、スタッフのためにサンドイッチを作っているところや、休憩しているスタッフにお茶を入れて差し入れしている姿、空き時間に雑誌を見ている姿などが次々に映し出されてくる。
「ちょっと!これって?」
智子がママの方を見て、睨み付けている。
「エヘッ」
ママの博子は、ペロッと舌を出して苦笑いした。
孝太達は訳が分からず、二人のやり取りを見ていたが、これが、PRビデオではないことだけは分かった。
智子は、ビデオテープを入れ替えると、孝太達に詫びて、再びママを睨み付けた。
画面に映し出された映像を三人は食い入るように見た。
「すごい、すごい」
温子と涼子は、PRビデオを見終わると、拍手喝采した。
「さっきのママさんも素敵でしたよ」
涼子がそう言うと、ママの博子は上機嫌で、アップルパイを出してくれた。ママ特性のアップルパイは、とても上品な味で旨かった。孝太達はそれを食べ終えると、ママにお礼を言って店を出た。
しばらく歩いてから涼子は立ち止まり、“HIRO”に戻ると言った。どうやら忘れ物をしたらしい。孝太も、温子も一緒に戻ると言ったが、涼子は一人で大丈夫だと言って、駆けだした。
店に戻ると、智子が、微笑んで小さな紙袋を掲げた。
「これでしょう?」
涼子は紙袋を受け取り礼を言うと、そそくさと出口へ向かった。涼子が、店を出ようとすると、智子が涼子を呼び止めた。
「あなた達、お似合いよ。きっと。素敵なカップルになれるわ」
智子には孝太と温子の関係を話している。なのに、智子は孝太と涼子がお似合いのカップルだと言ったのだ。涼子は、顔が一気に赤くなっていくのを感じた。




