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23.一目惚れ

23.一目惚れ


 藤村知美は、東京の美術大学に進学した。大学は郊外にあり、下宿先も大学のそばにあった。母親の学生時代の友人が営む下宿で、女性のみ受け入れている。

武蔵野台美術大学は、聖都と同じ私鉄の沿線にある。聖都からは、急行で3つ先の『武蔵野の森』駅が最寄り駅になる。

 知美はデザイン科でコンピューターグラフィックスを専攻している。小さい頃からアニメーションが大好きで、セル画を集めるのが知美の趣味だった。特にディズニーなどのアニメ映画ものは通信販売や専門雑誌の情報を元にアメリカのコレクターとも売買をするほど熱の入ったものだった。将来は、こういったアニメの製作会社に入って、キャラクターデザインなどをやりたいと思っている。


 教室には、最新のコンピューターが10台ほどと、それに関連した周辺機器がずらりと並んでいる。もちろん知美はコンピューターに触るのは初めてで、まして、これほどの設備は見たことさえなかった。知美と一緒に大学へ入ってきた連中も、ほとんどがそうであった。まずは基本的な操作を覚えることが、当面の目標だった。

 この日も、パソコンに向かって奮闘している。知美のそばには、1年先輩の横山司よこやまつかさが付っきりで指導している。

「藤村君、なかなか物覚えが早いね」

「当たり前です!いつまでもこんなことに時間を掛けていたら、私、何をしにここへ来たのか分からないわ」

「そりゃそうだ!」

そう言って笑う横山司は藤村知美を“とっておき”の後輩、そう確信している。言ってみれば一目惚れというヤツだった。


 新学期が始まってすぐに、司は風邪をこじらせて寝込んでしまっていた。久しぶりに、教室に顔を出したときに、知美を見て一目惚れした。司には、何人もいる女の子達の中で、彼女だけが輝いているように見えた。

 薄いブルーのカーディガンに白いコットンパンツ。大きめの襟の白いブラウス。

まっすぐに肩まで伸びた黒い髪。

「新人さん達、まだ見ぬ先輩のお出ましだよ」

横山が出てきたのを見つけて、教授の二階堂が新入生に声を掛けた。

一斉に振り向く新入生達。

髪をなびかせ、振り返る彼女。

その瞬間は、スローモーションのようにくっきり司の目に焼き付いた。色白でキリッとした瞳、スッと通った鼻、薄い唇の奥にちらっと見える白い歯、無表情だが確かな意思を感じる顔立ち。司は、吸い込まれるように彼女の顔を見つめた。

「運命だ!」口には出さなかったが、そう思った。

司の頭の中には、ヴェートーベンの交響曲第5番が鳴り響いていた。そしてすぐに脳から命令が下った。

「彼女をものにするために、あらゆる努力をせよ!」

脳からの命令に司の身体は即座に反応した。司は、真っ直ぐに彼女の前に向かって歩き出した。

「やあ!初めまして。横山司です。君は?」

彼女は、少し驚いた様子だったが、すぐに、落ち着いて、応えた。

「初めまして。藤村知美です。宜しくお願いします」

「よしっ!わかった。藤村さん!君が卒業するまでの4年間、ボクがキッチリ面倒見るよ」

そんなやり取りを聞いていた二階堂教授が口をはさんだ。

「3年間じゃないのかね」

と。司は笑みを浮かべて、ちらっと二階堂教授の方を見た後、知美の目を見つめて、言い放った。

「いいえ、4年間です!彼女が立派に巣立っていくのを見届けるためなら、1年くらい留年してもいい」

「バカか?お前は。そんなことじゃあ、一生卒業なんぞできんかもしれんな」

二階堂教授はあきれた顔をしてデスクの椅子に腰を下ろした。他の学生達は一斉に笑い出した。

「さあ、今日はこの辺にしようか」

二階堂教授がそう言うと、学生達は一斉に「お疲れさまでした」と挨拶をし、それぞれに教室を出ていく。知美は、その後もパソコンのそばを離れようとはしなかった。

「まだやるのかい?」

背中越しに司の声が聞こえたが、振り向きもせずに、知美は答えた。

「ええ。もう少しだけ」

司は知美の隣の席に腰を下ろして、パソコンの画面に目を移した。

「じゃあ、俺ももう少し付き合うか!」

「先輩、気にしないで下さい。本当にあと少しだけですから」

「だったら、なおさらだ。付き合わせて貰うよ」

 司と知美は大学の正門へと続く銀杏並木の下を歩いていた。後から、司の同期の皆川(みながわ)(とおる)が近づいてきた。女の子を二人連れている。

皆川は、油絵を専攻していて、二人の女の子は同じ科の後輩になる。額を出して、髪を後に束ねた娘はスポーツキャップを被っていて、なかなか活発そうな娘だ。

もう一人は、ショートカットでジーンズの上下を来ている。

「よう!これからボウリングに行くんだけど、お前らもどうだ?」

亨が司達に声を掛けた。司は、知美の顔を見て少し考えたが、たまには気晴らしもいいだろうと思い、知美を誘ってみた。

「どう?たまには気晴らしに付き合ってみるかい?」

「いいわよ。私、けっこうやるわよ。」

「よしっ!決まりだな。かおるが向こうで待ってるから、早く行こうぜ。」











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