25.諦めるのにはまだ早い
25.諦めるのにはまだ早い
孝太は、ボウリングをしながら、CIPのメンバーに知美のことを説明しつつ、知美にもCIPのことを説明したりで、ボウリングのスコアの方はさっぱりだった。
そもそもボウリングをやったのは、今日で2回目だったのだから。最初の1回は知美と明弘と三人で行った。
逆に、知美はストライクを3回出して165を出した。これは、13人のメンバーの中で良介の221、皆川の198、鵬翔の187についで4番目の成績だった。
勝負の方は、人数が違うのでメンバーの平均アベレージで武蔵野台美術大学に軍配が上がった。聖都は良介と鵬翔以外は100を越えるか越えないか程度で、孝太に至っては64と散々なものだった。武蔵野台は、ほぼ全員120以上だったが、司だけは孝太と同じでボロボロだった。勝負に負けた聖都は、後日、良介が“F&N”に招待すると約束して解散した。
デザイン科の教室では司が元気なくボーっと窓の外を眺めている。
「ボウリングになんか行くんじゃなかった」
知美は、きっと孝太のことが好きなのに違いない。もし、あの日、孝太に会いさえしなければ…。そう思うと、気が滅入るばかりだった。
知美は、ようやくパソコンの基本操作をマスターしつつあった。司も付きっきりで知美の指導をする必要もなくなった。もともと、司が一方的に知美に一目惚れしていただけのことだったのだ。知美にしてみれば、ただの親切な先輩以外の感情は持っていなかった。それは、やっぱり、孝太のことがずっと気にかかっていたからだった。ボウリングに行ってからというもの、知美はなんだか毎日が楽しそうに見える。司は、今まで自分と接していたときより、楽しそうにしている知美の姿を見ているのがとても辛かった。
「知美、なんだか最近とても楽しそうだね。なんかいいことでもあった?」
そう尋ねてきたのは、同級生の河合洋子だった。
「うーん。ちょっとね。高校の時、魅かれていた人に偶然会ってね…。ねえ、洋子、聖都大学のCIPって知ってる?」
「CIP?」
洋子は首を傾げて続けた。
「CIPはともかく、その人って聖都なの?すごいじゃん!」
羨ましそうに言う洋子を見て、知美も得意気に話しを続けた。
「そうなの。高校の時にすごく頑張っていたから。それで、CIPって言うのはね、カレッジ・イベント・プデュースの略でね、この辺の大学のイベントを一手に取り仕切っているんですって。そこの日下部良介って人は業界でも注目されている有名人なんだって。すごいでしょ?」
洋子も興味津々と言った感じで、知美の話しに耳を傾けている。
「それで、あなたの彼は、その日下部って人なの?」
「違う、違うよ。それに、彼だなんて…」
「あら、違うの?」
「そうよ。まだ付き合っているわけではないもの。それに、広瀬君には今、別にお付き合いしている彼女がいるわ」
「へぇ~、広瀬って言うんだ。彼」
「だから、違うってばあ」
「だけど好きなんでしょ?その“広瀬君”って人のこと。なんだか、羨ましいわ」
そんな、知美と洋子の会話が、いやでも耳に入ってくる。司は、突っ込んだジーンズのポケットの中でこぶしを握り締め、心の中でつぶやいた。
「クソッ!」
そして、教室をあとにした。知美と洋子は、呆然として司が出ていくのを見送った。
「わかりやすい人ね。横山先輩って。ねえ、知ってた?横山先輩、知美のことが好きなのよ。だから、最近、知美が楽しそうにしているものだから、やきもち焼いているのね」
洋子にそう言われて知美は驚いた。
「まさか?」
洋子は、“やれやれ”と言った表情で、話しを続けた。
「ねえ、先輩が新学期になって初めて教室に顔を出した日のこと覚えている?あなたに気が付くや否や、まっすぐにあなたのところへ行ったでしょ?そして、その時言ったせりふを覚えている?きっと、知美、あなたに一目惚れしてしまったんだと思うわ」
知美は、その時のことを思い出していた。そう言われれば、思い当たる節もある。
「そんなぁ…。私はただ…」
知美は、自分のせいで司を傷つけてしまったのかも知れないと思い、少し自己嫌悪に陥った。
「そんなこと分かっているわよ。誰が見ても横山先輩の片思いだと言うわ。それに、先輩は思い込みが激しいタイプみたいね。だから落ち込み方も半端じゃないのよ。いい?知美、下手に慰めようなんて思わないことよ。そんなことをすれば、余計に話しがややこしくなるわよ。」
屋上のペントハウスの扉が開いた。出てきたのは、皆川と小田切だった。二人は、屋上に出てくると、振り向きざまに叫んだ。
「いた、いた。やっぱりここだったな。」
司は、皆川達の声には気が付いたが、無視して、武蔵野の森の景色を眺めていた。すぐに、皆川がタラップを登って、ペントハウスの屋根に上がってきた。続いて小田切も上がってきた。司は屋根の床にあぐらをかいて座っていた。
「こりゃまた、ずいぶんご傷心のようですなあ」
司は無言のまま身じろぎひとつしない。皆川は構わず続けた。
「まったく、お前も進歩のないヤツだなあ。もう少し大人になれ。熱く燃え上がるだけじゃあ、恋なんて出来ないぞ。」
そう言って、司の横に腰を下ろした。司は相変わらず、遠くの景色を無言で眺めている。
「明日はお前も来るだろう?」
明日は良介が“F&N”に招待してくれる日だった。司は何も言わない。
「まあ、いいや。それより、あの時、藤村さんにそっくりな子が居たのを覚えているか?もし、本当に藤村さんがあの広瀬ってヤツのことを好きだって言うのなら、そいつが付き合っているのが、そのそっくりな子じゃなくてキャピキャピした方なんだから、藤村さんにそっくりな子はタイプじゃないんだ。ということは、藤村さんはあいつのタイプじゃない。藤村さんだって、そんな状況が続けばいつかは諦めるんじゃないか?まあ、ただ待てというのも芸がないけれど、お前が諦めてしまうのは早すぎると思うけどな。そんなに逃げてばかりいたんじゃあ、前には進めないぞ!」
それだけ言うと皆川は、立ち上がってタラップを降りていった。
「そう言うことだ。元気出せよ。俺達も応援するからさ」
そう言って司の肩をポンと叩くと、小田切も皆川に続いて、ペントハウスを降りていった。
「明日、必ず来いよ」
ペントハウスの下の方から皆川の声が聞こえた。それからすぐに、扉の閉まる音がした。司は、しばらく動かなかったが、やがて立ち上がって、ペントハウスの屋根から飛び降りた。
「そうだな!前に進まなきゃ。」




