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34.生け贄

34.生け贄


 CIPの部室には、全メンバーが揃っていた。伸一が、今回の、むさ美のバザーに関する企画書を配っている。良介が、その企画書を見て口を開いた。

「よし!これで行こう!」

伸一が立てた企画はこうだ。まず、宣伝について。沿線の各大学に協力を依頼し、ポスターや催し物のチケットを配布して貰う。バザーで、地元商店街のセール情報などを流すことで、商店街に集まった客を、回して貰う。この辺は、まあ、どこでもやっていることだろうが、伸一の企画には、こんな作戦もあった。ある有名人がお忍びでやってくるという、噂を流すのだ。噂に登場させるのは、あらゆる世代の人が興味を抱くであろう、数人の有名人をリストアップしていた。最終的に、誰かが、来ていればただの噂ではなくなり、次回以降の集客にも繋がる。実際、“氷室あすか”という秘密兵器もあるが、伸一は、それは使わないと言う。自分のコネで、あっと驚かせる人物を連れて来るというのだ。

 次に、会場のレイアウト。これは、伸一が独自に分析した、人が思わず物を買ってしまう法則を巧みに取り入れた物だった。

 最後に集客の目玉だが、伸一は、ここに、江藤智子を持ってくることにした。このことで、バザーをただの金儲けのイベントというだけでなく、むさ美を、その世界での登竜門だというイメージを定着させるという。

他にも、地元メディアを中心とした、マスコミ関係への手回しも、抜かりがなかった。

「一つだけ聞くが、その江藤智子の協力は当てに出来るんだな?」

「まだ確約は取ってないけど、彼女の協力無くして、この企画の成功はあり得ないから、しばらくは“HIRO”に通うことにするよ」

「とか、何とか言って、本当はそこの美人ママが目当てなんじゃないのか?」

鵬翔のツッコミに伸一は、顔を赤らめ、反論した。

「バ、バカなことを言うなよ。俺はただ…」

望は、あきれた顔をしたが、温子と涼子は吹き出して、笑い転げた。

「へえ~、そこのママってそんなに美人なのか?俺も会ってみたくなったなあ」

良介が、ぶっきらぼうにそう言うと、望は、良介を睨み付けた。

「バカ!」

そう言って、良介に持っていた消しゴムを投げつけた。

「孝ちゃん、ちょっと、私に付き合ってくれない?」

そう言って、望は席を立ち、とっとと部屋を出ていってしまった。孝太は、みんなの顔を見回したが、揃って目をそらした。こういうときの副部長は、とても恐ろしいのだと、皆、知っていたからだ。仕方なく、孝太は望の後を追った。部屋を出るとき、良介が両手を顔の前で合わせ、ウインクしているのが見えた。


 孝太が“大学堂”に来たのは、合格発表の時以来だった。あの時の女店員が、ビールケースの上から注文用のメモ用紙をつかみ取って近づいて来た。

「あら、望ちゃん、今日は若い子とデートかい?」

「そうね。それもいいわね。あのバカに比べたら、年下の男の子もいいかもね…。それはさておき、ハヤシ大盛りでお願い。孝ちゃんも好きな物頼んでいいわよ」

孝太はあまりお腹が減っていなかったので、コーラを頼んだ。

「あら、ビールにしなさい。おばちゃん、コーラじゃなくてビールにしてちょうだい。グラスは二つね」

「はいよ!」

そう言って、女店員はビールケースからラガーを一本とグラスを二つもってきた。

望は、早速、孝太のグラスにビールを注ごうとした。孝太が怖じけずいていると、「はやく!」とグラスを持つように催促した。

孝太にビールを注ぐと、持っていたビール瓶を孝太の前に置き、グラスを差し出した。 結局、ラガーを二本、ほとんど望が飲み干した。更に、大盛りのハヤシライスをぺろりと平らげると、恐怖の時間が始まった。

孝太は、この後、日が暮れるまで、望の愚痴を延々と聞かされたのだった。

途中、心配した温子と涼子が店を覗きに来た。孝太もそれには気が付いた。けれど、望が振り返ると、二人はすぐにドアを閉めて立ち去ってしまった。


 温子と涼子は、武蔵野台美術大学の銀杏並木の下を歩いていた。

「考ちゃんったらかわいそうに…」

温子が呟く。涼子も頷いて、大学堂を覗いたときの光景を思い出した。向かい側の席で、小さくなってかしこまっている孝太の前で、酔っぱらった望がくだを巻いている。テーブルをドンと叩いて、ビールの入ったグラスを一気に飲み干していたのだ。とてもじゃないけれど、二人は顔を出したところで何の役にも立てそうになかった。


大学堂では望みの不満が最高潮を迎えようとしていた。

「聞いてるの?あなたもそう思うでしょう?どうして、あのバカはいつもああなのかしら」

もちろん良介のことを言っているのだが、それを孝太に言っても仕方ないことは明らかだった。けれど、望は、月に一度“あの日”が近づいてくるといつもああなる。

孝太に、温子、涼子も話しには聞いていたのだけれど、実際に目の当たりにするのは初めてだった。


 温子と涼子がそんな孝太を憐れんでいたその時、正面から、見覚えのある顔が近づいてきた。

「やあ、お二人さん。こんなところで何をしているんだい?まさか、なぐり込みじゃあ、ないだろうな?」

皆川亨だった。石川若葉と、米村綾も一緒だった。

「失礼ね!誰が誰を殴るって?」

温子が亨に顔を突きつけて文句を言った。

「だって、うちの藤村とあいつを取り合ってるんだろ?」

若葉と綾が、顔を見合わせて、きゃーきゃー騒ぎ出した。

「何を言っているの?彼女とはとても仲良しなのよ。まあ、あの日以来、会ってはいないけれど…」

「よし、ちょうどいい。今から、そこの彼女のそっくりさんに会いに行こう」

そう言って、涼子の方をチラッと見た。

「残念だけど、そんな暇はないのよ。リサーチしなくちゃいけないの」

「リサーチ?」

「そうよ!ここのバザーの企画を請け負ったのよ。CIPで」

「そうか、薫がお友達に頼んだんだな」

「お友達だかなんだか知らないけれど、忙しいの。だから、あなたにかまっている暇はないの」

そう言うと、温子は、涼子の腕を引っ張って、亨達の元を早足で離れて行った。







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