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20.事の顛末

20.事の顛末


良介は、ヨタヨタしながらタクシーを追いかけた。

「なんだ?お前ら、付き合い悪いじゃないか」

そう悪態をついて、走り去るタクシーに向かって足で蹴飛ばす仕草をした。そして、望を振り返った。

「望は付き合ってくれるよな?」

そう言って、通りかかったタクシーに向かって手をあげた。タクシーが止まった。二人はタクシーに乗り込んだ。

「さて、どこに行こうか…。とりあえず、六本木の方へやってくれ」

運転手に指示をすると良介は望に寄りかかった。5分もしないうちに良介は、熟睡してしまった。

「すいません。行き先を変えてもいいですか?プリンスホテルまでお願いしたいんですけど」

望はタクシーの運転手に行き先を変更するように頼んだ。運転手は、ちらっとミラーを見て酔いつぶれた良介を確認すると、控えめな笑みを浮かべて頷いた。タクシーは程なく、プリンスホテルのアプローチに入っていった。

望は、良介の体をゆすり「良介、着いたわ。起きて!」と怒鳴ったが、良介は一向に起きる素振りを見せない。仕方なく、タクシーの運転手に手伝って貰い良介を引きずり出した。ホテルのボーイがすかさず、そばに寄ってきて手を貸してくれた。しかき、一人では手に負えないと思ったのか、一旦フロントの方へ駆け戻り、マネージャーを連れて戻ってきた。

「七瀬です。この人を部屋まで運んでおいて下さい。」

マネージャーにそう言うと、タクシーの運転手にチケットを渡してから、後を追った。エレベータの前で、追いつくと、一緒にエレベーターに乗り込んだ。

マネージャーが、部屋のキーを望に番号が分かるように示すと、望は36階のボタンを押した。部屋の前まで来ると、望はキーを受け取り部屋の扉を開けた。良介をマスターベッドルームのダブルベッドに寝かせると、ボーイとマネージャーは、望に一礼して部屋を後にした。

 とりあえず、望みはシャワーを浴びた。

良介は起きる気配が一向にない。冷蔵庫からカンパリソーダを取り出し、一口飲んだ。しばらくの間、ベッドで横たわる良介を見ていた。時折、寝返りを打っては、なにやらうめいている。

「これじゃあ、何のための作戦だったのか分かりゃあしないわ」

そうつぶやくと、ゲストルームのベッドに一人で潜り込んだ。

 明け方、目が覚めた良介は、一瞬、ここがどこで、どうしてここにいるのか理解できなかった。

時計を見た。4:56。

夕べのことを冷静に思い返してみる。

“F&N”を出て、誰もいなくなったから望とタクシーで六本木に行こうとした。タクシーには確かに乗った覚えがある。それから先の記憶がどうしても思い出せない。

「望はどうした?」

良介はマスターベッドルームから出て、キッチンに向かい、冷蔵庫からコカ・コーラを1本取り出した。栓抜きで、線を開けると、一口飲んだ。カウンターに飲みかけのカンパリソーダがある。口紅の跡がついている。

どうやら、望も一緒にここへ来たことは間違いないようだ。ゲストルームの扉を開ける。望は一人で寝ている。そっとドアを閉めると、コカ・コーラのビンを持ってバルコニーへ出た。空はうっすりと明るくなりつつある。外の空気は、まだいくらか肌寒い。

コカ・コーラを一気に飲み干してから、マスターベッドルームへ戻った。少し頭痛がする。

「やっちまった」

そうつぶやいて、再びベッドに潜り込んだ。

 アラームがなった。8:30。

望は、ベッドから出ると、服を着替えてマスターベッドルームの扉を開けた。

「良介、起きてる?私、先に帰るわよ。」

良介からの応答はない。そのまま、マスターベッドルームの扉を閉めるとバッグを手にとり、部屋を出た。フロントで精算を済ませると、地下鉄の駅まで歩いた。

 良介は眠っていたわけではない。ばつが悪くて寝たふりをしていたのだ。部屋のドアが閉まる音を聞き届けてからバスルームに入っていった。


 あすかは、モッツァレラチーズをひとかけら摘むと、口に放り込んだ。

「それで良介をおいて一人で帰ってきたわけね」

「そう!あなた達の作戦は見事に失敗したわ」

望は二杯目のマティーニを飲み干した。







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