3.三人ひろせ
3.三人ひろせ
日下部良介は指をパチンと鳴らしてから、孝太に右手を差し出し握手を求めた。
「ひろせ君よろしく。君も今から僕らの仲間だ」
ためらっている孝太の右手を、半ば無理やり掴んで握手をした。
「これは運命だよ。今日ここでボクに会ったことを必ず感謝する日が来るよ!」
孝太は一方的な展開に憤りを感じながらも、CIPへの入部を承諾するしかなかった。
だが、まぁいい。
この日下部良介という男、付き合っておいて損にはならないかもしれない。イベントプロデュースというのも、いい経験になるだろう。要は、ボクがこれから、それを、どう生かしていくかだ。そもそも、どの倶楽部で何をやるかということより、どんな人間とどんな付き合いをするかということが重要なんだ。
「よしっ!これから4人で飯でも食いに行こう!腹へっているだろう?」
日下部良介が二人の女の子の背中を押しながら歩き始め、孝太の方を振り返ってウインクをして見せた。
もっとおしゃれなカフェみたいなところを想像していた。
そこは学校の近くの小さなビルの1階にあった。出入口の引き違いドアの脇の外灯に、ペンキで直接『大学堂』と店の名前が書かれている。いかにも学生相手の定食屋といった感じの店だった。
「おや?今年は3人も入ってもらえたのかい?」
白い割烹着に三角巾をした50歳くらいの、いかにもお節介が好きそうな、その女店員は、日下部達が店に入るなり、なれなれしく声を掛けてきた。
店の中は、日下部と同じように新しい部員を獲得した学生達で賑やかだった。
「そうさ!そのために今年は、合格発表のこの日に、わざわざ出向いたんだから」
そう言って、孝太と二人の女の子を奥の座敷へ案内した。入って右側に厨房があり、それに接したカウンターに10席ほど、中央から左側が4人用のテーブル席になっている。テーブルは中央に三列、左側に三列あって左側のテーブル席の壁際は、ベンチ式のイスが一列に備え付けられている。その奥に座敷があり、6~8人程度が座れる座卓が置いてある。
女の子二人と孝太を座卓の向かい側に座らせて、日下部良介は手前側に陣取った。
「今日はボクがごちそうするから、何でも好きなものを注文するといい。安くてうまいのがこの店の売りなんだ。中でもハヤシライスは絶品だよ」
まるで、自分の店であるかのように自慢しながらメニューを渡した。女の子達はメニューを一通り眺めたあと、ハヤシライスを注文した。孝太もそれに倣った。
日下部良介が、大きな声でカウンターの奥の厨房に向かって叫んだ。
「ハヤシ4つ。二つは大盛りでね!」すると、厨房から主人が野太い声で「ハヤシ四丁、大二丁毎度あり~」と繰り返し、注文を確認した。
「大盛り?ですか…」孝太が尋ねると、日下部良介はウインクをして見せた。
「そう!ボクと君の分ね。食べられるだろう?あっ!君たちも大盛りがよかった?」女の子二人にも冗談半分で尋ねたが、二人の女の子は声を揃えて「いいえ、大丈夫です。」と首を横に振った。
日下部良介は、孝太に二人の女の子を紹介した。
「彼女たちは、同じ高校の同級生なんだそうだ。」
「初めまして」孝太のとなりに座っていたショ-トカットの方の女の子が向き直り、軽くお辞儀をして言った。
「廣瀬温子です」
「えっ?ひろせって?」孝太は彼女の名字が自分と同じ“ひろせ”と聞こえたのでちょっと驚いて聞き直した。
「そう!同じなんですよ。でも、私は難しい方の“廣”なの。“ひろせ”さんもそうかしら?」
「残念!ボクは“広“の方なんだ。」
たとえ字が違っても、同じ名字なんて何かの運命なのか…。だとしたら、もう一人の子と一緒だったら良かったのに…。と思いながら続けた。
「だけど、こんなかわいらしいお嬢さんと同じ名字なんて光栄です。」
そう言って、顔を赤らめた。
「そう!ちょっと残念」
そう言って、廣瀬温子は、もう一人の女の子と顔を見合わせながら、ニヤニヤしている。孝太はふと、我に返り、“軽いヤツ”だと思われたかな?と後悔した。
実は、彼女たちはそういうことでニヤニヤしていたのではなかった。そのことが分かったとき、孝太はもっと驚いた。
続いて、もう一人の女の子が孝太の方に向かってお辞儀をした。
「初めまして。広瀬涼子です」




