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2.運命の出逢い

2.運命の出逢い


そんな風に、将来の自分を想像しているところへ、背の高いスラッとした男が現れた。

「やぁ、よく来てくれたね」

綿のパンツに白いポロシャツ、エンブレムの入ったブレザーを羽織ったその男はそう言うと伊達めがねの真ん中を左手の中指で押し上げた。

 

ほんの2週間ほど前、この辺りには一喜一憂する受験生達と、彼らを獲得するために、さまざまなパフォーマンスを繰り広げている倶楽部のスカウト達が溢れていた。

この年はもう3月のはじめだというのに、まだコートが手放せないくらい寒かった。彼も、学生服にベージュのコートを着込んで、首からマフラーを垂らしていた。

人並みをかき分けながら、まだ枝しか見えない桜並木を抜けて、本館の前に出ると合格者の番号が貼り出された掲示板がある。合格したと見える男の子が、友達に胴上げされて歓喜の声を上げている。不合格だったらしい女の子が、付き添いの母親の胸に顔をうずめて泣いている。

テレビのニュースでよく見かける光景だが、あれはニュース画像のために、芝居でもやらせているのだろうと思っていたが、実際にそんな光景を目の当たりにしてちょっとビックリした。

ようやく掲示板の前までたどり着くと、合格者は学部別に分けられて貼り出されていた。経済学部の掲示板の前まで行くと、自分の番号を確認してから、掲示板に目を移す。あった。自分の番号が確かにあった。にわかに喜びがこみ上げてくる。

やるべきことは全てやった。そこそこの自信もあった。合格していても、派手に喜んだりはしない。さらりと引き返そう。そう思っていた。しかし、無意識のうちに小さくだが、左手でガッツポーズをしてしまった。向こう側で、喜びを余すことなく表現している彼らの気持ちがよく分かる。


 声を掛けてきたのは、長身の男だった。

濃いグレーのパンツにカラフルなシャツを着てブランド物のパーカーを羽織っている。

「合格おめでとう!」

左手の中指で伊達めがねを押し上ながら彼は自己紹介を始めた。

「おれは日下部(くさかべ)良介(りょうすけ)。経済学部の四年になった。そして、ガレッジイベントプロデュース部、略してCIPの部長をやっている。CIPというのは文字通り、他の大学も含めて、学園祭やら体育祭やら、とにかく学生がやるイベントなら何でもプロデュースする、いわば会社みたいなものさ。よかったら、一緒にやらないか?」

日下部良介の第一印象は、いわゆる…“いかにも大学生活を謳歌している学生”の典型でもあり、裕福な家庭で何の不自由もなく生きてきた“お坊ちゃま“という感じがした。

きっと、女の子にも、もてるのであろう。

彼の話、イベントのプロデュースというのと、他の大学のものも、という話しには少し興味を覚えた。将来役に立つであろう“人間関係”を築いておくためにだ。

そして、気になったのは日下部良介の後で、無理やり引き込まれたらしい二人の女の子だった。その内の一人には特に驚いた。紺のダッフルの下に白い手編みのセーター、ジーンズに革のブーツ、そして、これも手編みのいかにも暖かそうなマフラーを首に巻き付けた女の子だ。一見、おとなしそうではあるが、きりっとした表情の“美人”だった。

もう一人の方は、シュートカットでジーンズにスニーカー、赤いスタジアムジャンパーを着ていて、活発そうで、どちらかというと“可愛らしい”感じの女の子だった。

「君は…」

彼女達に見とれている間、一瞬、別の場所に意識が飛んでいたが日下部良介の声に、我に返った。

「君は、もう、どこか入るところが決まっているのかい?」

女の子の見とれていたことを悟られはしなかったかどうか気がかりではあったが、彼の問いに応対した。

「べつに…」

子供の頃からスポーツというものには縁がなかった彼は、今更運動部に入ろうという考えはなかったが、なにか今後の役に立ちそうな人付き合いの出来そうな倶楽部には、入っておこうと思っていた。

「べつに決まっているわけではないけど…」

言い終わるより先に日下部が次の言葉を繰り出した。

「そうか!じゃぁ話しは早い。CIPに入りなよ。この子達も今日から仲間だ」

後にいた二人の女の子の肩をポンと叩いてウインクをして見せた。どうやら、日下部良介は彼の下心に気がついていたらしい。

「まずは、君の名前を教えてくれないか?」

自分の気持ちを見透かされていたことに気まずさを覚えながらも名を告げた。

広瀬(ひろせ)(こう)()

だが、まだ入ると決めたわけではない。







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