39.ありのままの姿ほど美しいものはない
39.ありのままの姿ほど美しいものはない
CIPの部室では、伸一と望が模擬店の配置を検討していた。温子と涼子がリサーチした構内の配置図を元に、出店予定の模擬店リストから魔法の配置を完成させるためだ。
伸一の理論はこうだ。
コンビニエンスストアに行くと、ついつい余計な物を買ってしまう。それには、誰もがはまる魔法の法則があるというのだ。
まず、二つのメインストリートを設置する。一つは目的が明らかな物を入口から正面の奥に置く。コンビニエンスストアの場合は、弁当だ。その脇には、総菜コーナー、デザートコーナーを設置する。その向かい側にはパンやカップ麺等のサブ食品で二次攻撃をかける。もう一つは、長時間店にある程度の人数を引き留めておく場所。人の心理として、賑わっているところにはついつい行ってみたくなるものだ。それに該当するのは雑誌コーナーだ。これは、入口のすぐ脇で、外から見える場所。この二つのメインストリートの中に、菓子や雑貨などのコーナーを設けることが無意識のうちに、物を買わせる鉄則だと伸一は分析している。更に、レジカウンターのそばに、安くて魅力のある賞品を配置する。ほかほかのホットドックやばら売りの団子などがこれにあたる。
これに基づいて、バザーの模擬店を次々と配置していく。幸い、今回、地元商店街に出店を要請できたのは、メインの学生の作品と関連づけをしていく上で、非常に好都合だった。
「よし、大筋は大体こんなもんだろう!」
伸一が、配置図を広げて満足そうに言う。望も、納得といった顔で伸一を見た。
「良介のヤツ、うまくやってるかしら?」
「部長なら、大丈夫ですよ。“ファントム”のプロデューサー連中も部長には一目置いてますから」
「そうね!それだけが取り柄みたいなヤツだものね」
ロケ班を除くたいていのスタッフが、“HIRO”でくつろぎながら、時間をつぶした。辺りはすっかり日が暮れて、かすかにオレンジ色の光が窓から射し込んでくる。
良介は、何人かのスタッフとママの博子に、ロケ班に食べさせるためのサンドイッチを用意して貰っている。
そして、薫と智子は、既に工房へ向かった。
「プロデューサー、用意が出来ました」
ママの博子を手伝っていたスタッフの一人が、良介に告げた。
「さて、最終段階に突入しますか!」
良介の一声に、スタッフは全員立ち上がった。良介は、ママの博子に礼を言うと、白紙の小切手を置いて店を出た。
工房に着くと、ロケ班は既に準備を済ませ、一服しているところだった。差し入れのサンドイッチを渡すと、皆、むさぼるように食べ始めた。
良介は、一通り確認を済ませると、ロケ班に合図した。
「お疲れさま」
とりあえず、これでロケ班はお役ご免だ。撮影が終わったら、機材の片づけは専門のスタッフがやることになっている。スタイリストの三浦が、良介の脇に来た。
「こんな仕事は、初めてだわ。社長が言うように、大学なんかに行かせておくのは、本当にもったいないと思いますよ」
「よして下さいよ。三浦さんまで」
カメラマンの葛西が、良介に合図をした。
「いつでもどうぞ。プロデューサー」
良介は薫と智子を呼んだ。智子は、リーバイスのつなぎに、NIKEのTシャツを着ている。薫は、自前のジーンズと無地の白いTシャツだ。
良介が撮影の段取りを、二人に説明すると、二人は頷いて、位置に着いた。
美術スタッフが最初の小道具を設置した。ブロンズ像の原型となる粘土の固まりだ。
良介がカメラマンの葛西に合図し、カメラが回り始めた。ロケ班がセットした、固定レールに乗って、ゆっくりと二人の周りを回り出す。
薫と智子は、粘土の固まりを馴れた手つきで一つの作品に仕上げていく。
続いて、同じ形の、既に仕上がっている粘土に石膏で型を取る。
次に、これも予め用意されていた、同じ形の石膏の型に銅を流し込む。
さらに、既に固まった、ブロンズ像が用意される。二人はそれに着色していく。
作品が完成する。
一連の流れを、全てカメラに収めながら、良介は、2台のモニターをずっとチェックしていた。
「カーット!」
良介は、両手を頭上で大きく○の字を作り、OKを出した。外は、うっすらと明るくなり始めていた。薫は工房の床に大の字になった。智子も、その場に座り込み、天井を見上げた。間もなく、スタッフが後片付けに取り掛かった。良介も、二人のそばに腰を下ろした。
「どんな役者の演技よりも、ありのままの人間の姿ほど美しいものはないんだ。それを今日、君達が証明してくれた」
良介は二人に、何が一番大切なのかをさりげなく話した。




